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48本のマッチ  作者: Aju


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8/9

8本目

 雨が降っている。

 午前中もどんより曇っていたけれど、午後からは渡り廊下の屋根の金属板がパラパラと鳴り出した。


 今日はなんだかアンニュイな気分。

 何にもやる気が起きない。

 授業、早く終わらないかな。


 頬杖をつきながら黒板を眺めるけれど、先生の書く文字がぜんぜん頭に入ってこない。

 この先生、ただ書いて説明してゆくだけだし。生徒を当てたりしないし。あとで参考書読めばいいよね。

 そもそも先生が見ながら書き写してるの、誰でも持ってるポピュラーな参考書。


 ぼーっと先生の声を聞いていると、心がどんどん曇ってくる。

 でも雷が鳴るような黒雲じゃなくて、明るいんだか暗いんだかわからないような灰色の空もよう。

 いっそ落雷でもあれば、すっきりするんだろうに。


 授業が終わる頃にはうっとおしい雨の音が小さくなり、空を横切る何かの小鳥の声が聞こえた。

 亜音は、ほう、と息を吐く。

 がたがたというクラスメートたちの帰り支度の音が聞こえ始める。


「亜音、帰りにスイーツ屋さんに寄ってかない?」


「うーん。今日はそんな気分じゃないよ。また今度ね」

 お金もないしね。


 少しだけまた強くなった雨に傘で抵抗しながら、亜音は濡れた路面に足を踏み出す。

 靴の裏側で、ペちゃり、ペちゃり、と水の音。

 その音が、少しだけ亜音の曇り空を明るくした。


 ぺちゃり、ぺちゃり。

 水たまり。空を映してライトグレー。


 バス停に着く頃にはまた雨は小降りになった。


 バス停には屋根があるけれど、亜音は傘をさしたまま屋根の端の方に立っている。

 傘を低くさしていると、周囲との間に少しだけ結界ができたような感じがして落ち着ける。

 雨は強くなったり弱くなったりを繰り返しているけれど、空の色は明るい灰色のまま変わらない。時間がなくなってしまったみたいだ。


 やがてバスの姿が見えたので、亜音は傘を横にして2〜3回ばさばさとたたんだり広げたりして水を切った。

 くるりと傘の布を巻いて、カバンから定期と一緒に傘袋を取り出す。


 家に帰ってもまだ、雨は降り続けていた。

 亜音の心も曇ったままだ。


 どうしてそうなのか、思い当たるものは何もない。

 単に、天気が悪いからだけなのかな?


 玄関の傘立てに濡れた傘を立て、湿気った靴を脱ぐ。靴下も濡れている。


「気持ち悪い」


 上がりがまちで靴下を脱いで、そのまま手に持って脱衣室まで行き洗濯かごの端に引っ掛ける。

 素足にフローリングが気持ちいい。

 少しだけ心の空が明るくなった。


「はあ……」


 ため息とともに亜音はカバンを無造作に放り出し、湿った制服のままでベッドにぼすんと腰を下ろした。

 それからふと思い出して立ち上がり、机の上のマッチ箱を手にとる。


 1本取り出して、箱の側面でシュッと擦る。

 湿気ってるかな? と思ったけど、マッチはすぐに火がついた。


 炎を制服の胸の前に持ってくる。

 こんなものじゃ乾くわけないよね。


 軸を上に向けてたせいか、マッチの炎はそれほど長い時間燃え続けることなくすぐに消えた。

 皿の上に燃え残りの多い軸を置く。


 8本目。



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