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Let's work③

「はぁ、成る程……それでこの大所帯なんですね」


「はい、遅くなってすみませんでした!」


所変わって今は例のホテルだ。話がまとまり、落ち着いたところで御薬袋さんの事を思い出して飛んで帰って来た。全員引き連れて。最初部屋に入った時にはまた遅刻して来やがった……みたいな目で見られもんだが、今は何とか事情を飲み込んでくれている。


それにしても、俺としては柴鴨th(フレンド登録して名前表記みた)だけ連れて来たかったけれど、説明する間も惜しいと思って駆け出したのが不味かった。柴鴨thの手を掴んで連れて行こうとしたら、その手をトリスが掴み、トリスの腰には子供達がぶら下がり、途中で気づいたけど放り投げて行くわけにもいかないし……今に至る。


「私は別に大丈夫ですけどね。トリス皇女、柴鴨thさん、カミュちゃん、コニーくん、ワッダくん、初めまして。はなださんとパーティーを組んでます、まっ白ちろすけ、と申します」


全員着いて来ちゃったもんだから、御薬袋さんから俺達の事について何かボロが出ちゃうんじゃないかと心配したけれど、その辺流石、一瞬で察してくれたようで安心した。因みにスリの実行役の子がワッダくん、和田くんじゃない。


「わぁ〜〜……お姉ちゃんが一杯‼︎」


「……ふふっ‼︎」


またもやマイペースモードでカミュちゃんが楽しそうに割り込んできたが、確かに男児を除けば女性しかいないな……え、俺?カワイイ、マガンツインテビショウジョダヨ。耐えきれなかったのか、正体を知っている御薬袋さんだけ吹き出していた。


「それじゃあ……取り敢えず作戦は?」


「それなんだけどさ、皇女様。今スラム街で皇女様事を知ってる子供達ってどれくらいいるんですか?」


「そうですね……配給したり、スリの作戦等を手伝って貰っている近しい子達はこの子達と後数人ですね。大人は際限が無くなったり犯罪者も多かったりで声をかけていません。協力的な子供達、という意味でしたら50人もいかないくらいでしょうか」


大人が居なくてよかった、余計な欲が絡んでくるとややこしくなるしね。それにしても50人か……十分過ぎるな。実は話を聞き始めてからひっそりと考えていた作戦があるのだがいっちょ提案してみますか。


「十分です。実は……俺達近々店を構えるつもりだったんですよ」


あ、それ関係からですか、みたいな顔で御薬袋さんが見つめてくる。まぁ打ち合わせ無しの今この場で思い付いた事だしね。御薬袋さんの同意だけ得られたらいいんだけど。


「お店……プレイヤーマーケットで、でしょうか?」


「そう、元々はポーションをこちらのルートから格安で仕入れて、市場より少し安めで販売する、予定でした」


「はぇ〜……そんなルートがあるんすねぇ、薬師とかっすか?」


「ノーコメント、悪いがそれは企業秘密なんだ」


うんうん、と頷く御薬袋さん。これで大体のスタンスは伝わったかな。というより色々社外秘な事も多いから、ジョブやスキルの事を易々と言えないしね。


「でだ、元は露店タイプで出店して、適当な店員を雇って、こっちは冒険したり別の事をする予定だったんだが……その店番をだな、スラム街の子供達に任せてもいいだろうか?」


「お店⁉︎お店出来るの?」


自分達の仕事だ、と子供達が群がってくる。しゃがみ込んで目線を合わせて、お願いしていいかな?と問うと、3人とも力強く任せて!と快諾してくれた。よっしよし。


「ですが……お店は露店なのでしょう?50人もの子供達は必要ですか?」


「いや、店番は顔が判るこの子達だけに最初は任せたい。で、他の子達には別の仕事を考えてある」


「別の仕事っすか?」


「スクープ・ゴシップ・スキャンダル!お買い得情報から噂話まで!はなだ印の号外新聞を街に配ってもらおう」


そう、パパラッチのスキャンダル機能というか補正を受けてからずっと考えていたのだ。本来パパラッチは自己解決するのではなく、外に出してこその仕事なのでは、と。


「成る程……号外を出して情報をちらつかせて、店まで誘導して更なる情報とあわよくばポーションも売ってしまおう、という事でしょうか」


「大体はそんな感じです。勿論、子供達にも給料は払うよ。どうだろう」


正直、店を出す、という事以外では大勢の人を養える事など、狩りに出るか怪盗団でも結成するしか思い浮かばなかったが、どちらにしても危険を孕む仕事だ。子供達に課すのは最終手段だと思っている。


「私は賛成です。お店は出店までもう少しかかりますが、今から新しく店番の方を雇うより、この子達の方が安心です」


ねー、と子供達といつの間にやら仲良さそうにハモる御薬袋さん。こうしてみるとエルフ補正もあるが、お姉さん感が半端ないな。


そして御薬袋さんの言う通り、今からNPCを新たに雇うのも正直面倒だと思っていたんだ。雇う前に性能はある程度わかるが、性格や微妙な癖までは分からないからな。有名な優良NPCは大手の店が長期間雇っていて、雇えないし。


「貴方達がそう言って下さるのでしたら此方としては嬉しい限りです。ですがこれで何かスラム街の現状が変わるのでしょうか?」


「まぁこのままでは余り変わらないと思いますよ。もう一つ補足があって、露店である程度の金額の稼ぎが出たら、次は店舗をスラム街に構えましょう」


「成る程……それで他にもスラム街で出店なんかを作って、賑わいを持たせようという事ですね!」


その通りさ!今でもアングラなものやプレイヤーマーケットでは出店費が高すぎて出店出来ない奴らが店を構えていたりして、それなりの需要はあったが、でもそれはプレイヤー間での話だ。要は皇女様や子供、ひいてはスラム街全域の改善が目標であって、俺達の店が潤えばいいと言う話でもない。


NPCが納得する形に発展させて初めて、任務完了なのである。


「えー……ゴホン!では!」


皇女様が改めて立ち上がり、音頭を取り始める。よく考えたら今ホテルの部屋内で各々ベッドに腰掛けたり、子供達なんかは床に座り込んだりしているけど、世が世なら皇女の前でこれは打首だよね……。トリス皇女だけ立たしてはいけないと思い、腰を上げる。


「改めて、柴鴨th、はなだ、まっ白ちろすけさん。スラム街の改善を、私と共に成し遂げましょう!」


皇女様の掛け声と共に、他の面々も元気よくお返事する。そして、俺達【探求者】の脳内にゲームからのアナウンスが舞い込む。


______エクストラクエスト【ストリートエンジェル】が追加されました。


______同時に、NPC【帝国第二皇女トリス・H・メギストス】がフレンドNPCに追加されました。


______称号 【帝国騎士】【フレンドリィ】を獲得。



お、おぉー。エクストラクエストに称号!フレンドNPCってのはある程度の友好度があるNPCの所在を、プレイヤーはマップで確認する事が出来る機能だ。プレイヤーではないので、メニュー画面からパーティー申請したり、チャットしたりは出来ない。パーティーは直接交渉なら参加可能だけどね。


3人とも内容を確認する。どうやら全員同じ内容のものを獲得したようだ。称号はえっと……帝国騎士の方は、【帝国騎士の証。アタノール帝国の貴族街、城内の一部へ入場出来る。】。フレンドリィは前のアカウントでもあったな、一定ランクのNPCと友好度上げれば貰える称号で、今後NPCとの友好度上昇率に+10%だな。


帝国騎士の称号はゲーム内でも存在は認知されていた。自由を投げ捨て、本当に帝国にお勤めをしに行くようなプレイヤーは貰えていたっけな。余りにもニッチな獲得条件過ぎて取得を狙うプレイヤーは少なかったが、レアなNPCと会う機会が増えるのは確かだ。


そしてエクストラクエスト。超人機構の時の様に明確な進行目標は表示されていない。皇女と共にスラム街を発展させよう!という曖昧な表記のみなので、具体的な策はプレイヤー任せなのだろう。


あらかた確認し終わったのか、御薬袋さんも柴鴨thも顔を上げ、向き直った。恐らくそれを見計らっていたのだろうタイミングで、トリス皇女が話し出す。そう言えばNPCは俺達プレイヤーがこういう時に虚空を見ながらボケっとしてるのをどう思っているのだろう。


「それでは、当面スリは控えるよう子供達には申し伝えます。炊き出しや配給等は行いたいのですが……私、私的に使える費用は限られております。十分な支援が私一人では難しいのです」


第二皇女と言えど、長男でもないしそんなものなのだろうか。王侯貴族なんて贅沢三昧かと思っていたので、寧ろしっかりした財政感覚を持った皇族が帝国を纏めてくれているようで、住んでる側からしたら安心なのかもしれないな。


しかしその反面、現状その日の生活が難しいスラム街のNPCからすれば、大きな支援等は行わない帝国に対して不満も溜まるのだろうか……いや、わからん。それはそれでスラム街に陥ったまでの経緯とかもあるわけだからな、犯罪を犯して逃げてるとかさ。そういうの引っくるめて支援するというのも正しいものなのか、分からない。


「取り敢えず、暫くの炊き出しとかは私が担当するっす。そこそこ蓄えはあるので、食料品とかならそれなりに保つと思うっすよ」


「装備とかも中々良いもの使ってるもんな。しかし良いのか?パーティーとかフレンドとかと活動する費用とか」


「いや〜、色々あってフレンドとかパーティーとか、気にしなくて大丈夫っすよ」


なんだかよくわからないが、現状出せる金が少ない我々にとっては渡りに船だし、突っ込んではいけないのかもしれない。ここは子供達は柴鴨thに任せる事にする。


「では私達は出来るだけ早く出店出来る様に準備しますね。はなださん、出店の準備は今のところ私で何とかなりそうなんで、新聞等の準備をお願いしますね」


「オッケー、任された」


「あ、そう言えば……貴方達は出店するにあたって、どなたから推薦は受けられるのですか?」


アリさん達が言ってた制度かな。あー、もしかしたら皇女様推薦してくれようとしてる感じかな?だとしたらアリさん達に申し訳ないからなぁ。


「一応、テーセウスの糸、という服飾店から推薦頂いてます。後それに伴い契約も交わしています」


「そうでしたか。では制度の話等は必要ないでしょうが、私からの推薦も重ねて伝えておきますね。二重の推薦と皇女からの推薦という事でかなり優遇されるかと思いますよ」


ほぅ、皇女公認か……ゔぇ⁉︎それは大丈夫な、のか?皇女公認ともなれば、何かしらの関係性を疑われたり、そうでなくても店の繁盛が予想される。正直今のポーション作成ペースでは維持出来るだろうか、いや無理だろうな。


それには御薬袋さんも気づいようで、慌てた様子だがすかさずフォローしてくれた。


「と、トリス皇女!お言葉は嬉しいのですが……そう為されると、子供達ではお店が回らないくらいの集客が予測出来ます。トリス皇女も余り公に私達に入れ込む素振りを見せない方が良いかと思うのですが……」


NPCと言えど、相手はお姫様だ。社長とかに思わず言ってしまったが、不味かったか……みたいな表情の御薬袋さんを他所に、当の皇女様はアッと驚き、気恥ずかしそうに推薦を取り下げた。


「わ、私とした事がお忍びである事をすっかり失念しておりました。……申し訳ないのですけれど、推薦は少し先でもよろしいでしょうか?」


「勿論、折を見てからお願いしてよろしいですか?ある程度店が軌道に乗れば、皇女様から公認されても不自然ではありませんしね」


「では……柴鴨th。私も城から出れそうな時はそちらに参りますね」


「了解っす」


まぁ、皇女様もお忍びで来てる以上ずっとこっちにいれるわけじゃないしね。基本的に動けるのは俺達3人になる以上、この割り振りでいくしかないだろう。


当面の目標が決まって、子供達も意気揚々。成り行きで手伝う事にはなったが、迷走していた自分に、少し目標が出来たし良しとしよう。更に言えば超人機構の手がかりも得た、重ねてよし!


現状芳しい訳ではないが、皆足取り軽やかにそれぞれの持ち場へ向かう事になる。

育休がぁ‼︎育休がおわっぢまぅう

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― 新着の感想 ―
[一言] (//∇//)バブバブ←幼児を増やす(笑) ( ̄□ ̄;)!!にゃんと、育休が終わるとな? 大変にゅ(>_<)
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