7本目
喪服を着た人たちがぞろぞろと歩いてゆく。
「いいお天気でよかったわねぇ」
「いいお葬式でしたね」
女の人たちがそんな会話を交わしながら通り過ぎていった。
それを見送ってから、亜音は顔の向きを前に戻す。亜音も黒い服を着ている。
焼き場の炉の前に置かれた棺の前で、お坊さまがお経をあげていた。
今日は母方の田舎で、大おばあちゃんのお葬式。
お母さんのお母さんにあたるおばあちゃんと、そのお兄さんにあたる親戚のおじいちゃんが、棺にすがって泣いていた。
還暦を過ぎたおばあちゃんとおじいちゃんが、幼な子みたいに泣いていた。
戦後の混乱期、女手ひとつで2人の子どもを育てた大おばあちゃんは決して裕福ではなかったけど、立派な人生だったんだな——と亜音は思った。
ずっと行商をして歩いたんだと、亜音はおばあちゃんから聞いていた。
「なのに、兄ちゃんったら。1回交通事故にあったくらいで外に出さなくするなんて。あの人から行商を取り上げたら、何にも残らなくなっちゃうじゃない。事故だって、相手の車が悪いのに……」
おばあちゃんは、そんなふうにお母さんに愚痴っていた。
「大おばあちゃんを、おばあちゃんちに連れてきたらだめなの?」
亜音が聞くと、おばあちゃんは少し寂しそうに笑った。
「あーちゃんはまだわからないかもしれないけど、嫁に出た身にそんなことは言えないよ」
おじいちゃんは大おばあちゃんの体を心配しているんだろう。
おばあちゃんは大おばあちゃんの心を心配しているんだろう。
どちらも愛しているのに、形にするのは難しいんだね。
おばあちゃんが心配していたように、大おばあちゃんはそのあとめっきり弱っていって、最後のほうは亜音が誰かもわからないようだった。
歩いて、歩いて。
頑張って、頑張って。2人の子どもを大人にした大おばあちゃん。
おじいちゃんが稼ぐようになって豊かになっても、行商をやめなかった大おばあちゃん。
ずっと、ずっと、歩き続けた大おばあちゃん。
ニワトリにやる餌を持って、こちらを振り向いて笑っている大おばあちゃん。
いつ誰が撮った写真か忘れたけど、その写真の笑顔だけは亜音は覚えている。
焼き場の空は、雲ひとつない青空だった。
その青空に、大おばあちゃんはほぼ透明な煙になって昇っていった。
天国が、大おばあちゃんのために扉を大きく開けてくれたみたいな青空だと思った。
いつの間にか、うたた寝をしてしまったらしい。
窓を見れば、外はきれいな青空。
そういえば、今日は大おばあちゃんの命日だったな。
だから、こんな夢を見たんだろうか。
うちに仏壇はないけれど、亜音は窓の前に青空にお供えするみたいに1本だけお線香を立てた。
マッチを箱から取り出して、擦る。
ぽぉう、と上がる炎をお線香に移してから、手であおいで炎を吹き消す。
白い煙が、青空を背景にふわりと立ち昇った。
7本目。




