Let's work⑤
「じゃあ、また現実での2時間後に集まりましょう」
「了解っす、ついでに私も二人と同じホテルに拠点移しますかね」
あの後、ちょっと取り乱した御薬袋さんを2人で宥めて一旦いつものホテル近くに戻って来ていた。なんでも小さい頃に妹さんが組み立て体操的なものから落下して、首を痛めた事があったらしい。
それでその時の不安やら心配やらが蘇って来ちゃったのかもしれないね。まぁなんかにせよ落ち着いてくれたし、俺もこれからは無茶は出来る範囲でするようにしよう……出来る範囲なら大丈夫、うん。
そんなこんなで、撮影が終わった俺達はお次の号外を刷る準備に取り掛かったのだが……この広ーいWAO内の中、新聞を私的に作ってくれるNPCなどいるわけも、いや居る。居たのだが、いかんせんお金がかかる。ただでさえ出店費用ももう少し稼がなくてはいけない現状、更なる出費は出来る限り抑えたい。
ということで……。
「じゃあーお二人はお先に部屋に行っちゃってください、私も手続き終わったらすぐ落ちますし。しばらくトレントス狩りが続くんで、しっかり休憩して来てくださいね」
そう、セルフで材料調達に行くのだ。比較的近場で材料となるのはトレントスの素材。これを一定数納品すれば、材料費はタダになる。更にその他の素材はこちらの資金にもなるし、狩りに行くっきゃないわけだ。
その前の小休止を挟もうという事になったわけだ。ちょっと気持ちも落ち着けないといけないし、何よりそろそろお腹と膀胱が心配だ。WAOで半日以上は経っているから、現実でも3.4時間は経っているはずだ。
「よし、じゃあまた後でな、柴鴨th」
手を振って部屋に向かう。そろそろまた部屋の延泊しておいた方がいいかな、しばらくはアタノールで活動するだろうしね。
柴鴨thには俺達が現実でも友達だ、という風に説明してある。よって同室である事は合法である。
ロビーで別れて部屋へ向かう。そういや、ちょっと休憩とか思ったが今で多分夕方だろう。食事と仮眠を済ませて、またプレイするとなるとギリギリ終電あるのかな。
「えっとまっ白さん、このまま行ったらお泊りコースかもなんだけど、大丈夫なの?」
「え、お泊まりですか?……今何時くらいなんでしょう」
「さぁ〜……大体5.6時位じゃない?さっきログインしたのが2.3時だったしね」
WAO内では宵の口のように思えるけど、ログインした時は朝方だったからなぁ……結構時間経ってそうか。ウィンドウを呼び出して時計を見るとWAO内は18時、現実では17時出そうだ。最初の頃は時計が二つ並んでいて見辛く感じたが、慣れれば時差時計みたいなものだ。
「流石にお泊まりはちょっと……まだ早くないですか?」
「ま、まだ早いってなにがだ⁉︎ま、まぁイベントでもないし、無理しなくて大丈夫だから‼︎」
ちょっと恥じらいを持った感じで言うんじゃありません!異性に免疫ない奴だったら強制ログアウトもんだぞ。きちんとついてるからね、強制ログアウト機構。
そのおかげか、如何わしいVRゲームは発売されているが、如何わしいフルダイブVRゲームは存在しない、筈だ。どちらにせよ興奮して心拍数とかが一定値を超えたらアウトだからねぇ。余談余談。
「んー……お二人と一緒に行きたいところですが、やっぱり今回は遠慮しておきますね」
「うん、大丈夫。柴鴨thには俺から言っとくよ。……あー、多分このまま朝帰りコースだから、明日昼からとかでもいい?」
「ふふっ、はなださん、明日お休みですよ?」
おー……そうか今日火曜日だったか。御薬袋さんとの取り決めで水曜日と土曜日が休日にしたんだっけな。いかんいかん、どうもWAO内にいると時間経過が早いから、曜日感覚がズレてくるんだよなぁ。体感は何日も経っているわけだし。
「じゃあ、心置きなく行って来ますかねー。しっかり素材集めてくるよ」
「はい、お願いしますね……あ、折角ですし晩御飯はご一緒しましょう」
やった、一人暮らしだから機会は多くなるんだけれど、一人でご飯食べるの苦手なんだよなぁ。何食べるかなと考えつつ、二人ともベッドで横になる。
「何食べたいです?」
「え〜……じゃあパスタで!」
◆
「成る程ぉ、それでまっ白さんいないんすね」
「うん、ふぁ〜……ねっむ」
きちんとアボカドとトマトのパスタセットを社員食堂で平らげた俺は、御薬袋さんを見送り、1時間程の仮眠を終えてWAO内に戻ってきていた。ちょっと眠って余計に疲れを自覚したのか、欠伸が止まらんね。
「はなださんもお疲れのようっすね、大丈夫なんです?」
「大丈夫大丈夫、なんかちょっと仮眠したら余計眠くならない?その内覚醒するさ」
「あ〜、あるあるっすね。良く受験勉強中は仮眠のつもりが爆睡してました」
「それはちょっと違う」
特に急ぎでもないので、二人ともゆっくりした足取りでミアンの森に向かっている。柴鴨thも手慣れたプレイヤーだし、緊張とかそんなものは無い。ちょっとコンビニ行くみたいな感覚かな。
アタノールの敷地から出て、とりあえず白雲から一角兎の短剣に装備を変える。白雲の耐久性も、高いとはいえ無駄に消費するのも忍びない。もう少し世界樹に近い街に行けたら耐久値回復する工房やアイテムがあるんだけどなぁ。
「さーて、目標何個でしたっけ?」
「化朽木の樹皮、が200枚」
「半分ずつっすね」
「いやそこはハイランクさん、3:7でお願いしますよ」
「え、楽させてくれるんすか?」
なわけあるかい!お互い適当にヘラヘラ笑いながら、目標だけ設定する。素材の目標は200枚だが、1枚で新聞は5部刷れる。これで1000部発行できるわけだ……初回にしては刷りすぎではないかと思うが、名前を売る目的もあるし、大盤振る舞いで大丈夫だろう。
「じゃあそろそろ着くし、やりますか!」
「そうっすね……あ、一個アドバイスっす」
何々。
「私が【空力】を獲得した条件は、恐らく八艘跳びですね」
「八艘跳び……なんだっけ……なんかピョンピョンするんだよね」
確か……歴史の授業で習った気がするぞ。えーと、ちょっと待ってよ。
「源義経っすね、逃げる時に海上の船を跳び移って逃げた伝説だとか」
「そう、それな、義経な!」
なんだその訝しげな目は!分かってたよ、ちょっと、ちょっと言葉が出てこなかっただけなんだもんね。
「……まぁ、はい。で、それを私はモンスターでしました。この間のレベルアップまでの間での変わった事といえば、それくらいかと」
「成る程ねぇ……モンスターでって事は結構集めてからしないとだよね」
「そうっすねぇ、数が少ないと途中で足場が無くなって出来ないですし。私も別ゲーで似たような事をする機会があって、WAOでそもそも【八艘跳び】って言うスキルはないのかなぁと思ってやったんですよ」
「八艘跳び……というからには8回は最低跳ばないとかな」
後で詳しく調べてみたが、義経さんは5.6メートルは離れた舟を助走も無く、8隻跳び移ったそうな。ましてやあの時分の合戦と来たら鎧兜だ。その重量を着て、その跳躍力とか、フィクションじゃなかったとしたらとんでもない身体能力だな。
だがしかし、ここをどこだと思っておる。がっつりフィクション内だぜ。要はあれだ、こないだハンジェネで跳んではないけど、コヨーテ渡りをしたとこだし、あれに跳躍を混ぜたら大丈夫っしょ。
「どうなんですかねー……後は途中で何体かキルしたんで、そっちの判定かもですけどね。空中でモンスターを仕留める、みたいな?」
むぅ……しかし考えても分からないし、なんだったらゴシップで売る情報にも使えるだろ。これで俺が次のレベルアップで空力を覚えたら条件も確定出来るわけだし、頑張るか!
兎に角意識してトレントスを狩る。幸いトレントスは動きも鈍く、体高が高いモンスターだ。跳び移るには適しているかもしれない、が。なんせその場から殆ど動けないモンスターだ。果たして8匹渡っていくほど1箇所に、数が居てるかどうか。
「じゃあとりあえずはなださん、頑張って跳んで来てくださいっす。私はなださんが跳んだ後のトレントス処理して着いていきます」
「ん、頼んだ」
さてさて、では先ずはトレントスを探すところからだな。ここで一つ、御薬袋さんと相談して、柴鴨thに明かすと決めた秘密をご開帳だ。
左目の眼帯をインベントリにしまい、解放する。んー……あぁ、左の奥の方にいるなぁ、とりあえず1匹。あそこ、と指で指して移動を開始する。あんまり大声だと気づかれちゃうからね、他にも数は少ないけど縄張りから出たミニウルフとかいるし。
「それ、気になってたんすよね。厨二アクセじゃなかったんすね」
小声でちょっと小馬鹿にしたような笑みを浮かべ柴鴨thが俺の左目を覗き込む。近い近い、女の子が近いから照れるというより、サーモで表示されてるから人型生物みたいでちょっと怖い。
「そうだよ、一角兎の紅魂ってアイテムを使ったらこうなっちゃったんだよ、片目だけね。要はサーモで見えるんだ」
「一角兎……その辺にいるホーンラビットって事っすかぁ……そんなレアドロップあったかなぁ」
いやない、多分な。極小確率の物でも無い限りあんな街周辺の低級モンスターなんて狩り尽くされているはずだ。今まで出なかったなら、きっと通常ではドロップしないのだろうな。
「しっかし、見れば見るほど厨二全開っすね。その眼も眼帯だけでも中々でしたけど、ちょっとオレンジに発光してるっすよ」
「え⁉︎何それ、初耳なんだけど……っと、そろそろ気づかれるな」
「っすね、どうします?8匹見つけてから仕掛けます?」
いやー、8匹全部か……時間かかる上に面倒くさいな。多分柴鴨thも同じ考えだったようで、直ぐに突撃の姿勢に入る。
先ずは俺が1匹目に駆け上がり、空中に飛び上がる……までの間にサーモで次のトレントスを索敵。距離によるけど頑張ってスキルを駆使して届かせる手順。
「いや、このままぶっつけで行こう。見つかる見つかる。スキルとか使えばなんとか行けるはずだ」
「了解。あ、これ使って下さいっす」
差し出されたのは黄金色に輝く、小さな小瓶に入った液体。これは何回か使った事があるな。【フットワークポーション】、一時的にAGIとDEXに少しだけ補正を載せてくれる物だ。
有り難く飲み干すとパンチの強めなジンジャエールみたいな風味が鼻腔を突き抜ける。たっはー、効く効くぅ。ステータスには残り10分の表記と共に、多分10%程のバフが付く。体感でもかなり身体は軽くなった。
「何から何までありがとな、ポーションもさ」
「なんのこれしき、っす。余ってただけなんで、気にしないでください。じゃ、頑張って!」
軽くなった身体を確かめる様に屈伸を何度か行う。視線は真っ直ぐ先のトレントス1号、では、参る!




