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4話〜疑念と届く牙〜


「三日前、ユミハリとヤリツキが獣に噛み殺された。聞いているな?」


「はい。あまりの出来事に整理が追いついておりませんが……悲しさのあまり、胸が張り裂けそうです」


 王の前で片膝をつき、そう言っているのは勇者チームの一人、サヤナシ。

 剣の腕は王国一と謳われており、剣の腕だけなら勇者以上とも言われている。


 その隣で同じように片膝をついているのは勇者であるグーラット。

 剣術と魔術に優れた魔王軍に対する人類軍の切り札。

 人類の希望にして、クロミツの最大の敵。


 そんな二人に向かって王様は続ける。


「勇者チームの約半数を失った今、魔族軍への攻撃は延期となった」


「な、何故ですか王!! 我々だけでも戦えま」


「そうだろうか。だが総攻撃には我が国の騎士達も加わるのだ」


「そ、それが何だというのですか。我々の力があれば」


「彼等はお前達が魔王を倒すまでの間、他の魔族が妨害せぬように足止めをする、いわば壁役。だからといって、無駄死にさせてよい命ではない」


「我々だけでは、不安だというのですか?」


「違う。今の総攻撃の作戦は勇者チームが揃っていて成り立つもの。故に、今のお主達を完全にサポートはできんのだ。此度の延期はその作戦の立て直しを兼ねているのだ」


「し、しかし」


「分かってくれ」


「……承知しました」


 いくら勇者といえど王様には逆らえない。

 二人は渋々頷くとその場を下がるのだった。




「ちっ、あのジジイ……いつか叩っ斬ってやる」


「そう言うなよサヤナシ。アイツがいなきゃ俺達は活動できねぇんだから」


「あーあ。暇になっちまったな〜」


「そうだな」


「なぁなぁ、そういやまたあの村には行くのか?」


「村ぁ? あぁ……前の聖女の村か。どうすっかなぁ……いつまでも殺した女の墓参りってのもなぁ」


「でしょ? そろそろ良いんじゃない? もうさ、時効だよ時効だよ」


「それで良いかもな。いつまでも過去に縛られてちゃ前に進めねぇもんな」


「そうそう!!」


 そんな事を話しながら歩く二人。


 誰も聞いていない。

 そう思ったのでしょう。

 せめて、確認するべきでした。


(ど、どういう事? 殺したって……だって前の、アーリアさんは)


 その話を、彼に用事があって探していたモリメが聞いていたのだ。


(……少し、調べた方が良さそうですね)




 既に噂になっていた。


 勇者チームのメンバー二人が、正体不明の獣に殺されたと。


 その噂を聞いた誰かが言った。


「食い殺されたのか?」


 誰かが答えた。


「食われてはいないらしい」


 誰かがまた尋ねた。


「じゃあ噛み殺されたのか?」


 それに誰かが答える。


「どうやらそうらしい」


 殺し方から、食う事が目的ではないのではないなと予測する学者も出てきた。


 獣が襲うのは腹を減らしている事が理由の大半、次に攻撃されたから反撃する。


 ユミハリの時は先に騎士達と戦闘になっており、その延長線上襲われたかと思われた。

 が、ヤリツキの時のケースがそれを否定した。


 ヤリツキを食べずに馬を食べた。


 つまり、腹は減っていたが捕食目的で襲った訳ではないという結論を出したのだ。


 ユミハリの際にも遺体の損壊は激しかったが食べられた痕跡は一切無かった。


 それを考慮し、城に仕える獣の学者達は今回暴れている獣、あるいはその獣の飼い主が勇者チームに強い恨みを抱いている可能性を示したのだ。


 勇者チームはそれを否定したが学者達の言う事を覆す事はできない。

 というのも、ユミハリの時に負傷した騎士達は誰一人死んでいないのだ。

 怪我をしている者は多数いたが、重くて骨折止まり。

 ヤリツキの時も馬を食べはしたが御者に危害を加える事なく去った。


 つまり、初めから勇者チームの二人を狙っていたと報告の席で学者は伝えた。

 更に学者の一人はこうも言った。


「この獣は標的かどうかを見分ける事ができる、知能の高い獣の可能性もある」


 そう言ったのだ。

 むやみに襲って虐殺するのではない。

 標的かどうかを認識し、標的でなければ撃退でとどめ、標的だけを惨殺する。


 個体を認識できる獣。

 それだけその個人に恨みがある獣。

 そしてその恨みを他人にぶつけない獣。


 学者の総意としては、その獣は非常に知能の高い人種の獣だと発表。

 王様に対して殺害ではなく捕獲するように進言したのだ。


 が、勇者達は真逆だった。

 そんな危険な獣を捕獲なんてふざけるなと言ったのだ。

 仲間が殺されたのだ。

 言いたい事は分かる。


 が、王様は学者達の言いたい事も分かった。

 彼は若い頃は生物学者になる事を目指していたからだ。

 だから彼はこう言った。


「捕獲前提で動き、危険だと判断されたら殺処分とする」


 そう言って両者を黙らせた。


 それで面白くないのは勇者側だ。

 というのも、恨まれる筋合いは数え切れないほどあるのだ。


 勇者だからと金を払わずに飯を食った、宿に泊まった、気に食わない相手を牢に入れた。

 数えたらキリがない。


(その内のどいつかが俺を恨んでいるだと? ふざけやがって……)


 恨みからの襲撃というのは当たりだ。

 だが、その犯人が黒猫だと誰が想像できるだろうか。




 そんな中でモリメはアーリアの死因について調べた。

 しばらくは魔王軍との戦いは無いので、時間を最大限使って調べた。


 そこで分かった事がある。


(これは……おかしいわ)


 あの日、犯人の痕跡はなかった。

 犯人が痕跡隠しのスキルを使ったのだろうと言われていたが、スキルを使われた痕跡すらなかったのだ。

 人がやる以上、何かしらの痕跡が残るのだ。


 これは王城に仕える魔導士も言っている事。

 かすかでも残ると言っていた。


 それすら無かったのだ。

 つまり……


(犯人は……痕跡を隠していない?)


 という事は犯人は内部の人という事になる。

 つまり……


(犯人は勇者……達?)


 正解だった。


 では誰が襲っているのかと次に思った。

 アーリアの両親、恋人に友人。

 思い当たる節を片っ端から調べた。

 両親は足が不自由なので二人がかりでも勇者チームのメンバーを襲う事は無理だ。

 次に恋人のアルスだが、彼はその日患者を看ていたというアリバイがある。

 では友人だろうかと思ったが、彼女の敵討ちをするほどの仲の相手はいないという。


(では誰が……)


 そう思った所で彼女は思い出す。

 昔聞いた話だ。

 異国の地にあった話。

 それは、飼い主の仇討ちを犬がするという話。


 それを思い出して彼女は墓参りに行った時の事を思い出す。


 確かいたはずだ。

 アーリアの友人が。

 小さくて可愛かった、黒い友人が。


(まさか……いやありえない。あんな小さな子が二人を?)


 普通に考えて無理だ。

 だが、ありえないと決めつける事もできない。

 というのも、スキルを持った動物はいるのだ。

 動物をテイムし、使役する者は稀に自分の相棒である動物にスキルを覚えさせる者がいる。

 聴覚を強化したり、視力を強化したりする者がいるのだ。

 他にも戦闘を手伝わせるためにテイムした者は相棒に筋力強化等のスキルを覚えさせる。


 つまり自然では覚えないスキルを、後天的に覚えさせる事は可能なのだ。


(じゃあ……恋人が覚えさせて襲わせた? でも)


 アルスはこの件を知らないはずだ。

 自分だって調べて今やっと知ったのだ。

 一般人である彼が知っているとは思えない。

 そう思った。


(……いったい、誰が。いや、勇者が彼女を殺したという事が事実であるのなら、それを明るみにして裁ければ、犯人は獣を止めてくれるかもしれない)


 じゃあそうするにはどうすれば良いか。

 勇者を問い詰めれば良い。

 そう思い、勇者達を探しに出るモリメ。


 運の良い事に、その時はすぐに訪れる。






「はぁ、はぁ、はぁ……くそっ!! ふざけやがって!!」


 酒を飲み、気持ちよくなっていた時、黒い死は彼を襲った。

 サヤナシは女を侍らせ、酒をあおっていた。

 魔王軍と戦う前に英気を養うためだ。


 その時だった。

 壁を突き破り、黒い獣は店内に乱入してきた。

 混乱する店内。

 逃げ惑う客。


 剣に手を伸ばすサヤナシ。


 そんな彼に襲いかかった獣は、サヤナシの腕に噛みつき、最も容易く噛みちぎる。


 吹き出した血が目隠しになったのか、獣が怯んだ隙に彼は店から逃げ出し、城に向かった。


「お、おい騎士共!!」


「サヤナシ様?」


「そのお怪我は……どうされましたか!?」


 片腕を失ったサヤナシを見て目を見開く騎士達。


「け、獣が出た!! 俺を助けろ!!」


 対するサヤナシは騎士達をそう命令し、城内に逃げ込む。


「け、獣……だと!?」


「あ、アイツか……」


 騎士達が剣を抜き、迫る獣に向き合う。

 が、獣は彼らを飛び越え、サヤナシを追って場内に入ったのでした。






「……勇者様、お話があります」


「なんだ、モリメか。何の用だ?」


「アーリア様の死について、真相をお話ください」


「アーリアの死の真相? 報告書から書物庫に」


「スキルを使われた痕跡が無い。とありましたよ」


「……何?」


 城の一角で、モリメがグーラットを問い詰める。


「スキルを使用すれば、必ず痕跡が残るものです。それが無いという事は」


「……ちっ、金をやったっていうのに」


「グーラット!! 貴方って人は!!」


「言っておくが俺じゃねぇぞ。俺じゃ……」


 その時だった。


 ビタッ……ビタビタッ……


 と粘ついた液体が垂れ落ちる音が聞こえ、振り返るグーラット。


「な、なんで……ここに……」


 その目は恐怖に見開かれていた。


「……これが、獣」


 遅れてそれを見たモリメは口を両手で押さえて呟く。


 そこにいるのは黒き獣。

 勇者チームのメンバーに死をもたらすもの。


 それが咥えるのはサヤナシだった物。

 次はお前がこうなる番だと言うように、獣は咥えていた物を放り投げる。


 それはサヤナシの上半身だった物。

 それはグーラットの足下に、ドチャリと音を立てて落ちた。

お読みくださり、ありがとうございます。


次で……

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