1.定員オーバー
7月の体育館は、蒸し風呂と変わらなかった。
20XX年、ここは生徒約800人を抱える私立百勇高校。
全国から「突出した才能」と、それを凌駕する「社会不適合なエゴ」を持つ者だけをスカウトして集めた、政府公認の特殊進学校である。
全校集会の退屈な校長の話。だが、この学校の生徒たちの視線は、単なる眠気とは違う異様な熱や冷たさを孕んでいた。
「……えー、したがって、夏休みにおける生活態度は……」
列の最後尾で、高柳 魁(No.006)は大きなあくびをした。
「あー、クソだりぃ。誰かここ爆破しねぇかな!ギャハハ」
彼は単なる不良ではない。中学時代にたった一人で暴走族を壊滅させた「暴力の天才」だ。
その数メートル横で、日下部 慎太郎(No.005)は、周囲の友人と談笑しながら爽やかな笑顔を振りまいている。
一見すれば模範的な生徒。だがその裏で、彼は教師すら手玉に取る「人心掌握の怪物」として暗躍していた。
最前列では、生徒会長の天童 勇輝(No.001)が背筋を伸ばして話を聞き、その隣で終 焉(No.100)は隠し持った英単語帳をめくっていた。
日常だった。
退屈で、平和で、ありふれた高校の昼下がり。
――しかし、彼らはどこかで望んでいたのかもしれない。「この退屈な箱庭」が壊れることを。
その「日常」が、床下から溢れ出した幾何学模様の光によって、唐突に塗り潰された。
「な、なんだ!?」
「地震!?」
「いや、光ってる! 床が!」
悲鳴が上がる。
校長の禿頭が光に包まれて消えた。
続いて、パイプ椅子が、バスケットゴールが、そして100人の生徒たちが、重力を失って浮き上がる。
だが、百勇の生徒たちは違った。恐怖よりも先に、目の前の異常事態に対する「好奇心」や「高揚」が勝り、唖然と上を見上げている。
視界が真っ白に染まる中、誰かの間の抜けた声が響いた。
「これ、ラノベで見たやつ――」
その言葉を最後に、100人の意識はプツリと途絶えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次に感覚が戻ったとき、そこは冷たい石の床の上だった。
高い天井。ステンドグラスから差し込む光。そして、目の前には豪奢な玉座。
典型的な、あまりにもテンプレ通りな「異世界の王城」がそこにあった。
「……成功、したのか?」
玉座に座る老人が、震える声で呟く。王冠を被ったその男は、目の前に広がる光景を見て、顔面を蒼白にしていた。
「ひ、1、2、3……ば、馬鹿な。まさか全員召喚してしまうとは……」
ざわめきが広がる。
100人の高校生たちが、折り重なるように倒れていた体を起こし、周囲を見渡す。
「ここどこだよ!?」
「誘拐か!?」
「おい、携帯の電波ねえぞ!」
パニックが伝染する。泣き出す女子生徒、怒号を上げる男子生徒。
その混沌を切り裂くように、全員の視界に『青いウィンドウ』がポップアップした。
『!?』
AR(拡張現実)のように空中に浮かぶ半透明の文字。
そこに表示されたのは、この世界のルールであり、死の宣告だった。
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【システム・アナウンス】
ようこそ、異世界アーク・アインへ。
貴殿ら100名は、世界を喰らう黒竜ニーズヘッグを討伐するために召喚された「勇者候補」です。
<重要なお知らせ>
召喚陣の座標エラーにより、予定より99名多く召喚されました。
当王国の現在の財政状況(赤字)により、以下の制約が発生します。
1.支援金および伝説の装備は「1名分」しか支給されません。
2.元の世界への送還ゲートを開く魔力は「1名分」しか残っていません。
3.したがって、魔王を討伐し、生還できるのは「1名」のみとなります。
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静寂。
100人の思考が停止する。
1名分?
帰れるのは1人だけ?
じゃあ、残りの99人は?
システムウィンドウは、無慈悲に次のページへとスクロールされた。
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<サバイバル・ルール>
貴殿らには、個々の魂の形に応じた「固有スキル」が付与されます。
また、以下の特殊ルールが適用されます。
【能力略奪】
勇者が他の勇者を殺害(機能停止)させた場合、
勝者は敗者のスキルを奪い取り、自身の能力と統合することができます。
――生き残りたければ、奪いなさい。
健闘を祈ります。
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「ふ、ふざけるな!」
最初に声を上げたのは、生徒会長の天童 勇輝(No.001)だった。
彼は王に向かって踏み出す。
「殺し合いをしろって言うのか!? 僕たちはクラスメイトだぞ! そんなことできるわけがない!」
正論だ。誰もがそう思った。
だが、その正論を嘲笑うように、異変は始まった。
『スキル付与を開始します』
機械的な音声と共に、100人の体が光に包まれる。
制服の形状が変わり、手の中に「異物」が出現する。
それと同時に、彼らの脳内に「使い方はこうだ」という情報が暴力的にインストールされた。
天童の手には、光り輝く『聖剣』が握られた。
その背中には、純白のマントがなびく。
「こ、これは……?」
だが、全員がそんなカッコいい姿になったわけではない。
「な、なんだこれ!? 土!?」
園芸好きの蓮見 育(No.003)は、泥だらけのツナギ姿になり、手にはシャベルを持っていた。
「え、僕だけ農家? 勇者じゃないの?」
「わぁっ! なにこの衣装!?」
チアアイドルの神楽坂 舞(No.007)は、光に包まれた直後、フリフリのチア風衣装に変身していた。手には煌めくポンポン。
「うん、動きやすい! これならみんなを応援できるねっ! エイエイオー☆」
彼女のプロ根性が、異常事態への恐怖を上回ったのだ。
「……ほう」
科学部部長の鉄 鋼太郎(No.004)は、出現した巨大なスパナを興味深そうに眺め、口の端を歪めた。
「魔法ではなく、質量兵器か。悪くない」
「あ? なんだこのエンジン音は」
不良の高柳 魁(No.006)の手には、爆音を上げるチェーンソーが握られていた。彼は周囲の怯えた視線など意に介さず、凶悪な笑みを浮かべて空吹かしをした。
「ギャハハ! 最高の玩具じゃねえか!」
そして、部屋の隅で。
日下部 慎太郎(No.005)は、自分の手のひらを見つめていた。
武器は出現しなかった。
代わりにあるのは、脳内に奔流のように流れ込んでくる『計算式』と『未来予測』の感覚のみ。
普通なら発狂しかねない情報量。だが、彼はそれを受け入れ、一瞬だけ冷ややかな笑みを浮かべた。
すぐに「人好きのする笑顔」を貼り付けたが、その瞳はすでに盤面を支配する管理者のものだった。
(なるほど。この世界は、僕のような人間のためにある。上等だ)
城門が開かれる。
その先には、広大な異世界の大地と、未知の怪物の咆哮が待っている。
ある者は剣を握りしめ、
ある者は絶望して泣き崩れ、
ある者は野心を燃やす。
終 焉(No.100)は、騒がしい周囲に舌打ちをして、英単語帳をポケットにしまった。
「だる……帰って勉強してぇ」
100人のエリート変人たちによる、生存率1%のデスゲーム。
その幕が、最悪の形で切って落とされた。
ご一読ありがとうございます。
ここに召喚されたのは、全員が『チート級主人公』の100人です。 次回から、五人班が作られることになり、バラバラに転送された各班(1班〜20班)のエピソードが始まります。
推しキャラや、お気に入りのとんでも能力がきっと見つかるはずです。
毎日2班ずつ、ノンストップで投稿していきますので、このカオスな物語をぜひ最後まで見守ってください!
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