表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
哭き裂く天使  作者: Norn
第六章:天使の残骸
59/61

第49話:境界を駆ける者

 輸送車の窓から、見慣れない景色がいくつも流れていく。

 基地へ着けば、しばらくは外へ出られないかもしれない。


 「もう、終わりだね……」

 自分でそう言い聞かせても、心はまだ受け入れきれていなかった。


 やがて輸送車は山間部へ入る。

 ガードレールの向こうには深い森が広がり、人の気配はどこにもない。


 きっと、この輸送車とA.E.O.I.の職員だけが知っていそうな道だった。


 『……澄羽』

 「何かな?」

 『気をつけろ』

 「気をつける……?」


 ネヴ=ソスの声はいつになく低かった。

 こんな場所で戦いなど起こるのか、澄羽にはわからなかった。


 「気をつけるも何も……もう遅くない……?」

 そう言いかけた瞬間、窓の外を移動する一つの影を見つけた。


 影は澄羽と目が合う。

 次の瞬間、その腕が振り抜かれた。




 A.E.O.I.中央基地。

 戦闘員が集結した空間に、アナウンスが響いた。


 『緊急連絡。 輸送路B-401を走行中の輸送車が襲撃を受けました。

融合体と思われる反応を確認。 周辺部隊は至急応援に向かってください』


 ホール内がざわつく。

 任務に当たっていない戦闘員は全員ここにいる。

 間に合うかすら、わからなかった。


 その時、ホールの壁際に立っていた職員の列から、一人がレナを見つめた。

 葉狩シュウだった。

 レナはその視線を受け止めた。


 シュウは一瞬だけ、玲司と燈莉に視線を送り、再びレナを見つめる。


 レナに説明は必要なかった。

 シュウが何を考えているのか、彼女には十分伝わっていた。


 「桜庭玲司、花守燈莉。 現場へ向かえ」


 レナの命令。

 燈莉は目を丸くした。

 「私たちだけ……ですか?」


 玲司も眉をひそめる。

 戦闘員は大勢いる。

 それなのに、自分たちだけ。


 「そうだ。 早急に向かえ」


 他の戦闘員がざわつく中で、二人は目を見合わせる。


 「行くぞ」

 玲司は床へ右手をかざした。

 足元の床が波打ち、鏡のような輝きを帯びる。


 「──鏡界侵入(ミラー・イン)

 玲司と燈莉は、その向こう側に吸い込まれていく。


 二人の姿が消えた瞬間、鏡面は音もなく砕ける。

 飛び散った破片は光の粒へと変わり、静かに宙へ溶けていった。




 細い金属音が響く。

 聞くだけでも耳が割れそうな音だった。


 同時に、輸送車の中を何かが通る。

 それは非常に細い糸のようなものだった。


 「糸……?」

 耳を防ぎながら、澄羽は糸を注視した。

 次の瞬間、車体全体が激しく揺れた。


 「きゃっ……!」

 澄羽の身体が横へ投げ出される。

 何かが割れ、金属が軋む音が響く。


 そして、車体が左右へゆっくりと開いていった。


 突然開けた視界。

 歩いてくる少年が見える。

 先程の影はリクス=ヴァイアだと、澄羽は気づいた。


 「見つけたよ。 天使」

 かつて対峙したリクス=ヴァイアは、無邪気な少年に見えた。

 だが今の彼は、瞳の奥に悲しみを秘めているかのようだった。


 一歩、また一歩と、ゆっくりと澄羽との距離を詰めていく。


 「あなた……どうして」

 澄羽が声を掛けても、返事はない。


 ただ、その瞳だけが澄羽を見据えていた。

 やがて、リクスは小さく口を開く。


 「トゥ=レイヴは、ローゼって女に殺された」

 その声は震えていた。


 怒りなのか。

 悲しみなのか。

 澄羽には判別できない。


 「だから、強くならないといけない」

 右手をゆっくりと持ち上げる。

 指と指の間には、陽の光を受けて細く輝く一本の糸が張られていた。


 「ローゼを倒せるくらいに」

 その言葉を聞いた瞬間、澄羽は全てを理解する。

 自分は助けられたわけではない。


 この少年は、自分を殺しに来た。


 「白鷺さん!」

 後方から職員の叫び声が響く。

 「離れてください!」


 男性職員が澄羽の前へ飛び出し、武器を構える。

 リクスはその姿を見ても、表情を変えなかった。


 「邪魔」

 その一言と共に、右腕が静かに振るわれる。


 何も起こらなかったかのように思えた。

 だが、ゆっくりと変化は訪れた。


 男性職員の左肩から右脇へ、一本の赤い線が走る。

 一拍遅れて、その傷口が開いた。

 身体は静かにずれ、そのまま崩れ落ちる。


 「次は天使。 終わりだよ」

 リクスはゆっくりと糸を揺らす。


 『澄羽』

 ネヴ=ソスが呟く。


 『奴らも来る』

 (奴ら……?)

 澄羽が意味を問い返すよりも早く、リクスは糸を振るっていた。

 澄羽はすんでのところで身を屈める。


 糸が通り過ぎた数瞬後。

 背後の木々が一斉に傾き始め、そのまま轟音と共に倒れていく。


 「……やるしかない、よね……!」

 立ち上がり、リクスをまっすぐ捉える。


 変身、そう呟くはずだった。

 突如、目の前に鏡面のような光が発生し、男女二人が飛び出してくる。


 玲司と燈莉だった。


 「また二人? メルグは良いけど君はいらないんだって」

 リクスは躊躇いなく糸を振るう。


 「……! 危ないっ!」

 考えるよりも先に、体が動いていた。

 澄羽は玲司を抱えるようにしながら、共に倒れる。


 その瞬間、頬を熱いものが走る。

 指先で触れると、頬からこめかみまでが抉られていた。


 「白鷺……どうして俺を庇った……?」

 澄羽は一瞬、玲司と目を合わせる。

 血の伝う口元に小さな笑みを浮かべると、リクスへと視界を移す。


 「……変身」

 抉られた頬が瞬く間に再生する。

 続けて、全身が大きく脈動した。


 以前よりも速く肉体が巨大化し、刃状の手甲も、背中の翼状の突起も、より鋭く変化した。

 複数の目が顔の半分を埋め尽くし、異形の天使は再び姿を現した。


 その姿は以前よりも、明らかに人間から遠ざかっていた。


 「白鷺さん……」

 玲司の目の前で、天使の姿を見せる。

 それだけは、燈莉が何としても避けたかった光景だった。


 だが、それが実現してしまったのだ。


 天使は双剣を生成すると、リクス目掛けて剣を投擲する。

 あの日、トゥ=レイヴが薙刀で見せた一撃を思わせる速度だった。


 剣が届く寸前。

 リクスの指先から伸びた糸が、それを弾き飛ばした。

 リクスの糸は、天使の剣で断つことはできない。


 「さすが」

 リクスは小さく呟く。

 「けど、絶対負けないよ」


 その声と同時に、足元へ黒い影が広がった。

 まるで液体のように揺らめく影が、ゆっくりと両足を這い上がっていく。


 衣服は音もなく崩れ、黒い外殻へと姿を変えた。

 腕は細く、より長く。

 指先は鋭く伸び、その間には銀色にも黒色にも見える極細の糸が張られている。


 一本。

 二本。

 三本。

 そして、四本目。


 張られた糸は空気を震わせることなく伸び、周囲の木々へと吸い込まれていった。


 全身は人間よりも一回り大きい程度。

 しかし、その細身な体躯から放たれる気配は、人間とはまるで違う。


 背中を覆う外殻は脈打つように収縮し、肩や腕には刃のような突起が静かに形成される。


 瞳だけは変わらなかった。

 涙を浮かべたようにも見える、その幼い瞳だけは。


 「トゥ=レイヴ……」

 その名を呟いた瞬間。

 リクスの姿が掻き消えた。

 四本の糸が、四方向から天使へと迫っていた。


 『上だ』

 天使は大きく跳躍し、空へ舞い上がる。

 四本の糸が、その背を追うように奔る。


 双剣を振るい、迫る糸を弾く。

 断ち切ることはできない。

 だが、その軌道を撓らせることならできた。


 四本すべてを払い除けると、天使はその勢いのままリクスへと急降下する。

 刃は一直線に振り下ろされた。


 ――届く。


 その瞬間だった。

 目の前の空間が、蜃気楼のように大きく歪む。


 剣筋がわずかに捻じ曲げられ、刃はリクスの肩先を掠めるように空を裂いた。


 「残念」

 リクスは静かに笑う。

 「前の僕とは違うんだ」


 言葉が終わるより早く。

 一本の糸が、天使の横腹を貫いた。


 「――ッ!」


 鈍い衝撃が全身を駆け抜ける。

 そのまま空中で体勢を崩し、地面へ叩きつけられた。


 土煙が舞い上がる。

 玲司は目を見開いた。


 「白鷺!」

 土煙の向こう。

 静寂が数秒だけ流れる。


 やがて、その中からゆっくりと一つの影が立ち上がった。


 横腹には風穴が開いている。

 だが、その傷口は赤黒い肉を蠢かせながら、音を立てるように塞がっていく。


 「……やっぱり」

 リクスは表情を変えない。


 「そのくらいじゃ、死なないよね」


 そう呟くと、四本の糸を指先で静かに張り直した。

 その姿勢は、先ほどまでとは違う。


 遊びではない。

 本気で天使を討つための構えだった。


 「玲司……私たちも戦おう」

 燈莉は玲司に耳打ちする。

 しかし。


 「……不用意に介入すれば、邪魔なだけだ。だが、援護くらいなら」


 玲司は静かにリクスへ手を向けた。

 その瞬間、リクスの糸が再び天使へと奔る。


 「……鏡界侵入(ミラー・イン)

 糸の軌道上に鏡面が現れる。


 糸は鏡へ吸い込まれ――


 次の瞬間、リクスの背後に現れた鏡から飛び出した。


 「……!」

 リクスは咄嗟に身を捻る。

 糸は黒い外殻を裂き、肩口を掠めて通り過ぎた。

 初めて、その表情がわずかに揺らぐ。


 「へぇ」

 リクスはゆっくりと玲司へ視線を向ける。


 「前に比べれば、知的な戦い方じゃん」

 そう言いながらも、口元にはわずかな笑みが浮かんでいた。


 リクスは複数の糸を張り詰める。


 「でも、邪魔なのは変わらない」

 次の瞬間、数本の糸が玲司目掛けて奔った。

 ただ一人――燈莉だけを避けるように。


 「……!」


 玲司は咄嗟に手を掲げる。


 「鏡界侵入(ミラー・イン)――」

 だが、展開が間に合わない。


 その刹那、天使が双剣の一本を投げ放った。


 剣は高速で回転しながら糸を弾き飛ばす。

 天使はその勢いのまま地を蹴る。


 一瞬でリクスとの間合いを詰め、その巨腕がリクスの頭部を掴んだ。


 『今だ』

 ネヴ=ソスの声が響く。

 同時に、澄羽の脳裏へ膨大な戦闘情報が流れ込んだ。


 理解するより先に、体が動く。

 掌へ眩い光が収束し、青白いプラズマの炎が奔流となって放たれた。


 (これって……!)

 『通仙で交戦した宇宙外生命体だ。 その中に、この力を扱う個体がいたのだろう』

 リクスの外殻が焼失していく。


 「まだっ……!」

 その最中、リクスは一本の糸を天使の首へ巻きつけ、そのまま腕を力強く引いた。


 鈍い音が響く。

 糸は外殻へ食い込み、首へと深く沈んでいく。

 だが、切断には至らない。


 距離を取らせれば、その瞬間に首が落ちる。

 それを理解していた天使は、リクスの頭を掴む手を決して離さなかった。


 互いに一歩も退かない。

 まさに力と力の拮抗だった。


 燈莉はカイメラを介し、二人の動きを見据える。

 その瞬間、リクスのもう片方の腕が、わずかに動いた。


 (――来る!)

 カイメラの知覚がなければ、決して気づけないほど微かな予兆だった。


 「構造崩壊(ストラクト・ブレイク)!!」

 燈莉の能力が発動する。


 リクスの片腕が内側から音を立てて崩壊し、張り詰めていた糸が緩む。

 首へ食い込んでいた糸がわずかに弛み、天使は切断を免れた。


 「これくらい……!」

 リクスはなおも腕を動かそうともがく。

 だが、内部構造を崩壊させられた腕は、もはや指一本動かなかった。


 その一瞬だった。

 天使は双脚に力を込める。


 『今だ』

 ネヴ=ソスの声と重なるように、全身へ力が収束していく。


 レナから教わった制御法。

 膨大な力を解き放つのではない。

 一点へ圧縮する。


 そのための技術だった。


 周囲の空間が軋む。

 しかし、その力は外へ漏れ出ることなく、ただ拳へと集約されていく。


 そして、天使は全身の捻りを乗せ、リクスの肋に渾身の一撃を叩き込んだ。


 もし解き放てば、銀河にすら影響を及ぼしかねない力。

 その膨大な力は極限まで圧縮され、ただ一撃のためだけに収束していた。


 天使は今、確かにリクスやグラ=ゼルへ届く領域へと近づきつつあった。


 リクスの体は地面へ叩きつけられる。

 大地が砕け、土煙が舞い上がった。


 数秒の静寂。

 やがて土煙の中から、ゆっくりとリクスが立ち上がる。


 肩で荒く息をつきながら、その拳は小刻みに震えていた。


 「……っ、どうして……! どうして、お前たちばかり強くなって! 仲間に支えられて! 僕たちの邪魔ばかりするの!!」


 リクスは頭を抱える。

 変貌した顔から涙が流れることはない。


 表情さえ読み取れない。

 それでも、その叫びだけで十分だった。


 彼がどれほど苦しみ、どれほど喪失を抱えているのかを物語っていた。


 「トゥ=レイヴは……! あいつは、もう帰ってこないんだぞ! なのに……! この戦いは、人類が始めたくせに!!」


 叫びと同時に、四本だった糸がさらに増殖していく。


 幾重にも張り巡らされた糸は空間そのものを覆い尽くし、天使を中心に巨大な檻を形作った。


 一歩でも踏み出せば、その肉体は細切れになる。

 逃げ場は、どこにもなかった。


 その時だった――


 黒の凶鎚が糸の檻を砕きながら、天使とリクスの間へと落ちた。

 轟音とともに大地が揺れ、張り巡らされていた糸が次々と弾け飛ぶ。


 「このハンマーは……」

 燈莉が震える声で呟いた。


 『奴が来たか』

 ネヴ=ソスが静かに告げる。


 天使はゆっくりと顔を上げた。

 そこには、玲司、燈莉、リクス、そして天使を見下ろす一人の女性――グラ=ゼルが立っていた。


 戦力は、一気に敵側へ傾いた。


 リクスに加え、グラ=ゼル。

 この二人を同時に相手取ることは、今の天使でも容易ではない。


 だが。


 「リクス=ヴァイア。帰るぞ」

 人間態のまま、グラ=ゼルは静かに言い放った。


 「まだ倒してない!」

 リクスが叫ぶ。

 「グラ=ゼルも手伝ってよ!」


 感情のままに腕を振るう。

 糸が周囲を奔り、木々や岩を次々と切り裂いた。


 天使たちがそれを避ける中、グラ=ゼルだけは一歩も退かない。

 そのまま歩み寄ると、暴れるリクスをそっと抱き締めた。


 「先程の言葉、聞いていた」

 グラ=ゼルの言葉に、リクスの肩が震える。


 「……私たちは、お前を支えられていなかったようだ」

 「グラ=ゼル……」

 リクスの腕から力が抜ける。

 張り詰めていた糸が一本、また一本と消えていく。


 やがて外殻は崩れ、人間の姿へ戻っていった。

 グラ=ゼルはその頭へ静かに手を置く。


 「天使を甘く見てはならない。 油断すれば、狩られるのは私たちだ。 だが、それ以上に――」

 グラ=ゼルは一度言葉を切り、リクスの目を見る。


 「お前まで失うことを、私は望まない」


 リクスは唇を噛み締める。

 しばらく俯いたまま震えていたが、やがて小さく頷いた。


 「……ごめん。 帰ろう」

 その一言だけ返し、グラ=ゼルは凶鎚を担ぎ直す。


 「天使よ」

 グラ=ゼルと目が合う。

 天使の方が体躯は遥かに大きい。


 それでも、不思議と見下ろされているような感覚があった。


 「お前がこちら側に立つ日も、遠くないのかもしれない」

 それだけを残し、グラ=ゼルはリクスを抱えたまま姿を消した。


 森に静寂が戻る。

 それでも天使は変身を解かなかった。


 玲司と向き合いたくないからなのか。

 それとも――まだ戦いが終わっていないと、本能が告げているのか。


 玲司がゆっくりと槍へ手を添えた、その時だった。

 静寂を切り裂くように、重低音のエンジン音が響く。


 一同が振り向く。

 林道の奥から、一台の大型バイクが姿を現した。


 漆黒の車体。

 無駄な装飾は一切ない。


 ただ、その存在だけが異様なまでの威圧感を放っていた。


 運転する男は黒いフルフェイスヘルメットを被っている。

 表情は見えない。

 年齢すら判別できなかった。


 重低音を響かせながら、黒いバイクが天使の数十メートル前で静かに停止した。


 黒いフルフェイスヘルメットに覆われた素顔は見えない。

 それでも、その場の空気は一変していた。


 玲司は思わず槍を握り締める。

 燈莉もまた、カイメラを介して男を見ようとする。


 だが、見えない。

 輪郭だけは捉えられる。

 しかし、その存在だけが霧に包まれたように認識できなかった。


 (……あれは)

 『……そうだ』

 ネヴ=ソスの声が静かに響く。


 『気を抜くな』

 天使は双剣を構え直す。


 男は、左腕を胸の右斜め前へ。

 右腕を大きく引く。


 まるで、一つの儀式のように。

 洗練され、一切の無駄がない構えだった。


 静寂が森を包む。

 男は静かに口を開く。


 「境界を駆ける者――ヴァル=ゼリクス」


 その名が告げられた瞬間だった。

 男の全身を黒い粒子が駆け抜ける。


 外殻が音もなく四肢を覆い、胸部には漆黒の装甲が形成される。


 ヘルメットは砕けることなく、そのまま異形の頭部へと変質した。

 紅い複眼が静かに灯る。


 バイクもまた唸りを上げる。

 車体へ黒い紋様が走り、装甲が展開されていく。


 まるで生き物が目覚めるように。


 生命体と機械。

 二つは境界を保ったまま、一つの戦士となった。


 「何だ……あれ……」

 玲司は思わず息を呑む。

 燈莉の額にも冷や汗が浮かぶ。

 カイメラで視ても、理解が追いつかない。


 『……奴は』

 ネヴ=ソスが呟く。

 『皇帝に最も近づいた者だ』


 ゼリクスはエンジンを一度だけ吹かす。

 山々が震えた。


 「今日は討ち取りに来たわけじゃない」

 アクセルを軽く捻る。

 タイヤが地面を削る。


 「お前が、どこまで辿り着いたのか。 ただ、それを見に来た」


 次の瞬間、黒い閃光が一直線に天使へ迫る。


 その速度は、リクスとは比べものにならなかった。

 天使は反射的に双剣を交差させる。


 衝突――

 轟音が山々へ響き渡った。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。

更新まで大変お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。


今回はリクス=ヴァイアの「糸」を使った戦闘描写にかなり苦戦してしまい、「どう動かせば面白くなるか」「どうすれば強さを表現できるか」を考え続けていた結果、思っていた以上に更新が遅くなってしまいました。


次回はヴァル=ゼリクスとの戦闘に突入します。

ここからさらに物語は大きく動いていきますので、引き続き『哭き裂く天使』を楽しんでいただけたら嬉しいです。


今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ