隠し事は出来ない
別れ際、シオン様はお近付きの印と言って手に持っていた黄色いゼラニウムの花を渡してくれた。
ほんの数分話しただけだけれど、少なくとも一部の噂で耳にしたような苛烈な感じもなく、【乙女】という肩書から連想されるような摩訶不思議で壮大な雰囲気を醸し出しているというわけでもなかった。その美貌と言動から、神秘的なオーラを纏ってはいたけれど。
「あまり時間が取れず残念でしたね。けれど、【花の乙女】であるシオン様との初めての会話ですから、何か得たものがあったのではないでしょうか」
帰りの場所に揺られながら、対面に座ったアレン様が尋ねてくる。
「いえ。初めての王宮に、陛下の謁見もあって……、ずっと緊張していて、今日のことは全て何が何やらといった感じで。でも、初めてお会いしましたが、シオン様は素敵な方でした。想像していたよりもずっと親しみやすくて」
「それは良かった。……でも、コトハ嬢とは知り合ってから長いですが。これからは私とも親交を深めていただけたなら嬉しいですね」
「え……」
アレン様の視線が窓の外へと逸らされる。耳の端が赤く色付いているのは、私の願望がそう映し出しているだけだろうか。
『ことのばーか、ばぁか』
帰宅して、私室で寛いでいたのだが。いきなり繋がった通信の向こう側で、ぶすくれた様子のしおちゃんが悪態をついてくる。
「しおちゃんほど頭は良くないけど、ばかはやめてよ」
何故にこうまで不機嫌なのか。心当たりがないので、とりあえず馬鹿呼ばわりには抗議をしておく。まさか、内緒で王宮に行ったのがバレているわけでもあるまいし。
『……なんか私に隠し事してない? 親友に隠し事をすることみは、ばかだと思うんだけど』
「…………そんなに態度に出ちゃうかなあ」
平静を心掛けていたのに。親友の洞察力の前では、それも形無しだ。
『で? どんな悪さをしてきたのさ。大体想像は付くけどね』
「実はね……」
隠し事があると確信しているようだったので、私も観念して今日の出来事を話し始める。尚更機嫌を損ねてしまうかもしれないけれど、陛下からのお声掛けに応じるしかなかったのは、しおちゃんも分かってくれるはず。
『…………ふーん』
「思ってたよりあっさりした反応なんだけど」
『言ったでしょ、大体想像は出来るって。シオンにも言われたなら国王やアレンとは距離を置きなよ。っていうか、ランドルフと行けば良かったのに』
「無茶言わないでよ、陛下からアレン様にお話があったんだから。……畏れ多いし、陛下には必要以上に接触しようなんて思ってないよ」
『陛下には、ね。まあ良いか。でも、忘れんなよ。国王はスズメバチ。アレンだって蛾かもしれないんだからな』
「しおちゃんまで人を虫に例えないでよ……」
シオン様は【花の乙女】であることに加えてあの美貌だ。男性に付き纏われ、煩わしく思った経験があってのあの発言だったのかもしれない。
『ま、君子危うきにはなんとやらってこった。レベル上げは落ち着いてるか? 【乙女】だからって仕事だけしなきゃいけないわけでもないんだから、絵でも描いてたまには息抜きもしておけよ』
「そうだね。今日は疲れちゃったし、急ぎの依頼もないから、そうする」
風景画を描くのは、前世からの趣味だ。最近は目まぐるしくて落ち着かない日々だったから、久し振りの気分転換に良いかもしれない。
通信が切れたのを確認して、その後は引き出しにしまい込んでいた画材を取り出して、窓際から見える風景を書き写して過ごした。




