2-6.アウトロー班
第6の魔法陣。
そこは、最も治安の悪い空気が漂っていた。
「……嘆かわしい。実に嘆かわしいな」
冷徹な声が響く。
No.010 九条 響也。
漆黒の法服を纏った彼は、銀縁眼鏡の位置を中指で押し上げながら、周囲のメンバーを汚物でも見るような目で見下ろした。
「賭博狂いに、吸血鬼気取り、野球馬鹿……。秩序の欠片もない」
「おいおい、堅苦しいこと言うなよ眼鏡クン。人生なんてのは、配られた手牌で遊ぶしかないんだぜ?」
ジャラジャラと麻雀牌を弄んでいるのは、サングラスをかけたチャイナ服の男だ。
No.051 九蓮 宝燈。
彼は状況を楽しんでいるようで、ニヤニヤと笑っている。
「黙りたまえ、ギャンブラー。君の非生産的な言動は、刑法第185条『賭博罪』に抵触する可能性がある」
九条が分厚い六法全書を開く。
だが、それを鼻で笑う男がいた。
「法? 下らない。王(私)こそがルールだ」
No.044 赤城 ブラッド。
色白の肌に真紅の瞳。彼は優雅にマントを翻し、九条を睨みつけた。
「貴様、私に向かって頭が高いぞ。その不敬、万死に値する」
「……ほう。法治国家の国民でありながら、前時代的な身分制度を持ち出すか。君の脳内は中世で止まっているようだな、吸血鬼」
エリート判事と、プライドの塊である吸血鬼。
絶対的な上から目線同士が衝突する。
「カカッ! どいつもこいつも小せえこと言ってんなぁ!」
金属バットを担いだユニフォーム姿の男が、豪快に笑った。
No.076 球磨 ルイ。
彼はバットで自分のヘルメットをコンコンと叩く。
「ルール? 知らねぇな。俺のルールは一つだ。『飛んできたモンは全部打ち返す』! そんだけだ!」
「……野蛮だ。知性の欠片も感じられない」
九条は深く溜息をついた。
そして、ふと眉をひそめて周囲を見回した。
「……む? 待て。システムのアナウンスでは『5人1組』と言っていたはずだ。なぜ我々は4人しかいない?」
「あん? 確かに。一人足りねぇな」
ルイが首を傾げる。
「ふん、私の高貴なオーラに恐れをなして逃げ出したか?」
赤城が髪をかき上げる。
「システムのエラーか、あるいは最初から欠員か……。やれやれ、管理体制まで杜撰とは呆れ果てる。いいだろう、ならばこの4人で――」
九条が演説を続けようとした、その時だった。
「……あの、ここにいます……」
九条の耳元、距離にしてわずか10センチの至近距離から、少女の声がした。
「ひゃうっ!?」
九条は素っ頓狂な悲鳴を上げ、驚きのあまり飛び上がった。
着地と同時にバランスを崩し、木槌を取り落とす。
「い、いつからそこに……っ!?」
「……最初から、九条くんの隣にいました……」
灰色のジャージを着た地味な少女、No.024 影山 忍。
彼女は申し訳なさそうに、体育座りのまま縮こまっていた。
「な、ば、馬鹿な……! 私の索敵範囲に、気配もなく侵入していただと……!?」
「……侵入というか、ずっとここに……」
「だ、黙れ! きゅ、急に話しかけるな! し、心臓が止まるかと思っただろうが……ッ!!」
九条は顔を真っ赤にして、噛み噛みの口調で怒鳴った。
完璧に見えたエリートの仮面が、一瞬で剥がれ落ちる。
九蓮が「プッ」と吹き出し、ルイが腹を抱えて笑った。
「眼鏡クン、意外とビビリだなー!」
「う、うるさい! 静粛に! ……コホン。と、とにかく、これで5人だ!」
九条は必死に咳払いをして威厳を取り戻そうとするが、耳まで赤い。
このチーム、前途多難である。
その時、システム音が鳴り響く。
『班分け完了。第6班を転送します』
視界が白く染まる。
彼らが飛ばされた先は――。
がたがたの地形がどこまでも続く、『高山地帯』だった。
隠れる場所などない、過酷なステージ。
「……ふぅ。とりあえず、まずは状況確認を……」
九条が眼鏡の位置を直そうとした瞬間、彼より上の山から巨大な岩石が転がり落ちてきた。
魔物の仕業か、自然現象か。
数トンの岩が、第6班の頭上に迫る。
「む、回避行動を……!」
九条が指示を出そうとするより早く、ルイが動いた。
「予告ホームラン!!」
カキィィィィィン!!
金属音が荒野に響き渡る。
ルイのフルスイングが、落下してきた巨大岩石を捉えた。
スキル『打ち返し』。
岩石は物理法則を無視して倍の速度で打ち返され、谷の上にいた魔物を粉砕した。
「へっ! 見たか! 場外だぜ!」
「……ふん。ただの力任せか。だが、悪くない余興だ」
赤城が鼻を鳴らすが、その表情には少しだけ驚きが混じっていた。
「おやおや、頼もしいですねぇ。これなら僕は後ろで牌を積んでいられそうだ」
九蓮が岩陰に座り込む。
「……あの……私、偵察に行ってきます……」
忍がスゥっと気配を消し、いつの間にか姿を消していた。
「ちょ、おい! 勝手に行くな! ……っ!?」
九条が呼び止めようとするが、もう誰もいない。
自由すぎるメンバーたちに、九条は頭を抱えた。
「……くそっ。統率は取れていないが、個々の能力だけは高いようだな」
九条は眼鏡を光らせ、ニヤリと笑った(引きつった笑みだが)。
「使い潰すには惜しい駒だ。……せいぜい、私の『正義』のために働き給えよ、無法者ども」
法廷支配者、ホームラン王、ギャンブラー、吸血鬼、そして透明人間。
ルール無用の高地を行く、最強のアウトロー軍団。
彼らの進む道には、秩序か、それとも更なる混沌か。




