2-2.スナイパー班
阿鼻叫喚の謁見の間。
強制的なチーム結成のアナウンスと共に、床に魔法陣が輝く。
「……Shit。強制イベントか」
No.017 クリス・マッケンジーは、毒づきながらも素早く状況を確認した。
手には、身長ほどもある巨大な対物ライフル「バレットM82」。
無骨な鉄の塊を軽々と扱うその姿は、歴戦の兵士そのものだ。
(距離確保……距離確保……よし、誰も俺の半径5メートル以内にはいないな)
彼はクールな表情を装っているが、内心はバクバクだった。
彼の射撃の腕は神域だが、敵に近づかれるとパニックになる「超・遠距離型」なのだ。
魔法陣の光が収束し、彼の周りに4人の男女が隔離される。
クリスは溜息をつき、努めて冷静な(風を装った)声で言った。
「……Hello。とりあえず、自己紹介といこうか。俺はクリス。役割はスナイパーだ」
流暢な日本語。
だが、その挨拶に即座に噛み付いた少女がいた。
「はぁ? なに仕切ってんの? 外国人」
No.081 論 リコ。
艶やかな黒髪、制服に腕章。一見すると優等生だが、その目は嗜虐的な色を帯びている。
「銃なんて持ってイキっちゃってさぁ。どうせ撃ったこともないミリオタでしょ? 図体ばっかりデカくて邪魔なんだけど。生きる価値なし」
ビシッ! と指を差す。
スキル『精神崩壊』の発動。
相手が言葉に動揺し、心当たり(矛盾)を感じた瞬間、その言葉は物理的な刃となって相手を切り裂く――はずだった。
【SYSTEM:警告。自己紹介タイム中の攻撃行為は無効化されます】
リコの指先から放たれた不可視の刃は、クリスの鼻先で青い障壁に弾かれて消滅した。
「……ちっ。使えないシステム」
リコは不満げに舌打ちをする。
「……おいおい、いきなり物騒だな、お嬢さん(リトル・レディ)」
クリスは冷や汗を隠して肩をすくめた。
(危ねぇ……! 今、確実に何か撃ってきたぞこいつ……!)
「あと、俺はハーフだし日本育ちだ。日本語はペラペラだぞ」
「なっ……! リトルって言うな! このニブチン!」
「はいはい。次はそっちの……黒い子」
クリスは顔を真っ赤にするリコを放置し、身を縮こまらせている少女に目を向けた。
「……あ……うぅ……」
No.009 枢木 アリス。
ゴスロリ服に身を包んだ彼女は、自分の身長よりも巨大な裁ち鋏を「盾」にするように抱きしめ、視線を泳がせていた。
「……(あわあわあわ)……」
「……Hello?」
「ひっ……! む、無理です……陽キャ怖い……外国人怖い……お家帰りたい……」
アリスは蚊の鳴くような声で呟くと、鋏の陰に顔を隠してしまった。
ただの人見知りのようだ。
「No。俺は陽キャじゃないし、鋏の刃先をこっちに向けるな。危ないだろ(※距離が近いので怖い)」
クリスが一歩下がると、アリスは「距離を取ってくれた……いい人……?」と少しだけ安心したように息を吐いた。
カオスな空気が流れる中、一人の少年がバサリとマントを翻した。
「クックック……。怯えることはない」
No.021 桐生 セツナ。
左目の眼帯、腕の包帯、そして大量の懐中時計。
彼は誰も聞いていないのに、虚空に向かってポーズを決めた。
「時は満ちた……。俺の『刻』に干渉できる選ばれし者たちよ。歓迎しよう」
セツナが懐中時計を見つめた、その一瞬。
周囲の空気が、まるで写真のように「凍りついた」気がした。
「……?」
(今、何か起きたか? 舞っていた埃が止まったような……)
クリスが違和感を覚えて目を凝らすが、セツナは何事もなかったかのようにポーズを決めている。
(気のせいか……? いや、こいつも只者じゃないな)
「わぁ〜! みんないい子ね〜! ヨシヨシ!」
No.049 牧場 メリー。
エメラルドグリーンの髪を揺らし、彼女はあろうことか、殺気立っていたリコの頭を撫で回していた。
「ちょっ、触んな! 私は動物じゃな……んぅ!?」
「リコちゃんは毛並みがいいわね〜。進化させ甲斐がありそう!」
「扱いがペット!? やめろバカ!」
リコが暴れるが、メリーはニコニコして離さない。
その光景を見て、クリスは深く息を吐き、覚悟を決めたようにライフルを構え直した。
「……とんでもないチームだ。だがまあ、悪くない」
メスガキ、コミュ障(重度)、中二病、ムツゴロウ。
まともな人間は自分だけか、とクリスは嘆くが、彼自身も「敵が近づくとパニックになるスナイパー」である。
どっこいどっこいのメンバーだった。
その時、システム音が鳴り響く。
『班分け完了。第2班を転送します』
視界が白く染まる。
彼らが飛ばされた先は――。
うっそうと生い茂る、『原生林エリア(ジャングル)』だった。
「うわっ、湿気! 最悪! 靴汚れるじゃん!」
リコが即座に文句を言う。
「……暗い……落ち着く……ここなら隠れられる……」
アリスが素早く木の陰に座り込む。
すると次の瞬間、彼女の輪郭が曖昧になり、影と同化して完全に消え失せた。
「……おい、どこ行った?」
クリスが慌ててスコープで探すが、サーモグラフィーにも反応がない。
「……ここです……」
足元の影の中から、小さな声が聞こえた。
(……マジかよ。隠密性能Sランクか)
「フッ……ここが俺の新たなステージか……(木に登ろうとして滑る)」
セツナがポーズを決める。
「あら、見て! 可愛いトカゲさん!」
メリーが足元の巨大な毒トカゲ(体長2メートル)に抱きついた。
トカゲが威嚇音を上げるが、メリーが「よしよし」と撫でると、一瞬で大人しくなり、その体が光に包まれる。
「えっ? 進化?」
光が収まると、そこには背中から翼を生やした『飛竜』のような姿に進化したトカゲが座っていた。
メリーは「わぁ、すごーい!」と無邪気に拍手している。
(……マジかよ。現地調達で戦力増強か)
クリスは冷や汗を流しながら、スコープを覗いた。
ジャングル。視界は悪いが、隠れる場所は多い。
近づかれさえしなければ、自分の独壇場だ。
「いいか、お前ら。俺はあの高い木の上から援護する。敵が近づいたら……頼むから俺を守れよ?」
「はぁ? なんで私がアンタなんか……」
「守ってくれたら、お菓子やるぞ」
「……チョコなら考えてあげる」
リコがふいっと顔を背ける。
凸凹な5人。だが、それぞれの能力がハマれば、最強の布陣になる予感だけはあった。
ジャングルの奥深く。
第2班のサバイバルが、騒がしく幕を開けた。




