【花の乙女】シオン
花々の中に囲まれた、黒髪の少女。後ろ姿だけれど、その凛とした佇まいから、【花の乙女】であるシオン様だと確信した。今は、ゼラニウムを愛でていたらしい。そういえば、ランドルフ様から贈られた花束の中にも入っていた。
シオン様のお力なのか、この庭園も、頂いた花束も、この時期には通常見ることが出来ないような種類の花まで咲き誇っていた。
「シオン様」
意を決して、その背中に声を掛ける。【乙女】同士の邂逅を邪魔してはいけないとでも思ったのか、アレン様は少し離れたところに控えていた。
「はい、…………!」
振り向いたその姿は、あまりにも美しかった。白磁の肌に、紫紺の瞳。まさに【花の乙女】という呼称に相応しい儚げな美少女だった。苛烈な性格だとかそんな噂は、とても信じられない。だが、私の顔を見て、驚いた様子なのは、何故だろうか。
「いきなり呼び止めてしまい、申し訳ございません。私、」
「知っていますわ。バークリー伯爵家のコトハ様でしょう」
名乗る前に何者か言い当てられ、動揺してしまう。シオン様と直接お会いしたことはないはずなのに。優雅に微笑むその姿は、やはり優しげだ。
「私に何か御用ですの? ……ああ。そういえば、最近ランドルフに貴女への贈り物を頼まれましたわね。彼とは幼馴染なんですの。知己の想い人へお渡しするものでしたから、一層気合いを入れたのですけれども……そちらに何か不備が?」
「えっ? いえ、そんな……! 素晴らしい御品物をありがとうございました。癒されています! あの、ランドルフ様には親切にしていただいていますが、私が想い人というのは勘違いでは」
「まあ。初心でお可愛らしいのね。大丈夫ですわ、そんなに心配しなくても。貴女は彼と結ばれたら幸せになれますから」
「…………えっと、」
シオン様が、私の後方に控えるアレン様を一瞥する。そうして、花が綻ぶような可憐な笑顔を見せた。
「けれど、悪いお方ですわね。確かに恋愛に駆け引きは必要ですけれど、ランドルフの友人としては彼のことももう少し構ってあげてほしいものですわ」
「あの、私……」
何故か、私もランドルフ様に気持ちがある前提で話が進んでいる。彼に対して敵意があるとまでは言わないけれど、苦手だし、出来るならば私という存在に飽きてくれたら良いのになんて思ってしまっているのに。
「コトハ様は可愛らしいお方ですもの。悪い虫が周りを飛び回るのも分かりますわ。けれど、お気を付けになって。蝶だと思って戯れていたものが実は蛾だった……なんて良くある話。ああ、蜂にも注意しなくてはね」
シオン様が王宮を見上げる。視線を追った先には、金色の髪をした人物の後ろ姿があった。
後ろ姿とはいえ、先程会ったばかりの御方を見間違える筈もない。
「陛下は【乙女】である私達の会話が気になったのでしょうか」
「コトハ様ったら。純粋なのね。いえ、ひとつだけお伝えしておきましょうか。……スズメバチには近づかない方が良いですわ」
陛下が去った辺りを忌々しげに見つめるシオン様に、少し違和感を感じた。けれど、この後に予定があると言われてしまい、会話はそこで終わったのだった。




