2-3.カオスな女子会班
混乱の謁見の間。
第3の魔法陣に集められたのは、全員が女性だった。
だが、その空気は「華やか」というよりは「退廃的」で「カオス」だった。
「ヒック……。王様ぁ〜、お酒ないのぉ? ウェルカムドリンクは常識だよぉ〜?」
No.088 酒井 ノン。
着崩した着物、赤ら顔。彼女は召喚された瞬間からすでに出来上がっていた。
赤い瓢箪を傾けるが、中身は空だ。
「うぅ……シラフになっちゃう……手が震えてきた……」
アルコールが切れた途端、彼女はガタガタと震え出し、その場にうずくまった。
ただのダメ人間である。
「あらあら、汚らわしいですね。神聖な場所で泥酔なんて」
冷ややかな視線を向けたのは、純白のシスター服に身を包んだ美女だ。
No.023 アンジェラ・ホワイト。
彼女は慈愛に満ちた(作られた)笑顔で、周囲を見渡した。
「皆様、初めまして。私はアンジェラ。回復役ですわ。もしお怪我をされたら、遠慮なく仰ってくださいね」
彼女は胸の前で十字を切る。
その神々しさに、誰もが「聖女だ」と思った――次の瞬間までは。
「――初回は『お試し価格』で治療させていただきます。2回目からはサブスクリプション契約がお得ですよ? 今なら入会金無料、月額たったの魔法銀貨50枚です♡」
「……金とるのかよ」
呆れたようにツッコミを入れたのは、少しルーズな着こなしをした少女だ。
No.068 縮地 みこと。
黒髪ウルフカットに、ヘソピアス。一見すると近寄りがたい雰囲気だが、この異常なメンツの中では唯一の常識人枠である。
「私はみこと。能力は『サイズ変化』。……なんか、まともな奴いなくない?」
みことが視線を巡らせる。
足元には、巨大な抱き枕を抱えて爆睡している少女。
「むにゃ……あと5分……」
No.026 夢見 ネル。
この騒音の中で熟睡できる神経は、ある意味最強かもしれない。
そして、最後の一人。
千代紙柄の着物を着た、日本人形のような少女。
「ふふっ……アンジェラさん、でしたっけ? 素敵な皮膚をお持ちですね」
No.069 折紙 ツル。
彼女はうっとりとした表情で、アンジェラの頬に触れようとした。
「その滑らかさ……綺麗に『折り畳め』そう。人間を正方形に折るの、私得意なんです」
「あら、怖い。私の肌に触れるなら、指名料をいただきますわよ?」
「おやおや、強欲ですね。そんな汚い心は、私が綺麗に折り鶴にして差し上げます」
「貴女こそ、そのペラペラの着物がお似合いですわ。貧乏臭くて」
ツルとアンジェラ。
二人は満面の笑みを浮かべながら、視線だけで火花を散らしている。
「ペラペラ? ふふ、薄いのは貴女の信仰心では? 金の匂いしかしませんわ」
「あら、鼻が良いのね。犬みたい」
「犬? 貴女こそ、金の骨に食いつく野良犬では?」
終わらない応酬。
みことは頭を抱えた。
「……はぁ。詰んだわ、これ」
酔っ払い、守銭奴、寝坊助、サイコパス。
まともな人間が自分しかいない。この中でサバイバルを生き残らなければならないのか。
その時、システム音が鳴り響く。
『班分け完了。第3班を転送します』
視界が白く染まる。
彼女たち「第3班」が飛ばされた先は――。
ネオンのような怪しい光る苔が自生する、『常夜の歓楽街エリア(ダンジョン)』だった。
かつての文明の跡地なのか、崩れかけたビルや酒場の看板が並んでいる。
「わぁっ! 飲み屋街!? 天国!?」
ノンがガバッと顔を上げた。震えが止まり、目の色がギラつく。
「酒! 酒はあるの!? ねえ!」
「……ふあぁ。……暗い。ここならよく眠れそう……」
ネルが抱き枕を抱き直し、二度寝の体勢に入る。
「あら、悪くない場所ですわね。迷える子羊から巻き上げるには、こういう治安の悪い場所が一番です」
アンジェラが計算高い目で廃墟を値踏みする。
「入り組んでいて素敵ですね。死角でこっそりと……ふふっ」
ツルが袖口から大量の折り紙を取り出す。
「……ねえ、なんか囲まれてない?」
みことが声を上げる。
廃ビルの影から、武器を持った小鬼やオークの群れが現れた。
歓楽街を縄張りにするモンスターたちだ。
「ギャハハ! 女だ! 上玉だぞ!」
下卑た笑い声を上げて迫りくる魔物たち。
みことが一歩前に出る。
「……ちょっと待って、私がなんとかする」
みことが指を鳴らすと、その身体が一瞬で膨張した。
ズゥゥゥン!!
身長5メートル超の巨人が、オークたちの前に立ちはだかる。
「……デカっ!?」
アンジェラが素で驚く。
オークたちが悲鳴を上げて後ずさる。
「……はぁ。疲れた」
みことは威嚇だけで十分と判断したのか、すぐに元のサイズに戻った。
だが、逃げようとしたオークの足が止まる。
「むにゃ……あ、オークさんの夢見えた……」
爆睡していたはずのネルが、ぼそっと呟いた。
「……オークさん、お母さんに怒られる夢見てる……怖いね……」
その瞬間、オークが白目を剥いて泡を吹き、その場に卒倒した。
「え、今何した?」
みことが振り返るが、ネルはすでに寝息を立てている。
残ったボス格のオーガが、震えながらも咆哮を上げた。
「グルルァアアア!! ふざけるな人間!!」
オーガが棍棒を振り上げる。
だが、その懐にふらりと入り込んだ影があった。
「あ? うるさいなぁ……。今、酒探してんだよ」
ヒック。
ノンが千鳥足でふらつく。
オーガの渾身の一撃が空を切る。彼女はまるで柳のようにゆらりと回避した。
「……邪魔すんなら、ツマミにするよ?」
『酩酊殺法』。
ノンの拳が、予測不能な軌道を描いてオーガの顎をカチ上げた。
ゴギャッ、という鈍い音と共に、巨体が宙を舞う。
「うわ、強っ……」
みことが絶句する。
飲んだくれのダメ人間は、実は最強の拳士だった。
「さあ、お酒探すよー! ついてきなー!」
「仕方ありませんわね。護衛料はツケにしておきます」
「ふふ、オーガの皮も折りやすそうですね」
「むにゃ……」
酔拳使い、守銭奴聖女、折り紙サイコ、睡眠魔、そして苦労人のサイズシフター。
欲望に忠実な第3班の夜は、騒がしく更けていく。




