Let's work④
「それで、ここっすか」
「まぁね。映えるかなーってね」
風がぴゅうぴゅうと吹き遊び、俺と柴鴨thの髪をめちゃくちゃに弄ぶ。あんまり会話をするのに向いているスポットではないだろう。
二人で来たのはアタノール帝国のカジノ区、一番大手のカジノ【ウィンノール】。ウィンノール自体が3棟あって、ここはその中央棟の屋上である。勿論、中からでは普通にスタッフ以外立ち入り禁止の場所なので、二人して壁面の出っ張りやらを足場にして登ってきたのだ。
ギリギリ、AGIなどステータスも足りていた様で滑落したりする事は無かったが、柴鴨thは流石ハイレベルプレイヤーといったところか、3経由位で飛び跳ねながらさっさと登り切っていた。因みにカジノ自体は普通の建物の……うん、7.8階分位かなぁ。
「うひょー、登ってきてなんですが、まぁまぁ高いっすねー」
「本当、登ってきてなんだな。行けそうか?」
うーん、と下を見ながら考える柴鴨th。考えて貰っているのは新聞に使うゴシップの内容だ。見出しは【空に浮かぶプレイヤー現る⁉︎謎の新スキルか⁉︎】、バッチリだろ。
概要はこうだ。この屋上からカジノ前の広場まで、【空力】を使って一気に駆け降りる。その様子を俺と御薬袋さんがツーアングルで撮影する、以上!
「空力って俺が脅された時は空中で身体を固定してる感じだったけど、実際どんなスキルなの?」
「レベルによって効果が変わっていくみたいっすね。今はレベル2で空中に足場を作って移動出来ます。前は足場は作れるけど、1箇所だけでクールタイムがあったっすけど、今はクールタイムも無しっす」
「あ、まだ取得して日が浅い感じ?」
「まぁ、4.5日くらいなんで。取得も偶々出来たみたいな感じでしたし」
ほーん、この感じだとなんかキーとなる行動があるパターンかな。スキル取得の条件的にはざっくり分けると、ステータス型、イベント型、キー行動型がある。イベント型以外はどちらにしても一度レベルを上げる必要がある。
ステータス型は一定のステータスを満たすと
レベルアップの際に取得する。対してキー行動型はレベルアップまでの間に、スキル毎の指定の行動をしたかどうかで取得出来るかを判定される。例えば同時に2匹の敵を片手剣で倒せば一度の攻撃で2発の斬撃を飛ばせる【ダブルスラッシュ】を覚える、という具合だ。
まだ柴鴨thから取得の条件をしっかり聞けていなかったので、あくまで予測だけどね。
「成る程ねぇ……一応、想像してた記事なんだけど、ここからこう……イメージはスノボとかスケボーみたいな感じなんだけど、空中滑走……行けそうかな?」
屋上から広場まで、カッコよくスタイリッシュに舞い降りる謎の存在……いやまぁ記事にする側が言うのもアレだがマジで謎なんだよね。わざわざ屋上から飛び降りる意味がないんだもん、中にはエレベーターあるし。
「だー……いじょうぶじゃ、ないっすかねー。流石にこの高さから試したことはないんで落ちたら助けてくださいっす」
「マジか、精一杯頑張る」
「嘘くせーっすよ」
カラカラと笑いながら下見を終える。柴鴨thは見た目もハツラツとしたスポーティな女性だが、中身も結構呆気カランとしており、話していてとても気楽に感じる。別に御薬袋さん達が嫌な訳ではなく、むしろ居心地はいいんだけれど、なんと言えばいいのか。柴鴨thにはフィーリングが合うような、不思議と自然体で話すようになっていた。
このまま、柴鴨thには屋上に残ってもらい撮影を始める予定で、広場には御薬袋さんに待機して貰っている。御薬袋さんが広場で撮影兼不足の事態の際にキャッチする役となる、些か心配だが。
AGIやDEXが俺より低いのでこの屋上まで、そもそも登って来れないのだ。後はもう、肉壁キャッチしていただこうではないか。
「じゃ、下はまっ白さんが待ってるから。頑張ってな」
「了解っす、善処するっす」
へらへらと笑う彼女に緊張感は無く、先程の落ちたら助けてくれとか言うのは冗談なのかもしれない。屋上から御薬袋さんを見つけたのか身を乗り出して手を振ってらっしゃる。
目立ったら意味ないぞーとは思いつつ、現実での昼間の時間はあまり人通りも無いし、あってもカジノ廃人達は天を仰がない。信ずるのは己のみ、前だけ見てろ。
「じゃー、そろそろ行くっすよ。まっ白さんの準備は?」
(こっちはオッケー、そろそろ行くみたいだよ)
(了解です、ばっちり動画撮りますね)
御薬袋さんとはパーティー機能の一つである念話機能で通話中だ。因みに屋上からは写真のみ、屋上からの写真はその場に居合わせてる証拠でもある訳だから、変にヤラセがバレても困るしね。
反面、下からの映像だと通行人がたまたま、という体が通用するので都合が良い。カメラや動画の撮り方は一通り伝えたが、果たしてどうだろうか。
柴鴨thに手でオッケーサインを出す。しばらく柔軟運動を繰り返して、遂に屋上の欄干の上に柴鴨thが飛び移る。ここからだ、俺もしっかり空力の全容を確認しなければ。
「では、柴鴨th、いっきま〜す‼︎」
とぅ!と一声、先ずは丁度目立つ今居る屋上と、隣の棟の屋上までの中間辺りの空中に足場を作り無事着地する。目視できる範囲に空気の足場が作れるようで、しっかり意識しないと足元なんかは視線が向かないから危ないそうだ。
そして両手を垂らしたまま後ろの方に向け、前傾姿勢になる。空中の足場で、脚にグッと力を込める。なんか昔流行った忍者走りみたいなスタイルだな。
瞬間、屋上から乗り出していた俺の方まで風圧が来るほどの勢いで前に飛び出していく。成る程、スケボーやスノボスタイルは取りやめて両手を視界から外し、前傾姿勢で足元を見ながら蛇行降下していく。
アレなら足元の認識不足で足場が作れず落下する恐れもないのだろう。空中を本当に道があるかの様に進む、時折建物の壁にある何やらにぶつかる直前に踏みとどまり、方向転換しているけど、前が見にくいんだろうね。
そしてもう此方からは後姿しか見えなくなった。まぁ7.8階相当の高さとはいえ直線距離でいったら学生の短距離走くらいだもんな。一瞬一瞬。
御薬袋さんがあわあわしながら柴鴨thの方に近寄って行っているのが見えるが、この分だと落下は心配無さそうだな。そして後1階分位に到達した時点で、柴鴨thは飛び上がりそのまま前に一回転して無事に着地した。
柴鴨thに御薬袋さんが近寄り、何やらお話している。さーて、ここに居ても仕方ないし、俺も下に降りることにしましょうか。勿論カジノ内は通れないよ。
屋上から下を見ると、此方に向けて二人が手を振っているのが見える。よっし、じゃあはなだも、いっきまーす。
「とぅっ!」
掛け声大事よ、気合い入るからな。躊躇いなどなく屋上から身を投げる。こう言う時迷ったら余計脚がすくんじゃうんだよね。姿勢は下向き、頭から落ちる。じゃないと俺の場合は失敗しちゃうからね。
因みに因みに、半々で別れると思うんだけども、このゲームは街中であろうとも地形ダメージを受ける。要は高所から落ちると死ぬ、んだけれど、それを回避する方法もあるんだな。
ニッグのマップに落とされた時は更に高所からの落下で時間的に余裕はあったが、今回はもうあっという間だ。姿勢も下向きだから空気抵抗も少ないしね。
そのまま大きな声でしっかり発声!行くぞ!
「レーールスライドォォオォォオガ⁉︎」
きゅんと体が引っ張られるいつもの感覚に、続いて顔面に強い衝撃。そのまま顔で一瞬直立した後に、反対側に脚から倒れ込む。
痛すぎわろた、ってやつ。実際の痛みほどには感じないだろうが首だけで倒立したのは初めてだ。首は無事か⁉︎今鏡を見る勇気はない。
「だ、大丈夫、ですか⁉︎」
「い、生きてるっすか〜?」
パタパタと足音と心配そうな声が聞こえてくる。二人からはちょっと距離があったからか、俺の安否は見えなかったようだ。
レールスライドは移動方向や慣性、空気抵抗その他諸々をスキルの力で無かったことにし、一定距離を無理矢理移動するスキルだ。勿論それによる地形ダメージは食らわない、これを応用して着地しようとして、地面にめり込んだ訳だな。
「だ、大丈夫、だけどね。ちょっとショックがでかい」
「そりゃ、あんな所から頭から行くなんて思わないっすよ!降りれるって言うから残して来たのに」
「いやー、行けると思ったんだけどなー……いやでも行けたっちゃ行けたんじゃないか?落下死はしなかったわけだし」
ゴン!っと頭に背後から衝撃が走る。今度は反対の地面に頭からつんのめりそうになるが、見ると御薬袋さんが鬼の形相でチョップを繰り出した様だった。
「いてて……ま、まっ白さん?」
「………………くださぃ」
ん?なんて?
「あんまり無茶しないでください!」




