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百花繚乱の勇者  作者: あおいろぱりお


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8/10

2-7.スローライフ班

 第7の魔法陣。

 そこには、奇妙な「停滞」した空気が流れていた。


「……ふあぁ。地面に立つの、だるい……」


 No.058 大森(おおもり) ジン。

 気怠げな黒髪の少年は、重力を操作して地面から数センチ浮遊し、半目で欠伸をしていた。

 重力に逆らう髪、ダボダボのコート。全身から「やる気なし」のオーラが出ている。


「わかる……。移動とかスティック入力だけで済ませたい……」


 No.075 遊戯(ゆうぎ) レイ。

 ボサボサ銀髪のジャージ少女もまた、自律飛行する大型ドローンの上に体育座りで乗っかり、携帯ゲーム機をピコピコと操作していた。

 この班、すでに2人が「歩くことすら放棄」している。


「あ、あの……! た、弾薬のチェック済みましたか!? 私はあと5000発しか予備がなくて……不安で……!」


 No.011 一ノ瀬(いちのせ) カノン。

 巨大な迷彩リュックを背負った栗毛の少女が、ガタガタと震えながら弾倉マガジンを数えている。

 そのリュックからは、ガトリングガンの銃身やミサイルの弾頭がチラ見えしていた。


「(……アンちゃん、あの子うるさいわね。切り刻んでいいかしら?)」

「(ダメよマオちゃん、お洋服が汚れちゃうわ)」


 No.038 絢辻(あやつじ) マオ。

 ゴスロリドレスの少女は、抱きかかえた等身大の球体関節人形「アン」に腹話術で喋らせ、一人二役の会話に没頭している。

 完全に自分の世界だ。


 重力使い、ゲーマー、火薬中毒、人形狂い。

 社会不適合者の見本市のような空間で、一人の少年だけが朗らかに笑っていた。


「やあみんな! 今日から同じ班だね! 僕は蓮見育。よろしく!」


 No.003 蓮見(はすみ) (いく)

 泥だらけのツナギを着た彼は、耳の裏から植物の芽を生やし、ポケットから蔦を溢れさせながら、屈託のない笑顔を振りまいた。


「せっかくの異世界だよ! 殺し合いなんて野蛮なことはやめて、みんなで野菜を育てようよ!」

「……パス。土いじりとか爪汚れるし」(レイ)

「……重い。労働は罪だ」(ジン)

「……アンちゃん、野菜は嫌いですって」(マオ)

「……そ、それよりバリケードを作りませんか!? 四方を囲まないと撃たれます!」(カノン)


 誰一人としてスローライフに興味を示さない。

 だが、育はめげなかった。


「あはは、みんなシャy……おっと」


 育がカノンに近づこうとした時、彼女の足元に小さな「花」が咲いているのに気づいた。


「カノンちゃん、ストップ」

「ひっ!? な、何ですか!?」

「そこ、花が咲いてるんだ。……踏んだら、肥料にするよ?」


 ニッコリ。

 育は満面の笑みのまま言った。

 その瞳の奥には、人間に対する慈悲など欠片もなかった。


「あ……は、はい……」

 カノンは本能的な恐怖を感じて足を引っ込めた。

 この男、平和主義者に見えて、一番ヤバい。


 その時、システム音が鳴り響く。


『班分け完了。第7班を転送します』


 視界が白く染まる。

 彼らが飛ばされた先は――。


 せせらぎの音が心地よい、『深緑(しんりょく)の秘境エリア』だった。

 目の前にはマイナスイオンたっぷりの巨大な滝が流れ、清流が森を潤している。

 木漏れ日が差し込む、まさに地上の楽園。


「……ここだ」

 育が感極まったように膝をついた。

「こここそが、僕の求めていた約束のスローライフだ……!」


「……悪くない。滝の音で騒音が消える……よく眠れそう……」

 ジンが木陰にふわりと漂着する。

「……水冷には困らないな。サーバー冷やし放題じゃん」

 レイがドローンの高度を下げる。

「み、水辺!? 水陸両用の魔物が奇襲してくる可能性があります! 魚雷の準備を!」

 カノンが一人でパニックになりながら、水中に機雷を撒き始めた。


「よし、みんな! ここに家を建てよう! 文句は言わせないよ!」


 育が懐から「種」を取り出し、滝の近くの開けた地面にばら撒いた。

 そして、神具『豊穣のシャベルゴールデン・ハーベスト』を一振りする。


「大きくなあれ(強制成長)」


 ズゴゴゴゴゴゴ……!!


 静かな秘境で、信じられない現象が起きた。

 撒かれた種が一瞬で発芽し、数秒で巨木へと成長。

 それらが互いに絡み合い、わずか1分足らずで『巨大な樹上(じゅじょう)ツリーハウス』が形成されたのだ。

 天然のエアコン完備、ハンモック付きの最強物件である。


「えええええ!?」

 カノンが絶叫する。

「はい、これなら湿気も防げるし、快適だよ!」


 育が完成した「我が家」に招き入れる。

 そこへ、森の奥から不快な羽音が響いた。


『ブブブブブブ……!!』


 全長1メートルはある『殺人蜂(キラービー)』の大群だ。

 甘い樹液の匂いにつられて、数百匹が殺到してくる。


「あーあ。敵湧いたじゃん。羽音がうるさい。ラグの原因」

 レイが携帯ゲーム機から手を離さずに呟く。

「……ジンくん。落として」

「……了解。安眠妨害だ」


 ジンが指を一本、だらりと下に向ける。


 『事象の地平線(イベント・ホライゾン)』。


 ズドンッ!!!!


 空を飛んでいた蜂の群れが、見えない巨大なハンマーで叩かれたように、一斉に地面へ墜落した。

 重力100倍。羽ばたくことすら許されず、地面に縫い付けられる。


「ひぃぃ! 敵襲! 敵襲です! 駆除(エクスターミネート)します!!」


 パニックになったカノンが、リュックを展開。

 無数の銃口から火炎放射と対空弾幕がばら撒かれる。

 『武器複製(トレース)』・フルバースト。


 すでに瀕死の蜂たちは、オーバーキル気味に消し炭にされた。


「あらあら、汚いわねぇ。アンちゃん、掃除トドメよ」

 マオが指を動かすと、人形のアンが人間離れした動きで飛び出し、残った敵の毒針をコレクション用に回収した。


 戦闘時間、わずか10秒。

 第7班は、一歩も動いていない。


「わぁ! すごい肥料がいっぱいだね!」


 育は嬉々としてシャベルを振るい、蜂の死骸を植物の根元へ埋めていく。

 死骸は瞬く間に養分となり、さらに木々が生い茂り、完璧な要塞となっていく。


「……ここ、Wi-Fi飛んでないの? 自家発電しなきゃ」

「……布団敷いていい? もう動きたくない」

「……タ、タレット設置完了……自動迎撃モード移行……」

「……お茶にしましょうか、アンちゃん」


「あはは! 最高のスローライフの始まりだね!」


 世界樹の庭師、重力使い、ドローンゲーマー、武器庫、人形師。

 秘境に出現した最強の「引きこもり要塞」。

 彼らの平穏を破れる者は、この異世界に存在しないかもしれない。

 

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