ガール・ミーツ・トゥルー③
……て…………さい。
お、遠くの方で、何か聞こえる。
……起きてくださいってばぁ‼︎
もう少しこの心地良い空間で、微睡んでいたかったのだが、呼びかけと同時に頭蓋に衝撃が走り、強制的に覚醒させられる。眼前には……おわ、ちょっ‼︎
状態異常である【睡眠】の作用で体が重いのかと思っていたが、御薬袋さんが俺の腰の上に馬乗りになってこちらを揺すっていたようだ。そして倒れ込んでいた俺の顔の横では、足を思いっきり蹴り上げた体制でドヤ顔を決めているトゥルーもいるじゃないか。
「お、おぉっ!ち、ちょっと、とりあえず降りよっか⁉︎」
「な⁉︎漸く起きたと……そ、そうですね」
一瞬ムスッとした表情を見せるも、自分の体制に今更気づいのか赤面しながら直ぐに飛び退いてくれた、ぐうかわ。
このままだと興奮値ぶっ飛んで強制ログアウト真っしぐらだったのは、事なきを得たものの、蹴り起こされたのは酷い気もする。
「立てますか?」
「ありがとう」
差し伸べられた手を素直に掴んで、立ち上がり、辺りを見渡す。まだ側には幼体達やヴァパの真っ二つになった残骸が転がっている。ボスモンスター達は素材の回収なんかが自動ドロップではないから、直ぐに虹の欠片みたいなエフェクトとして消える事はない。
「ナイストゥルー、です」
「めっちゃくちゃ痛かったけどね」
「嘘つきですね、ゲーム内では痛くないですよ」
ぐぬぬ。まぁそうだけどね、比喩だよ比喩。言い返せない俺に、トゥルーと二人してジト目で見返してくるじゃないか!
______ボスエリアの解除を1分後に行います。素材等の回収をお勧め致します。
「ぬぁぁぁっ‼︎素材⁉︎」
「あぁ‼︎そうですっ!幾ら揺らしても起きないんですから!」
にしても残り1分だと⁉︎とりあえず手近なヴァパの何某かをインベントリに回収し、順々に幼体も回収する。このエリアにしか無い環境素材なんかは無いが、折角倒したボスを無駄にするところだった。
どうやら御薬袋さんも俺が倒れている間は素材を回収せずに、ずっと揺さぶってくれていたようで隣で大慌てで作業している。
おおおおぉ、急げ!急げ!いそげぇ‼︎
______ボスエリアの閉鎖を確認しました。次のボスエリア解放まで残り5分。少々お待ちください。
ボスエリアは挑戦者が勝利・敗北どちらに転んだとしても、その後5分間の再配置時間が発生する。連続での同一パーティーの狩場独占防止措置だそうだ。
「ったはぁ〜……どうだった?」
「はぁはぁ……いや、何も確認しないままだったんでわかりませんよ」
ですよね。息も絶え絶えな二人とは裏腹に、特に何もしていなかったトゥルーは悠々と付いた胞子を払ったり毛繕いに勤しんでいる。少し気持ちに余裕が出て、その真っ黒な体に白い胞子がくっついて、なんだかパンダみたいだと思わず笑ってしまう。
キッ!っと睨まれた気もするが、気にしない気にしない……そういえばこの左眼、トゥルーの前では取らないでおこう。
「えー……まぁ【ヴァパの体液】に【ヴァパキッドの少傘】、後【奇ノ粉】?ダジャレですかね?」
「あー、ダジャレ……だけど、有益なアイテムだよ。錬金では分からないけど、武器や防具なんかに属性付けたりできる素材だね」
「そうそう、で、先を越されちゃったわけよね」
「あ、それはすいません……っんぇ⁉︎」
「どうしましたは、なだ……え、ど、どなたですか?」
サラッと俺達の会話に、まるでずっと居てましたと言わんばかりに自然体で溶け込んでいた痴女が一人。言い間違いじゃないから、痴女だから。
このゲームの仕様上アバターも自身の見た目から中々変われないとしても、露出多めの格好をする事は出来るだろう。だろうが、それと好き好んでするのはまた別問題である。
俺と御薬袋さんの丁度間位にポッと湧いた痴女は、頭にはその小さめな顔より遥かに大きな魔法職御用達のとんがり帽子。銀、というよりは若干グレー目な肩を通り越す位のストレートな髪、前髪が所謂ぱっつんなのも目に残る。そして、やや細目だが全体的に整ったお顔に、特筆すべきはもう出るとこでまくっているボディー。
その出るとこ出まくったボディをしっかりと包むことを放棄し、体の胸より下側部分からほんの少しだけ、細かく言えば胸の先端まで、ほんのり布が着いたようなドレス?ローブ一枚。何だこれ、何故か臍の部分も丸出しだし、下着の類も見られず視線のやり場に困る。
18歳以上対象ハードはやはりすごい、神。
「あら、貴方達良いリアクションね。可愛い」
アリさんとはまた違い、ミステリアスというよりは姉御みを感じる……残念ながら痴女だけど。
「えっと……ボス攻略、ですか?」
「へ?……あぁ、そう、そうよ。貴方達がボスエリアを攻略していたみたいだから順番待ちってね。そしたら、ほら、話題のルーキーちゃん達だったから声かけちゃった」
話題?……おぉん?呪胎は最初の短期間しか見られてないはずだけど……なんでだろう。だが以前アリさんにも同じ事を言われた気もするし、またBBSや非公式のブログなんかも、しっかり目を通さないといけないな。
御薬袋さんに至っては心当たりゼロらしく、「はなださん何やらかしたんですか?」とか呑気に聞いてくる始末だ。多分貴女も含まれてるんですよー。
「話題、かはわからないけど……はなだ、だ」
「まっ白ちろすけ、です」
「【泥しぃ】よ、宜しくね」
「よろしく、泥しぃさん。ところで、話題って……どんな?」
「どんなって……貴方達自覚無いの?……んんっ!良い?超絶美少女2人組で、方や絶世の金髪エルフ美女!そして妹的立ち位置で常に一緒にいる暗黒龍が宿ってそうな痛い系美少女!が今、話題なのよ」
他にも最近竜化人の超絶爽やか王子様や大天使が誕生したって話も〜、等と続いてはいたが耳に残らない。なんだって?暗黒龍が宿ってそうな美少女NO.1、だって⁉︎
「あ、暗黒龍……っというか!しかも何、画像とか晒されてるの⁉︎」
「そりゃもうばっちりね。貴方達の仲睦まじい姿から界隈では【尊ぇ】の意見が続出よ」
ぐ、ぐーッ!な、中身を知らないからそんな事が言えるんだぁ。全く尊ぇくないぞ、界隈の人達よ、ごめんな!
俺が羞恥に悶える中、更に気になる発言を泥しぃお姉様は落下させる。
「後、最近ではあの【紫電】が血眼になって探してるって……はなだちゃん、アイツに何かしたの?」
「紫電?有名な方なんですか?」
隣で呆けているまっ白エルフたんは置いといて、WAOをある程度プレイした者からすれば、知らない方が珍しい名前が飛び出た。思わず口が半開きになる。
WAO内に無数に存在するシステムから与えられるタイトル。言うなればオンリーワン。それは例えば釣りだったり、農地開拓、アイテム収集、そして……。
「対人戦ランキング2位のプレイヤーだよ……えっ、本当に?あの紫電が?」
「正確には現在は8位よ。彼、最近まで極端にログイン率が下がっていてね。時々ログインしてはランキング10位以内をキープする位しか活動していなかったのよ。それがある日突然戻って来て、道ゆく人にはなだちゃんの写真を見せながら半ば恐喝紛いの探し方をしてるそうよ……本当に大丈夫?」
「大丈夫、な、わけ、ない……でしょ」
全く意味がわからない……【紫電】は所謂二つ名で、プレイヤーネームは確か【ヴィオ】。当時でも公式戦を観覧した事もあるがそもそも動きすら見えなかった覚えがある。
だが、紫電ヴィオと言えば模範的な騎士のロールプレイに徹し、その紳士的、品行方正な立ち振る舞いが老若男女プレイヤーに関係なく人気者だったはずだ。
そんなプレイヤーが何故、こんな初心者で痛い系……間違えた。幼気な美少女を血眼になって探そうというのか。心当たりゼロなのは俺も同じだな。
「まぁそうよね……見た感じ貴方達は駆け出しって感じだし、別にヒールプレイヤーで悪どいことをしてるわけでは無さそうだしね」
「ヒール?」
「悪役みたいなものだよ。元はプロレスの悪役選手の呼び名だったらしいけど、今じゃこういうゲームとかでも使われるよ」
あえて悪役、ヒールになりきってプレイするプレイヤーも結構多い。他のプレイヤーをキルして回るPKだったり、市場なんかで詐欺や犯罪を起こしてみたり、現実世界でできない事をして楽しむわけだ。
色んな意見があるだろうし、良いか悪いかでも括れないだろうが、俺は概ね賛成だ。ゲームの中でくらい自由に楽しめばいい、ゲームってそういうものだよね。ただし、自分に害を為すなら反抗はするけどね。
「……まぁ紫電の事は考えても仕方ないんじゃない?彼に見つからないように祈っておきなさい」
「そうするよ……そういや、泥しぃさんはソロでボスエリアに行くの?レベルは見た感じ高そうだけど」
身につけている装備は……まぁ露出度でもそうだが、見た事のない物が多い。結構上位のプレイヤーかもしれないし、最低でもヴァパの状態異常は対処出来る程のものだろう。なんとか写真を撮れたら嬉しいんだがなぁ……へ、変な意味じゃないぞ!パパラッチ的にだ。
仲間のプレイヤーも見受けられないし、その気もなさそうだ。外見で言えば【魔法使い】、それか上位職の【賢者】や【ハイウィザード】等かもしれないが、それにしても余りソロ向けとは思えないが。
「まぁそうね……え、貴方達。いや、まっ白ちゃんは紫電も知らなかったからまだしも、はなだちゃんは私の事知らないの?」
「知らない」
「くっ……」
その豊満なバァディで四つん這いになり落ち込む泥しぃお姉様。知らないものは知らない、申し訳ないのだが。
「……いいわよ、見せてあげようじゃないの!対人戦ランキング18位の、【旋風】の実力ってやつをね!貴方達、行くわよっ‼︎」
うぉぉぉとか威勢の良い掛け声を出しながらボスエリアまで駆け出しで行く泥しぃ。走りながらもちゃっかり俺達にフレンド申請とパーティー申請を送って来ていて、そのイメージによる操作性は長年のプレイスキルが為すものなのがわかる。
……っとはいえ、昔ならまだしもちょっと離れてる間に更新されていたランキングの10位以下とか記憶にないんだよなぁ。居たかなぁ、泥しぃさん。
「貴方達ぃー‼︎置いていくわよぉー」
「なんか、激しい方ですね」
「やー、そうだねぇ……なんか行かなくてもまた叫びながら戻って来そうだし、行こっか」
はぁー、腰が重い。
何昔も前の西洋ではお貴族たちの間でも、こういった露出服があったらしいですよ。素晴らしい。




