王宮へ
「素敵ですね。コトハ嬢。いえ、いつも可憐ですけれど、今日は殊更に」
「あああ、ありがとうございますっ。その、アレン様もいつにもまして凛々しくて、見惚れてしまいました」
「はは、まったく。お上手ですね」
お上手なのはアレン様の方だ。素敵だとか可憐だとか、きっと社交辞令なのに。分かっていてもつい浮かれてしまう。アレン様から目が離せないという私の言葉に嘘はないのに、きっとそれも社交辞令としてしか受け取ってもらえていないだろう。
今日は、王宮へ向かう日だ。
陛下のお目に掛かるということで、私もアレン様も正装をしていた。めかしこんだ姿を憧れの人に見てもらえるのは嬉しい。
以前のしおちゃんの様子が気に掛かり、正直に言えば王宮に向かうこと自体は気乗りしていなかった。けれど、避けては通れない道だったし、アレン様が行動を共にしてくれることでいくらか救われた心地で居た。
丁寧なエスコートを受けて馬車に乗り込み、王宮へ向かう。道中は、それは幸せな時間だった。
だが、それも王宮に着くまで。
謁見の間に通され、玉座から鋭い眼光をこちらに向けられて、縮み上がってしまった。
隣に立つアレン様は陛下の威圧感にも負けず平然としている。
慣れているのだろう。
「良く来た。二人とも」
「は。本日はお招きいただきまして、光栄です」
「お初にお目に掛かります、コトハ・バークリーです」
「……そうか。貴女がバークリー嬢か。……うん」
優しげな口調とは裏腹に値踏みするような視線に、どこか既視感を感じる。
私が役立つかどうか、見定めているのかもしれない。為政者ならば当然なのだろうが、その鋭い眼光に萎縮してしまう。
「【乙女】の力は発現してから安定するまで時間が掛かると聞いているが、調子はどうだ? クロンビー嬢には、既に貴族相手の依頼だけでなく慈善活動に力も入れてもらっているが」
「最近は自分の能力を理解出来てきた気がしています。まだ、シオン様のような一流品を作るには及びませんが」
どこか張り詰めた雰囲気だと感じてしまうのは、私が緊張しすぎているせいだろうか。陛下は貴族平民関係なくすべての民に手を差し伸べてくださる素晴らしい統治者だとのお噂だ。私より先に【乙女】の力に目覚めたシオン様は、陛下の命により恵まれない民のためにもそのお力を振るっているという。
「そう謙遜しなくて良い。アディントン家のランドルフから実物を見せてもらったが、素晴らしい仕上がりだった。体力面の問題がないのなら、バークリー嬢にも慈善活動にも携わってもらいたい」
「陛下の命とあらば、喜んで」
私の力は、シオン様の力と違って人を癒したりだとかそういうものには向かない気がするのだけれど、陛下のお言葉に否やを唱えるわけにはいかない。それに、【守り】の力くらいならば、何かの役に立つだろうか。
「ちょうど、今日はクロンビー嬢も王宮に来て居るな。今は王宮で花を愛でているだろうか。先達の話を聞くのも悪くないだろう。アレン、案内をしてやれ」
「……は。では、これにて失礼いたします。では、コトハ嬢」
「はい。お目通りいただき光栄でした。陛下、失礼いたします」
陛下の御前から下がり、気を緩めたのも束の間。次の予定が入ってしまった。
「……さて、シオン様のところへ、ということでしたね。案内致します」
「…………はい。アレン様、お願いいたします」
陛下の前で縮こまるしか出来ない時間よりは断然良いのだが、それでもあまり気が進まない。
シオン様といえば、【花の乙女】。
八面六臂の活躍を見せている先輩に引け目を感じているのもあるけれど、その性格は非常に苛烈だとも聞く。私は同じ【乙女】であるシオン様に抗心のようなものはないのだが、向こうはどうだろうか。なるべく波風立てずにやり過ごしたい。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか庭園に到着していた。




