Let's work⑥
スキル【隠密】を起動する。これで接触するまでトレントスに気づかれる事は無くなった。例え隠密を使用した状態であっても、敵に接触すればバレてしまうのが玉に瑕だったのだ、当たり前なのだが。柴鴨thで実験してみた結果、姿は見えないのに触られているのはしっかり分かって、非常に不愉快っすとのこと。
そのまま助走も兼ねて全速力で駆けていく。とは言っても50メートルも離れてるかどうかだったので直ぐにトレントスが目前に迫る。気付いた様子は勿論無く、その巨体に赤い実をぶら下げながら森に時折吹く風に棚引いている。
「どぉりゃぁぁあ‼︎」
何度でも言う、気づかれるかも知れないが、掛け声大事!気合いを入れてトレントスを駆け上がる。元から跳躍して、真上に乗ってしまう案も考えたが、勢いや高さが足りないと気付かれて難しくなるので、確実性を取った。
朽木のモンスターであるトレントスには勿論、それらしく凹凸やしっかりした枝も多く登る足場には困らない。小さな子供でも登れる位だと思う。
凹凸や枝を足場に、トレントスの真上に登り切った時には流石のノロマなモンスターも、不愉快そうに身体をくねらせていた。振り落とされる程でも無いが、サーモビジョンになった左目の視界もあり酔いそうだ。
「うぇぇっ……あんま揺らすなよなー」
八艘跳びチャレンジはここからがスタート。とりあえず周囲を見渡すと、東北と西の5メートル程離れた所に反応あり。八艘跳びが一度踏んだモンスターを再度踏めるので有れば余裕がある配置なのだが。
更にその先に居ないか調べてみるが、元からそこまで視力も良い方ではないのではっきりとはわからない。ただ薄らと、東北のトレントスの奥にもう一体、反応がある気もする。
と、なると。
「先ずは1跳びぃぃ!」
西のトレントス目掛けて大跳躍。ゲーム内で上がったステータスと、柴鴨thに貰ったポーションのおかげで、立ち幅跳びにしてはかなり跳ぶ。だがもう一押し、後足一つ分位届きそうにないな。
そこで魔法発動。レベルはまだまだ低いが、【ウィンド】を習得している為突発的な強い風は起こせる。それに背中を押してもらい、無事着地する。強風からそよ風まで、便利な魔法なんだよなぁ。
間髪を容れるなぁ!すかさず次は元のトレントスに戻る、一瞬着地した際に見れる範囲で周囲を見たが、こちら側に次のトレントスはいない。ならば戻るしかない!。
まだウィンドは発動中だったため、風向きを変えて今度は初めから追い風で跳躍する。勿論、元から跳んだ距離なので届きはするが、一度接触があったトレントスに戻って来た事もあり、嫌がり方が半端ない。
直ぐに今度は東北のトレントスに狙いを定めて跳躍するが、跳躍の瞬間にトレントスが頭を揺さぶった事で、若干足元がもつれて跳躍が不十分となる。
先程のトレントスからちょっと距離があるのもあって、全然足りてない。だが、安心して下さい、まだありますよ。
「レールスライド!」
迷ったものの斜め前方にレールスライド。真上だと結局直下に落ちるし、真横だと届いても次の跳躍に影響が出そうだった。そしてこれは重畳。近くなってはっきりしたが、更に奥にもう一体いるね。
右足で踏み込むように着地、レールスライドの慣性を殺さずそのまま次に跳ぶ。この後が分からない、今の時点で辺りを見渡しても反応はない……これで5回目、まだ後3回は跳ばねば。
レールスライドで乗せた勢いが良かったおかげか、距離は大丈夫そうだ。着地まであたりを見渡して敵影を探す……やはりいないかゔぁっ⁉︎
恐らく時間にしたら数秒だろうが、索敵の為に目の前のトレントスから視線を外した一瞬。他のトレントス達が騒ぎ出していたからだろうか、どうやら俺が跳んでくるのを待ち構えていたようで、頭の上を枝でカバーされてしまう。
不味い‼︎非常に不味い、このままでは串刺しじゃないか。意識は避けようとするが、鋭く束ねられた枝はもう目前だ。レールスライドの勢いが功を奏したとか思っていたあの時の俺がバカだった。
あー……こないだハンジェネでも似たようなやつに串刺しにされたばっかじゃん。恥ずかしいなぁ。ていうかトレントスも防御行動とか取るんだな……。
「ほぃっ、と」
突如、目の前の枝がスライスされてトレントスの頭頂が露わになる。そのまま左足が着地、体制も崩れていない、イケる!
足元にチラッと視線をやると柴鴨thが、あれは……鉤爪か?馬鹿でかい手甲の先端に、鈍色に輝く長い爪が伸びている。というかナイス足場だぁ‼︎
やや失礼かと思うが、もう止まるわけには行かないので柴鴨thの顔面目掛けて跳躍する。これで6ぅぅ!
ウィンドのクールタイムは終わった、余力が有るので柴鴨thをしっかり踏み込み、真上にフィギアスケーターのように回転しながら高く跳ぶ。「ふぎゃっ‼︎」と効果音が聞こえていたが、尊い犠牲だ……南無。
高速で回転しながら索敵を行う。お、トレントスじゃないけどミニウルフみっけ!ここから更に奥の方に2体寄り添う様に川辺で寝てらっしゃる。
すかさずもう一度、ウィンドを最大出力で発動、ゴリゴリMPを持っていかれるが出し惜しみして失敗したら、尊い犠牲に怒られそうなので出し切るぜぇ。
ほんの一瞬だが、突風を吹かせる。これでウィンドに使えるMPは最後だ。突風に吹かれながら体制をミニウルフに背を向けるように変える。ややミニウルフ達側に移動はしたもののまだまだ距離は足りない。
そこで着地への手段というよりも、高度を維持する為の手段その2!
「【ダブルスラッシュ】!」
スキル名を読み上げたことにより、自動的にスキルが発動する。前方へ、その場で2連撃剣を振るうスキルだ。勿論俺の体も例に漏れず、大振りに一角兎の短剣を右と左に一度ずつ、袈裟斬りに放った。
斬る相手の居ない剣は空を斬る音を撒き、俺の身体を【推し進める】。そう、ダブルスラッシュはスキルを発動した場合、自動で2連撃放つが、放ち方や体重の掛け方までは指定されていない。空中であっても、重心を後ろに傾ける事で僅かにミニウルフ側に進んだ。
よし、よっし!いいぞ、その調子だ俺。続いてその3んんぅ!
「【ファイアボール!】」
そう、かの堕天使ことアルコンさんに倣い、自身に向けてファイアボールを放つ。威力低めだと飛距離に影響するかもしれないので、今の時点でファイアボールに込めれるだけのMPを使い、発射した。勿論自身に向けて打つのだからクリティカルヒットし、鳩尾に重い衝撃を受け横っ飛びに吹っ飛ぶ。二度としたくない。
「ぐぇぶぅ……そしてダメ押し!レールスライドォォオォ!」
最後に伝家の宝刀【レールスライド】先輩。ギリギリの苦しい時間稼ぎの甲斐あり、クールタイムである15秒が経過していた。どれか一つでも欠けていれば多分無理だったな。
勿論、ミニウルフの真上まで瞬時に移動したので、一頭目、二頭目と頭を踏み抜き、地面に舞い降りる。これで、単純カウント8跳びである。
……いやこれ難しくない?そもそもこれも成功と言えるかもわからんよ?トレントスは往復で2回踏んだやついるし、途中柴鴨th踏んだけどあいつプレイヤーだしさ。カウントがどう判定されているか不明な以上、これで大丈夫なのかどうかは次回のレベルアップ時にしかわからない。
「だぁ〜〜ん、もう無理ぃ」
超速思考、無理な起動を繰り返した身体と頭はもう一杯一杯で、我慢仕切れずその場で倒れ込む。あー草いい匂いー。
草の匂いを堪能していると、それに紛れて香ばしい、まるで犬の肉球のような匂いが漂ってくる。嗅いだことある?肉球。凄い、クセになるんだよな……アレ。
ん?肉球?
嫌な予感がするが時既に遅い。ガブリと左肩辺りに衝撃が走り、視線を向けると踏み台にしたミニウルフの一頭が凄い形相で肩の肉を引きちぎろうとしていた、ごめんて。
短剣を抜こうと右手を伸ばすがすかさず噛みつかれてしまう。二頭いるもんね、見事な連携だよ。そうして身体の両側に喰らい付いたミニウルフ達は、双方が自身の方向に有りったけの力を込めながら後退して行こうと引っ張り合っている。
マジかよ、WAOしてて初の引き裂きの刑かよ。ファイアボールで自傷したダメージが思ったより大きく、噛みつかれた際に減ったダメージと相まってHPは風前の灯火である。アルコンさんガチだったんだな……。
「何やってんすか」
ギャン!と、左肩のミニウルフが鳴くが早いか、一瞬で虹のエフェクトとなり散っていく。更に一瞬遅れて右のミニウルフも、俺という獲物に噛み付いたまま、その生涯を終えた。
「柴鴨th……マジでサンキュー」
身体を起こすのも気だるく、そのまま見上げるように手を振る。呆れた様な表情を浮かべた柴鴨thが、例の顔に見合わない物騒な鉤爪をチャキチャキ鳴らしながら、見下ろしている、パン屋のトングかよ。
「で、いけたんです?」
「どうかな……柴鴨thを一回カウントしていいなら多分」
「あ、そうっすよ!よくも乙女の顔を踏み台にぃ!」
ツンツンと鉤爪のまま頬っぺたを突っついてくるな!やめろ、死んでしまう!……まぁパーティーだからフレンドリーファイアは無いんだけどね。
でも頬っぺたに刃物ペシペシされるのは、割と怖い。幾らゲーム内で良く刃物を扱うとは言え、刃物が皮膚に触れる触覚に慣れるわけもないのだ。
「んー……じゃあこのまま行っときます?レベル上げ」
「ちょっと休憩させて?」
◆
「やぁやぁ!頼もう頼もう〜っす!」
ガインガインと喧しく両手の手甲を打ち鳴らす柴鴨th。そんな彼女とは裏腹に、俺は目立たぬよう目立たぬようひっそりと、乱雑に積まれた荷箱の隙間に隠れている。
少し離れてはいるものの、ここまで思わず耳を塞ぎたくなるような耳障りな金属音が鳴り響いている。これは堪らんと、目の前のテント内から大きな塊が怒り狂って登場する。
ハイゴブリンだ。そう、俺と柴鴨thは俺の八艘跳びチャレンジの成功の確認のために、手っ取り早くレベルを上げようとボスエリアにお邪魔していた。
しかも、なんと、柴鴨th自らの申し出により、今回は一人で攻略するとの事で……つまり俺は寄生して甘い蜜を啜ってオッケーとの事だ。
そんなわけで、荷物の隙間である。前回御薬袋さんと一緒に来た時もそうだったが、やつらは索敵が得意ではないので、見つかることもないだろう。そして呪胎のヘイト上昇効果も見つかっていなければ、適応されないようだ。後は流れ弾というか、勢い余って此方にモンスターを投げ飛ばしたりでもしない限り、俺は見学だ。
「ふむふむ……あー、ハイゴブリンは1匹っすか。こんなもんだったかなー」
不良が喧嘩前に拳をパキパキと鳴らす代わりに、柴鴨thは鉤爪をシャキシャキ鳴らす。なんとなく首元がモゾモゾと感じる音だ。
俺達が前回苦戦したハイゴブリンだが、まぁ柴鴨th位のハイランカーにもなれば負ける事はほぼないんじゃないだろうか。あの身のこなしとか、ジャコウモスの短剣を持っていたのを見るに、レベルも100前後位には到達しているんじゃないかな。
前回のボス戦時には、まず周囲のゴブリン達をスニークキルしていったものだが、まぁ、それは低レベル帯の浅知恵だね。高レベル帯になるとこの辺りのモンスターに攻撃されてもそもそもダメージを喰らわないか、喰らっても自然回復力で賄えるかだからな。
多分、柴鴨thの前にはこのテントにいるゴブリン達は全員集合しているだろう。一際大きくハイゴブリンを中央に据えて、様々な武器を携えてゴブリン達も柴鴨thを威嚇している。
「はなださーん!ちゃちゃーっとヤっちゃうんで、見ててくださいっすー!参考にでもー!」
了解、とは返事は出来ないので無言でとりあえず頷く、見てるかはわからないが。ハイゴブリン達も臨戦体制で、いつ戦闘が始まってもおかしくはなかった。
そして、その均衡を容易く破ったのは柴鴨th。恐るべき速さでゴブリン達の円陣の懐に踏み込むと、先ずは左側の長槍を構えていたゴブリンを、身体の下側から両爪で仕留める。
接近には反応出来ていなかったハイゴブリン達も、仲間がやられた事に即座に反応し、柴鴨thに向けて2.3体のゴブリンが長槍や棍棒を振るう。そして遠くから眺めていると分かり易かったが、その手下達の攻撃に隠れるように柴鴨thの背後にハイゴブリンが回り込んでいる。
恐らくゴブリン達の連撃の後、トドメとしてハイゴブリンがあの重い体での一撃を放つつもりなのだろう……が、相手が悪かった。
柴鴨thは長槍のゴブリン2体からの攻撃をしゃがみ込んで透かすと、その間に棍棒で殴りつけてきていたゴブリンの攻撃を、両爪で軽々と受け止める。というか、あの棍棒の軌道だと仲間の長槍にぶち当たると思うんだが……まぁそこはゴブリンだからなぁ。
受け止めたまま身体を捻り、棍棒ゴブリンと長槍ゴブリン1体ずつをまとめて投げ飛ばす。残る長槍ゴブリン1体に、少し離れたところからスキルで衝撃波を鉤爪状に飛ばし、見事に一撃で3枚降ろしくらいになった。
思わぬ反撃に吹き飛ばされた2体は身体や武器が絡み合い、転倒していた。起き上がりにもたついていたのもあり、近寄ってきた柴鴨thに両手一振りずつで仕留められる。
取り巻きズも残り2匹。親玉のハイゴブリンは取り巻きズに指示を出し、散開させる。対する柴鴨thは身体の芯をどっしりその場に置いたまま、目線で2匹の動きを見る。
案の定というか、それしかないだろうというコース。散開した取り巻きに囲まれるように、ハイゴブリンが突撃を結構する。単なる体当たり、という訳ではなく【突撃】という歴としたスキルである。勿論通常の体当たりより大分と高威力、初期装備の後方職のプレイヤーなんかは直撃すれば即デスです。
突撃して来たハイゴブリンに向かって真っ向から走っていく柴鴨th。このままではクリーンヒットかと思いきや、軸足に力を入れて大きく跳躍。しかし、まだハイゴブリンの巨体を飛び越えるには高さが足りない。しかしそこは柴鴨th、空間に、空力で足場を作りもう一度跳躍。見事巨体を乗り越えて背後に着地した。
ハイゴブリンはと言うと、跳躍されるとは思わず慌てて急停止。が、スキルの勢いは簡単には止まらず柴鴨thが作った空力の足場に顔面を強打。堪らずその場で膝をつく。
「あー、それは想定外っす……まぁお疲れ様でした、っす」
柴鴨thの鉤爪が3倍程に膨れ上がる、恐らく攻撃力を高めるスキルであろう。トドメだな。
頭を強打したせいか直ぐには直立出来なかったようで、迫り来る柴鴨thに向けてハイゴブリンは膝立ちの姿勢のまま【咆哮】を放つ。これもスキルで、相手が自分より弱い場合動きを止められるスキルだ。
勿論、そんなわけはない。
あぁ、無常にもその相手に突き刺し、肉を引き裂く形をした両手はハイゴブリンの両肩に突き刺さる。しかし腐ってもボス、取り巻きのゴブリン達のように両断されるような事はなく、字の如く必死の形相で踏ん張る。
しかし死に体のハイゴブリンに抵抗の気概も甲斐なく、柴鴨thは両鉤爪を肩に突き刺したまま力強く押し込み、勢いを利用して強烈な蹴りを放つ。吹き飛ばされ、漸く離れた鉤爪だが、傷口からは止めどなく血液が流れ滴る。
正に死屍累々、逃亡しないのがボスのプライドなのか悲しきシステムの性なのか。獲物である大棍棒を杖代わりに、鼻息荒く立ち上がる。
しかし慈悲は無く、目の前には特になんの感慨も湧いてなさそうな鉤爪少女。体勢が崩れるのもお構いなしの大振りの攻撃を、左手でしっかり受け止めると、空いている、まだスキルの効果で膨れ上がった右手が振り下ろされる。
次の瞬間、カァンという高い金属を打ち鳴らした様な音が周囲に鳴り響く。一拍遅れて辺りに立っているのもやっとな暴風が吹き荒ぶ。そんな中、ハイゴブリンの上半身が見当たらないのは確認出来た。後身体から湯気が立ち上ってる柴鴨thも。
……相変わらずハイランカーの戦闘はドン引きですわ。
◆
感想戦。
「いやー、もっとアクティブに動きたかったすね。あいつら真っ直ぐばっかりなんで、空力も使えたのは一回だけっすねぇ」
ぶっちゃけ、向こうの攻撃当たっても屁でもないでしょ?
「あー……ですかね〜。多分1秒あたりに回復するHPの方が削られるより多いっすね。そもそもダメージになるかは分からないっすけど……」
……最後のは、何のスキル?
「中級位のスキルっすね、ランクで言ったら空力の方が上位っす。【ショックスクラッチ】、攻撃の軌跡に無属性の衝撃波が発生するっす。衝撃波は攻撃の倍の威力」
それで上半身が吹っ飛んだ訳だ、南無。
「それで、結局上がったんです?レベル」
おぉ、それな。見事に上がったんです、レベル10。空力は……ダメだったよ。
「あちゃ〜……何がダメだったんすかねぇ。八艘跳びがやっぱモンスターだけで、一体につき一回しか踏んじゃいけないとか?」
はたまた、単純にステータス足りてないかだな。
「……てか、はなださん。レベル10いってなかったんすか」
言ってなかったっけ?
「聞いてないっす……第一職も解放されてなかったルーキーが、あんな動き出来るもんなんすかね」
どうなんだろうねぇ……そう、第一職が解放されたのである。




