ガール・ミーツ・トゥルー④
白い胞子がふぅわふわ、またも火炎茸が蔓延るボスエリアにやって来た。出戻りさせた張本人は先程俺達が戦闘を行っていたメインの広場のような空間までサッサと走っていっていた。
まだヴァパが出現していないのか、様子を伺っているだけなのか、姿は見えない。俺と御薬袋さんはまるで幽霊でも出るかのように、一つ一つの木の陰などもしっかりクリアリングしながら、鈍足に広場の方に向かっていく。
「あー……二人とも、そんなに身構えなくても大丈夫よ。これから現!上位ランカーの実力を示そうってんだから、大船に乗った気で楽にしてなさい」
「い、いやぁでも、急に噛みつかれたらびっくりしますし……」
「大丈夫よ……見ててね、【サーチ・エネミー】」
泥しぃがインベントリから黒く染められた身の丈程の杖を取り出し、自身の周囲を撫でるようにくるんと一回転する。と、同時にその動きに合わせて殆ど全方位に魔力かエネルギーの波のようなものが迸り、俺達を通過した際には風圧紛いのものも感じた。
一応、ゲームの設定上所謂MPとは魔法を使うための【魔力】とWAO内では設定されている。威力に関わるINTとは別枠で、魔力が高い、とはつまり魔法を沢山打てるという事だ。そしてその魔力をそれを具現化したり、様々な効果を持つよう練り上げたりしたものが【魔法】や【スキル】だ。
今のは間違いがなければ索敵スキルである【サーチ】だ。しかも探すものを指定出来ているので精度も高い。このスキル一つの扱い方からして、悔しいが前の俺のアカウントなどより遥かに格上なのが、身に染みる。
「おわっ、今の風は何かスキルですか?」
「そう、【サーチ】系のスキルよ。まっ白ちゃんは見た感じ魔法職じゃなさそうだから、いつか2次3次の職業選択によっては使えるかもね」
「それで、ヴァパはいた?」
「はいはい焦らない焦らない、もう、出て来てるし。はなだちゃんは魔法使いでしょ、私の戦いっぷりを是非参考にしてね。じゃあ、行くわよ‼︎【ウィンド×3】」
ばちこーん⭐︎と効果音が可視化出来そうな位、綺麗なウィンクを決めた後、先ずは泥しぃが浮き……浮いた!
一定量の強さに留めた竜巻を足元に発生させて浮かび上がったようだ。その状態で泥しぃは、足元の竜巻だけでなくボスエリア全体に向かって抵抗のしようも無いであろう勢いの風を強制的に吹かせている。
やがてその風は広場の中心で渦を巻き出し、よく見るとヴァパの幼体が沢山巻き込まれて来て錐揉みしている。そして……。
「ほぅら、いらっしゃぁぁい‼︎」
一際声を張り上げた途端に、奇怪な金切り声を上げながら先程よりサイズが大きそうなヴァパが最早大きな竜巻になりつつある広場の方へ吸い込まれていくのが見えた。ボスやモンスターのサイズは毎回微妙に違う。
そのまましばらくすると他の幼体も新たに竜巻に向かって飛んで行く事はなくなり、泥しぃが器用にも足元の竜巻の回転を操って、空中で方向を変えて此方に振り返る。
「さぁて、はなだちゃん。はなだちゃんは今使える魔法は?」
「お、おぉ……ええっと、【ファイアボール】に【ウィンド】、後最近【氷球】も覚えたかな」
「あれ、いつの間に氷の魔法を」
えっへん。実はさっきのヴァパ戦でレベルアップしている、その時だ。【氷球】は前のアカウントでも取得していたが握り拳大の氷の塊を出現させて操る魔法だ。
後ついでに言えば【ダブルスラッシュLv2】【溜め切りLv2】へも成長。新規取得はもう一つ【麻痺耐性(弱)】だ。麻痺にならない訳じゃないが、なった際の自然回復までの時間と、後はピリピリしたりする程度が少し軽くなる。
「じゃあまぁ今回は……【アイスキューブLv6】!」
泥しぃが魔法を唱えるや否や、竜巻内に馬鹿でかい、それこそ一つ一つがショベルカー並みの大きさ程もある氷球……いや氷塊だな、が出現し、竜巻の渦に組み込まれる。
投入された氷塊は中をすり潰す。ヴァパや幼体にぶち当たると、竜巻の勢いとその体積を活かしてゴリゴリと、文字通りすり潰すようにダメージを与えているようだ。
「おぉ〜……すげぇ。人で考えたらグロいよね」
「なんで人で考えてるんですか……幼体なんかは一回氷塊が掠っただけだけでも倒せてますね」
寧ろヴァパはあの唸る氷塊竜巻の中でまだ保っている方で、流石の耐久と言える。まぁパーティーメンバーが3人に増えてもいるので、その分エリアボスはHPも増えた影響かもしれないな。
そうこうしている間にずっと竜巻の中で震えたり、虚空に噛み付いたり、ブレスを放ってみたりと何とか脱出する方法を探していたようなヴァパの動きが、ピタリと止まる。
それと同時に泥しぃも俺達の目の前まで小型の竜巻を操作して降り立つ。ふわぁっとローブが舞い上がり、見えそうで見えない、くぅぅ。
「そろそろかしらね……はなだちゃん、こういった魔法の組み合わせも魔法使いには大事よ」
「……悔しいが凄かった」
「なんで悔しいのよ⁉︎」
ぎゃあぎゃあと噛み付いて来そうな勢いでリアクションを取りつつも、竜巻用のウィンドも解除したのかヴァパが勢いそのまま地上に投げ出される。勿論氷塊は更にその前に解除済みでフレンドリーファイアの心配もない……たまに思いがけない事故とかで周りのプレイヤーをキルしちゃう事あるから、安全確認は大事よ。
ぼとりっ、と投げ出されたヴァパは最早ぴくりともせず、見るからにノックダウンだ。あの手際の良さは正に圧巻だな。
俺達が結構必死こいて倒したエリアボスも、上位プレイヤーからしてみればこの程度。寧ろ時間さえかけて良ければ、ウィンド単体だけでも勝てていたであろう。
「恐れ入りました……泥しぃさん凄いですね‼︎」
「ありがとう、そうでしょうとも……あっ⁉︎」
「「あっ?」」
自慢げに鼻を高くしていた泥しぃが御薬袋さんに向かって突如手を伸ばす。
慌てて御薬袋さんに視線だけ合わせると、もう頭の上までヴァパキッドが差し迫っていた。恐らく、いや確実にこのボス戦で無傷だった御薬袋さんが、致命傷を受けることはないだろうが反射的に気持ちが焦る。多分泥しぃも。
そして当の本人は頭上からの攻撃に気付いてはいない。もう噛みつかれる、牙が頭に触れるかどうか……その瞬間。
きゅいーー‼︎と轟く我らがヒーロー、癒し担当、今までどこ行ってたの?な声が轟く。そして登場と同時に、ヴァパキッドの体を軽快に蹴り上げ、ヴァパキッドは無惨にも胞子を撒き散らしながら吹っ飛んで行った。
「トゥルー‼︎」
どこにいっていたかって?一応先の戦闘では、俺に次いでHPを減らしていたトゥルーを、素材回収中に万が一の為御薬袋さんのモンスターインベントリ内に収納していたのだ。
因みに、テイムしたモンスターはインベントリ内だと時間経過でHPが回復するが、出現中はプレイヤーと違い時間経過では回復する事はない。その為、泥しぃが乱入して来る前から姿を消していたのだった。
「トゥルー良くやった!【ウィンド】」
油断する事なく、面倒な胞子が辺りに飛び散らないように泥しぃに倣いウィンドを竜巻……までは難しかったので風圧強めの風を時々方向を変えながら操作し、遠くまで胞子を散らしてみた。自ら行なってみると、泥しぃが如何にあの時精密な操作をしていたかがよく判った。
漸く事態を察知した御薬袋さんは、お手柄のトゥルーを抱きしめて頭を撫でくり回している。いいなー。俺もしたいし、もふりたい。
「ち、ちょっ、えっ……この子テイムモンスターなの⁉︎いや、それより、ごめんなさい!多分サーチ漏れがいたみたい」
「いえいえ、そんな!大丈夫ですよ、トゥルーが助けてくれましたし」
「そう、その子よ!トゥルーちゃん?は見たところ【トゥルエビッツ】、よね?あんなのテイム出来るの?」
「え、寧ろ出来ないの?」
トゥルエビッツがテイム出来るのかどうかは聞いた事が無い、というか前までは魔物使い関係に興味が無かったので調べもしなかった、という方が正しい。精々PK対策に対魔物使い用の知識と、よく連れてるモンスターを一般的な程度調べた位か。
エリアボスやダンジョン等のモンスターがテイム出来ないのは元からの仕様だ。ただフィールドやダンジョンに沸く、レアモンスターは条件さえ満たせばテイム可能だとも知っているのだが……この泥しぃの反応的にはトゥルーのテイム成功はかなり価値があるのでは。
「この子達、見た目が可愛いし縁起が良くて人気だからね。かなりのプレイヤーが色んな方法で挑戦していたみたいだけど……ウチのギルドでも無理だったわ。それより、話の腰を折るようだけど勿体無いから素材取りながらにしましょ」
「おぉう、すっかり忘れてた」
勿体無い勿体無い、えーと……【奇ノ粉】に【ヴァパの体液】だらけ、と。さっきのと大して変わりないか、強いて言えば一つ【魔茸の菌床】なるものが手に入った。使い方はわからない。
そして一度目の戦闘では完全に頭から忘れ去られていた【パパラッチ】の事を思い出して、ヴァパの力なく横たわる姿をパシャリ。
___プレイヤーはなだの【パパラッチ】スキル下においての撮影を確認。
___写真内に複数の重要確認物を検知しました。
___内容毎にステータスに補正が施されます。
___ATK+10 DEX+8 HP+6 INT+12
うっわ、ヤバい。たまたま、いやほんのちょっとあわよくば泥しぃも写ればと出来心は有り、角度を考えて写真に収めてみたら……いったい何個反応したのやら。山程のレアアイテムの反応が一瞬表示される。
【方位の魔女の黒杖】、これはあの時の杖だな。【方位の魔女の黄金比】【ハイラックラックヒール】に【代わり身のペンダント】etc……いやなんだこれ、全身セレブかよ⁉︎
先程の戦闘から、上位プレイヤーであるという実力は認めよう。そりゃあレア装備だって持っているのだろうけど……ええっ⁉︎俺がプレイしていたWAOの全盛期でも、こんなにレアな装備って揃えれるもんだったか?
わからないヤバい、でもラッキー……なんだろうな。兎に角怪しまれずに撮影は出来た、幾らなんでも初対面で写真撮ろうなんて言えないし、かと言ってまた近々会えるとも限らないしな。良いタイミングだった。
そして、今回は時間もたっぷりあったので、直ぐに素材の方も集め終わり、また3人で出口付近でボスエリアが解除されるのを待つことにする。
「それで、その子はトゥルエビッツ、であってる?」
「はい、一応」
トゥルーは自分を見てから目つきが鋭くなった、気がしないでもない泥しぃの視線から逃れるように御薬袋さんの胸元に顔を埋めて隠れている。
御薬袋さんも流石に小慣れてきたのか価値のある情報を、ペラペラと語り出す事はせずに、時々チラッと目配せしては何処まで話して良いのかの確認をしてくれている。情報は力だからね、偶然のテイムだったにしてもそれは変わらない。
恐らく泥しぃも情報収集というか、交渉に身を乗り出してきている。ここからは一つ一つの言動にも注意が必要だな。
「そう、じゃあテイムには成功した、のよね?」
「そうだな……まだこの、トゥルーでしか試せてないけどね」
「そう」
ふむふむ、と恐らくメモ機能にでも記入しているようで、時折直接指で入力してそうな様子が見受けられる。まぁここらで、此方からの無償提供は打ち止めかな。強引に会話を途切れさせる事にする。
「こっちもトゥルーがどうしてテイム出来たかはわからないんだ。色々勉強させてくれた手前あれなんだが、悪い」
「……そうよねぇ、そんなところよね。じゃあ別の事を、貴方はこの後どうするの?」
______ボスエリアの解除を3分後に行います。素材等の回収をお勧め致します。
「えーと……次のエリアに行こうかと。そう言えば泥しぃさんはあんなにお強いのに、どうしてこんなところに?」
「あー……まぁほら、集団活動してると、時々一人になりたくならない?」
はいはい、わかるわかる。別に他の人といるのが嫌な訳ではないのだけれど、唐突に自分の世界に逃げ込みたくなる事がある。飲み会とかで楽しく盛り上がっていたのに、急にスンってなる感じ。だと思う。
泥しぃが補足するには、クラン内での小さないざこざ等でストレスが溜まったら、定期的に一人旅で発散していたそうな。
とは言っても、一人旅で時間を無駄にしたい訳ではないから、同じギルドのメンバーが中々来ない低級エリアで、消耗品等を集めていたんだそうだ。ここの場合は奇ノ粉だ、状態異常付与に上位プレイヤー達でも使用する。
______ボスエリアの解除を1分後に行います。素材等の回収をお勧め致します。
「貴方達、ホームタウンはアタノールよね。なんでわざわざスガナダのエリアを序盤から進んでるの?」
鋭いな。多分噂やら目撃談やらで俺達のホームタウンは把握されていたのだろう。なら序盤のお金も無い、特に開拓するメリットも無い時期にわざわざ他のホームタウン側まで来なくてもいいじゃないか。
それをわざわざ来るというのなら、理由、要は【エクストラクエスト】やそれに準ずる何か知ってるんでしょ?という事だろうな。
御薬袋さんは【黄衣の蜥蜴】やその他の情報を、このまま明かしても良いものか、判断しかねて、微妙な愛想笑いを送っているが……残念ながら、それは何かあるとバラしたようなものだろう。
だがしかし、どちらにしても黄衣の蜥蜴については【瑠璃湖畔】に行ったとて、解決するのかどうか怪しかったところだ。ここは上位プレイヤー様と情報交換出来たらありがたいかな。
「それが、知り合いのプレイヤーがこの辺りに出る【黄衣の蜥蜴】というモンスターから、呪いのようなものを受けていて、とりあえず何か手がかりが無いかと探しにきたんだよ」
「あら黄衣の蜥蜴……成る程。呪いってどんなものかはわかるかしら?」
「はい。討伐したそうなんですが。その帰り血エフェクトを浴びたプレイヤー達は皆さん、視界の端に何か、がチラつくようになるそうです。何なのか、は見えないみたいですが、気味悪がってWAOから離れていっちゃう方もいるみたいです」
「そう……」
______ ボスエリアの閉鎖を確認しました。次のボスエリア解放まで残り5分。少々お待ちください。
粗方の話を聞き終えた泥しぃは、少しの間ウィンドウを手で操作していたが、しばらくするとその顔を上げた。ボスエリアはこの間に封鎖され、俺達はエリア横に弾き出される。
「じゃあ、ここからは取引と行きましょうか」




