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百花繚乱の勇者  作者: あおいろぱりお


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2/10

2-1.バランス班

 異世界の王城、謁見の間。

 スキルと武器を強制付与された直後。豪奢なシャンデリアの下は、依然として阿鼻叫喚の巷と化していた。


「おい、ここどこだよ!?」

「圏外じゃん! どうなってんの!?」

「王様! 説明してくださいよ!」


 100人の高校生たちがパニックに陥り、玉座の老人(国王)に詰め寄ろうとする。

 だが、その混乱の渦中で、No.005 日下部(くさかべ) 慎太郎(しんたろう)は冷静に自分の視界に浮かぶ『青いウィンドウ』を操作していた。


【Name:日下部(くさかべ) 慎太郎(しんたろう)

【Class:管理者】

【Skill:因果演算(ラプラス)


(……なるほど。「使い方は脳に直接インストール済み」ってわけか)


 慎太郎はこめかみを軽く叩いた。

 スキルが付与された瞬間、脳髄に焼きごてを当てられたような衝撃と共に、膨大な「仕様書」がねじ込まれたのだ。

 不快な感覚だが、おかげで自分が何をすべきかは理解できた。

 ただ、脳への負荷が高いのか、鼻からツーっと熱いものが垂れる。


「……チッ、鼻血かよ。燃費の悪い能力だな」


 周囲を見渡せば、すでに新しい「力」を試し始めている連中もいる。

 さすがは百勇高校の生徒だ。異常事態への順応速度が常人とは違う。

 慎太郎は口元だけで笑った。


(さて、ここからが本番だ。このシステムはどう動く?)


 その思考に応えるように、脳内に無機質なアラート音が鳴り響いた。


『これより、チュートリアル・プロセスを開始します』

『生存率向上のため、システムによる「5人1組」のチーム結成を強制執行します』


「強制だと……?」


 誰かの呟きがかき消される。

 床に敷かれた真紅の絨毯の上に、青白く光る魔法陣が20個出現した。

 抗う間もなく、100人の体が強制的にそれぞれの「サークル」へと引きずり込まれていく。


『警告:これより30分間、「自己紹介タイム」を設けます』

『サークル内での会話を拒否、またはサークル外へ出た場合、即座に脳内チップを爆破し「処分」します』


 処分。つまり死。

 広間の喧騒が一瞬にして凍りつく。

 だが、その静寂を破ったのは、この場を取り仕切ろうとする「陽キャ?」の声だった。


「――おーい! 俺たちはここのサークルか! よろしくな!」


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 【第1班】


 謁見の間の隅、窓際のサークル。

 そこに集められた4人の視線が、鼻血を拭きながら声を上げた少年に集まる。


 日下部 慎太郎。

 彼はインストールされた情報を瞬時に整理し終えると、不安に包まれるメンバーに向かって、屈託のない笑顔を向けた。


「驚いたね! でもまあ、爆発するのは御免だし、とりあえず自己紹介といこうよ。俺は日下部 慎太郎。能力は『計算』だ。……まあ、ぶっちゃけ戦闘力はないから、みんなのサポートを全力でするよ! よろしく!」


 あまりにも場違いなほどの明るさ。

 だが、それは彼なりの処世術であり、この場を支配するための布石。

 慎太郎の笑顔に釣られるように、一人の少女がポンポンを高く掲げた。


「はーい! 私も賛成っ!」


 No.007 神楽坂(かぐらざか) (まい)

 ピンクと水色のツインテール。フリフリのチア衣装。

 彼女はプロのチアアイドルとしての仮面を完璧に被り、恐怖を笑顔で塗りつぶしていた。


「私は神楽坂 舞!能力は『共鳴増幅(レゾナンス)』……私がみんなを応援すれば、みんな強くなれるの!」


「……ケッ。ノーテンキな奴らだな」


 吐き捨てるように言ったのは、猫耳パーカーを目深に被った小柄な少年だ。

 No.018 遊佐(ゆさ) ナギ(なぎ)

 童顔で整った顔つき。

 彼の手には、いつの間にか猛獣使いの鞭が握られている。


「俺はナギ。能力は『野性解放(ビースト・ソウル)』だ。……チッ。身体が勝手に疼きやがる。獣の臭いがわかるんだよ」

「わぁっ! 可愛い〜! ナギくんって言うの? まるで猫ちゃんみたい!」

「さわんな! シャーッ!!」


 舞が目を輝かせて近づくと、ナギは本物の猫のように毛を逆立てて威嚇した。

 そのやり取りを、巨大な影が見下ろしている。


「……豪徳寺(ごうとくじ) (いわお)


 身長2メートル超、全身フルプレートメイルの巨漢、No.012。

 彼は言葉少なに、自身の巨大なタワーシールドをドンと地面に置いた。

「能力は『絶対防御(イージス)』。……盾の構え方が、脳に焼き付いている。俺は、みんなの盾になる。指示をくれれば動く」


 豪徳寺の視線が、ナギの肩に乗っている小さなリス(たまたま近くにいた小動物をナギが無意識に手懐けたもの)に向けられる。

「……可愛いな」

「あ? ……触るなよ。噛むぞ」

 ナギは警戒しつつも、豪徳寺の穏やかな気配には敵意を感じないようだ。


 頼もしいタンク、本能で動く獣使い、鋼メンタルのアイドル、そして指揮官の自分。

 慎太郎の脳内で、瞬時に計算式が走る。


(近接、タンク、バフ……バランスは完璧だ。全員、適応が早いのは『百勇』の生徒だからか。……問題は)


 慎太郎の視線が、最後の一人――レインコートの少女に向けられた。


「……ごめんなさい……」


 No.039 雨宮(あまみや) (しずく)

 彼女は深くフードを被り、地面を見つめて震えていた。


「私なんて……生きててごめんなさい……。こんな選ばれし人たちの中に、私みたいなカビが……もう終わりだ……死のう……」


 ズーン。

 彼女が深いため息をついた、その直後だ。


 ゴロゴロゴロ……ピシャーン!!


 王城の天井があるはずの頭上に、突如として暗雲が発生。

 局地的な豪雨と冷気が、サークルの中だけに降り注いだ。


「つめたっ!?」

「うわっ、なんだこの雨!?」

「フギャーッ! 水かけんじゃねえよ!!」


 ナギが濡れるのを嫌がって逃げ回る。

 だが、慎太郎が動くより早く、神楽坂(かぐらざか) (まい)が動いた。


「もうっ! 雫ちゃん! しけった顔してちゃダメだよっ!」


 舞はずぶ濡れになることも厭わず、雫の前に飛び出した。

 そして、雨粒を弾き飛ばす勢いでポンポンを振る。


「私のステージ(応援)で、その雨雲、吹き飛ばしてあげる! 聴いて! 『サンシャイン・チア』!!」


 スキル『共鳴増幅』が発動。

 舞の掛け声と共に、ピンク色の温かな光が爆発的に広がり、降り注ぐ雨を蒸発させていく。

 豪徳寺が無言で大盾を傘代わりにして二人を守る中、舞は雫の手を強引に取った。


「笑って! 笑えば晴れるから! ねっ?」

「……あ……うぅ……」


 雫が恐る恐る顔を上げる。

 その瞳に映ったのは、太陽のような舞の笑顔だった。

 雫の心に陽が差すと同時に、頭上の暗雲が嘘のように消え去っていく。


(……なるほど。ネガティブをポジティブで相殺(キャンセル)できるのか)


 慎太郎はニヤリと笑った。

 扱いづらい手札だと思っていたが、組み合わせ次第で「最強の環境制御兵器」になる。


 その時、システムウィンドウが表示された。


---

【自己紹介タイム終了】

【追加ルールを適用します】


1.【初心者保護(ビギナーズ・グレース)

これより「72時間(3日間)」は、勇者間の直接攻撃を無効化します。


2.【グループ・ポイント(GP)】

食料や水は、班に付与される「GP」でのみ購入可能です。

※班を脱退した場合、個人保有のGPは「0」になります。


3.【エリア転送】

各班をランダムなバイオームへ転送します。

---


「3日間の猶予(モラトリアム)か......」


 慎太郎がつぶやいた次の瞬間、足元のサークルが激しく発光した。


「うわっ、飛ぶぞ!」

「キャ!」

「……(無言)」


 視界がホワイトアウトする。

 転移の直前、慎太郎は横目で【他の班】の状況を見た。


 隣の班では、パワードスーツのようなインナーを着た男(No.004 (くろがね))が、スパナを構えて何かを呟いている。

 別の班では、ツナギの少年(No.003 蓮見(はすみ))が、王城の床板を剥がして勝手に耕し始めていた。


(……どいつもこいつも、我が強すぎる)


 光が収まると、王城の景色は消え失せていた。

 彼ら「第1班」が飛ばされた先は――


 風が吹き抜ける、『緑豊かな草原エリア』だった。


「……とりあえず、いきなり即死するような環境じゃなくてよかったな」

 慎太郎が安堵の息を吐く。

 だが、雫はその場にヘナヘナと座り込んだ。


「広すぎます……。どこに行けばいいかわからない……このまま野垂れ死ぬんだ……」


 ゴロゴロゴロ……。

 快晴だった空に、再び黒い雲が発生し始めた。


「舞ちゃん! 応援(アンコール)だ! 雨が降るぞ!」

「任せて! 雫ちゃんが前を向くまで何度でもやるよっ!」


 頼れる(ふりをした)リーダー(?)、堅牢な盾、人間嫌いのツンデレショタ、鋼メンタルのチアリーダー、そして歩く災害メーカー。

 百花繚乱の群像劇。

 第1班の旅は、前途多難なスタートを切った。

 

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