2-4.ナルシスト男子班
第4の魔法陣。
そこに漂う空気は、他のサークルとは明らかに異質だった。
重い。
物理的な重圧が、周囲の空気を歪めているかのようだった。
「……苦しゅうない。面を上げよ」
開口一番、偉そうに言い放ったのは、真紅のガウンを羽織った男だ。
No.050 皇 ミカド。
彼は腕組みをしたまま、傲然と他の4人を見下ろした。
「予期せぬ事態だが、余が指揮を執ってやろう。貴様らは余の手足となり、盾となればよい」
その言葉に、あからさまに溜息をついた男がいる。
「やれやれ……。僕に指図するつもりかい? 下郎が」
No.002 西園寺 レオ。
プラチナブロンドの美青年は、ハンカチで鼻と口を覆い、露骨な嫌悪感を露わにして周囲を見回した。
「最悪だよ。男、男、男……。むさ苦しくて吐き気がするね。ねえ、この中に『美しいもの(女の子)』はいないのかい? 僕の家具になりたい子はどこ?」
彼は本気で、この場の男たちを「背景」か「汚物」としか認識していなかった。
彼の興味は、自分のハーレムを作るための「素材」があるかどうかだけだ。
「なんだと? 貴様、王に向かってその口の利き方は……」
「王? 知らないなぁ。この世で価値があるのは『美』だけだよ。お前はただの装飾過多な成金だろう? 品がないね」
バチバチと火花が散る。
その間に割って入ったのは、ジャージ姿の厳つい男だった。
「こらぁっ!! 貴様ら、整列しろぉ!!」
No.045 鬼瓦 ゲン。
彼は竹刀を床に叩きつけ、怒声を上げた。
「自己紹介もなしに喧嘩とは何事だ! 協調性がないぞ! 連帯責任で腕立て100回だ!」
「……はぁ。うるさい」
ため息をついたのは、周囲の気温を氷点下にまで下げている銀髪の少年だ。
No.025 氷室 レイ。
彼は呆れたように肩をすくめた。
「暑苦しい教師ごっこはやめろ。……それに、王様気取りに女好きのナルシストか。非合理的しかいないのか、ここは」
支配者、ナルシスト、スパルタ教師、クールな皮肉屋。
全員が「自分が正しい」と信じて疑わない。会話がドッジボールのように噛み合っていない。
一触即発の空気。
だが、そんな最悪の空気を読まずに、一人の男が爽やかな笑顔で踏み出した。
「まぁまぁ! みんな落ち着こうぜ!」
No.001 天童 勇輝。
燃えるような赤髪の少年は、白い歯を見せてサムズアップした。
「俺たちはこれから命を預け合う『仲間』だろ? 喧嘩してる場合じゃないって! 俺は天童勇輝! みんなで力を合わせて、元の世界に帰ろうぜ!」
直球ど真ん中の熱血主人公ムーブ。
天童が西園寺の肩に手を置こうとする。
だが――。
「……触らないでくれるかい?」
西園寺の声が、氷点下よりも冷たく響いた。
「君、汗臭いんだよ。僕の美肌に移ったらどう責任を取るつもりだい? ……あぁ、早く女の子の柔肌に触れて浄化されたいな」
西園寺は天童の手をハンカチで払い除けると、蔑むような目で見下ろした。
「馴れ合うつもりはない」(氷室)
「私語は慎め! 背筋を伸ばせ!」(鬼瓦)
「余の配下になりたいなら、まずは跪いてみせよ」(皇)
「えぇ……? なんでみんなそんなにトゲトゲしてんの……?」
天童ががっくりと肩を落とす。
全員が「主役属性」持ち。誰も脇役に回ろうとしない、ある意味で最強、ある意味で最弱のチーム。
その時、システム音が鳴り響く。
『班分け完了。第4班を転送します』
視界が白く染まる。
彼らが飛ばされた先は――彼らの熱量を反映したかのような場所だった。
煮えたぎるマグマが川のように流れる、**『灼熱の火山帯エリア』**。
「あづっ!? なんだここ! サウナかよ!」
天童が叫ぶ。
「……チッ。最悪の環境だ」
氷室が即座に『絶対零度』の冷気を放出し、自分の周囲だけ気温を下げる。
「不快だねぇ……。汗をかくのは嫌いだと言ったはずだよ?」
西園寺が不機嫌そうに魔剣『薔薇の棘』を一振りすると、襲いかかってきた火の粉が弾け飛んだ。
彼はうんざりした様子で、マグマを見下ろす。
「こんな岩だらけの場所じゃ、可愛い女の子なんて期待できないじゃないか。僕のモチベーションに関わるよ」
その時、マグマの中から巨大な岩塊が隆起した。
全長10メートルを超える、溶岩のゴーレムだ。
『ゴオオオオオオ!!』
圧倒的な質量と熱量。
普通の生徒なら悲鳴を上げて逃げ出す場面だ。
だが、彼らは違った。
「……ふん。余の力を試すには丁度よい案山子だ」
皇が王笏を掲げる。
「邪魔だよ、溶岩石。僕の視界を遮らないでくれるかな?」
西園寺が鞭を構える。
「課外授業だ! 鉱物の硬度について身をもって学べ!」
鬼瓦が竹刀を構える。
「……効率的に処理する」
氷室がレイピアを構える。
全員が、一歩も引かない。
そして、誰よりも早く飛び出したのは――。
「よっしゃあ! 行くぞお前ら! 連携だ!」
天童勇輝だった。
彼は聖剣を輝かせ、真っ直ぐにゴーレムへ突っ込む。
「は? 勝手に仕切るな!」(氷室)
「余の前に出るな!」(皇)
「廊下(戦場)を走るな!」(鬼瓦)
全員が文句を言いながら、同時に攻撃を放つ。
皇の『王の号令』による強制バフ。
鬼瓦の『愛の指導』による行動制限デバフ。
氷室の『絶対零度』による足止めと脆化。
そして、西園寺の魔剣がしなる。
「美しく散りなよ」
『薔薇の棘』。
的確に急所を抉る、精密無比な切断。
意図せぬ形で、最強の波状攻撃が完成していた。
そして――。
「うおおおおおお! 『限界突破』ッ!!」
天童の聖剣が、脆くなったゴーレムの核を一刀両断にした。
轟音と共に、巨体が崩れ落ちる。
「……へへっ、やったな! 俺たちの勝利だ!」
天童がハイタッチを求めようと振り返る。
だが。
「勘違いするな。余が命じたから勝てたのだ」
「僕の美技のおかげだよ。君たちはただの壁だね」
「俺が足場を固めてやったからだろ」
「私の指導が適切だったからだ」
誰も天童の手を取らない。
全員が「自分がMVPだ」という顔をして、互いにそっぽを向いている。
「……えぇー。仲良くしようぜぇ……」
天童の悲痛な叫びが、火山帯に虚しく木霊する。
最強の個にして、最悪のチームワーク。
第4班の覇権争いは、まだ始まったばかりである。




