Let's work②
「……いつからそこに?」
「あれれ、結構余裕っすね……もしかして刺されても大したダメージじゃないとか考えてたりします?」
どうだろう、それこそ漫画やアニメの忍者みたいに背後から頸静脈をスパッと、とかならこのゲームクリティカル判定で死ぬんだろうか……。
未だ襲撃者は頭上?にいるっぽい。頭上って言っても建物は両脇に建っていて、今はその路地にいるわけだが、頭上は吹き抜けで屋根も無い。何処に立っているのか謎、もとより本当に俺の命が怪しいかが怪しい。本当はそこにいなくて、何か遠隔のスキルで話している、とか有り得るからな。
「残念ながら、このナイフはジャコウモスの毒から鍛え上げた物っす。見たところ初心者見たいですけど、耐性スキルも装備もないんじゃ多分30秒も保たないっすよ。それに、私は基本ソロプレイなんで、レッドネームも構わないっす」
「ジャコウモスって……かなり強いエリアボスじゃないか。……降参するけど、どうしたらいい?」
両手を上げて、反抗の意はない事を伝える。ジャコウモスはアタノール帝国から世界樹の方に向かって行く中で、中盤辺りのエリアボスで、その毒を使った装備は最前線プレイヤーやモンスターにも通用する強力な物だ。多分言う通り、俺のHPなんかじゃ消し飛ぶだろう。
そしてそんなジャコウモスの素材を使った装備を持っているという事は、相応の実力者であるという事。接近にも全く気づかなかったし、今恐らく空中から脅されているスキルか何かの正体も分からない。
まだギリギリレベルも10に到達してないので、デスペナルティは受けない。精々所持金・品の一部を盗られるくらいか。ただ、反抗するメリットも殆ど無いと思うし、この襲撃者に従う事にする。
「とりあえず、そのまま歩いて先の広場に出て下さい。そこで色々聞かせてもらいます」
「分かった」
そのまま路地から出て、子供達と皇女が話し込んでいる広場に躍り出る。皇女が丁度此方を向いていたので、すぐに気づかれた。
「あっ!お帰りなさい……何をしていらっしゃるの?」
「侵入者。こそこそ覗き見てたんで連行したっすよ」
「……侵入者?何を言っているの、柴鴨th、そこに誰かいるの?」
「「「………………」」」
三者とも沈黙、子供達も違和感に気づいたのか緊張した顔で此方を、というより俺の背後のしばがもす、なる者を見つめている。あの変わった名前からして、背後にいるのがプレイヤーなのは間違いないだろうが、こいつ皇女と親しいのか?似非敬語で話してるぞ。
そして多分この事態に陥ったのは俺の隠密スキルの影響でしばがもす以外には俺の存在が見えていないんだろうね。しかし、どうせ効果時間の10分ももうすぐ切れるしサッサと解いちゃう事にする。隠密オフっと。
サァッと体の膜が消えて、恐らく瞬間的に俺が出現したように見えたのだろう。子供達は驚き悲鳴を上げて……いや悲鳴は酷くない?こんないたいけな美少女捕まえて悲鳴て。
「こ、これは驚きましたね……貴女は?」
「このままで答えてください、動いたり変なスキル使う素振りがあれば刺すっす」
未だ背後の方は見れない、か。まぁいいや、皇女がいる以上なんとか隠れて逃げるか、死に戻りするよりかはここで繋がりを作った方が面白いかもしれない。
「どうも初めまして、はなだと言います」
「はなださん、というのですね」
「それで、何してたんです?こそこそ、今の透明っぽくなるのもスキルっすよね?」
「何か……何でもないというか、たまたま歩いてたら来ちゃった、みたいな?」
「あ!このお姉ちゃん、さっきスリ出来なかった人だ!」
おっと思わぬ伏兵だな……これでたまたま着いちゃった路線は無くなってしまった訳か。嘘をついていたからか、背後からナイフかなんかの腹でほっぺたをペチペチされる。危な、危な!
「ほぉ〜……この後に及んでまだ誤魔化せると思ってたんすか?」
「てか、しばがもす?こそどうやって俺を見つけたんだよ」
「え、普通に」
「見えてたの⁉︎」
「いや、何て言うかこう……気配察知、みたいな。はなだの周りだけモヤモヤしてたというか……それよりも!何してたんですか?」
おっと、違う話に誘導するのは失敗か。交渉スキルも持ってるけど、レベルが低い所為なのか中々効果は実感出来ないなぁ……そもそもこれは交渉ではないかも知れない。
「いや、本当に偶々だってば。子供達が矢鱈効率的な方法でスリを行ってるみたいだったからちょっと気になって、見に来ただけなんだよ。まさか皇女様が居るとは思わないじゃない」
「あら、私が皇女だとお気づきでしたか」
「いや、フードが勿体ない事になってますからね」
あっ、とフードを被り直す皇女様、今更今更。しっかし、NPCの中でも上位の人気を得ているのだが、それもわかる。すんごい整った御容姿、もうお人形さんですよ。
「そうっすか……で、どうするつもりっすか?」
「え?」
どうするつもりかと言われてもな……別に考えてなかったなぁ。ただ単に隠密スキルの練習だった訳だし、写真撮ったのもステータス欲しかっただけだからなぁ。
「え?って……他のプレイヤーに教えたりとかー、後プレイヤーじゃなくても他の皇族に告げ口したりとか」
「いや、そもそも何してたのかわからないからねぇ。皇族に伝手も無いし」
「あー……」
何とも言えない気まずいね、この空気。裁判起こして実家帰った時位固まってる。どうすんだい、これ。
「まぁどうまとめるかは分からないけどさ、その武器しまわない?俺がそっちを攻撃するメリットも無いと思うけど?」
「トリスの暗殺とか、あるかも知れないじゃないっすか」
「なら君に気づかれる前にやってるよ」
「グヌヌ……あー言えばこー言う」
まだだ、まだ笑うな……僕の勝ちダァ。冗談はさておき、いつまでも武器を突きつけられたままなのは居心地が悪い。何となく、後ろの奴は押しに弱そうな気がするんだよな。
「柴鴨th、大丈夫だと思いますよ。武器を納めてあげて下さい」
「トリス……分かったすよー」
トリス皇女に諭され、案外素直に武器を納めてくれたしばがもす。さぁてご対面と行きましょうか。クルッとその場で反転し、漸くその姿が見える。
皇女と同じフードを被っており見えにくいが、茶髪のボブカット、色白な肌、赤い瞳がチラと見える。種族は今のところヒューマンのように見えるが、正直エルフの可能性もあるかもしれない。背丈は今の俺より少し高い、現実だと頭2つくらいは下かなぁ。
そして相手を視界に収めたという事は、此方も収まったという事で……。
「あー‼︎今巷で噂の痛い子じゃないっすか‼︎」
ちっす、噂の美少女でっす(はーと)
◆
「なっるほどねぇ、スラム街の改善、か」
俺の素性は一発で判明した。俺よりも遥かにパパラッチしてる奴らが居るようで、こりゃあ負けてられないな。何でも掲示板では、俺達呪胎組は全員顔写真付きで掲載されたらしい。
お互い色々質問が山程有るし、この後の処遇を決めるためにも一つずつ質問をし合うことにしたのだ。今はこちらから【皇女が何故ここにいるのか】の問いに答えてもらっていたところだ。
「まぁ端的に言えば、そうなりますかね……兎に角、兄様やお母様お父様も、皆スラム街は必要な事だと言って取り付く島も無かったので、私が直接何とかしなければと活動していたのです」
「で、私も似たような感じで子供達にスリの仕方とかを教えていたら、トリスと出会った訳っすね」
「成る程……それにしても改善策が子供達にスリの仕方を教える事って」
子供達に犯罪斡旋するとか流石の魔眼お姉ちゃんもちょっと引く。それこそお家で雇ってあげるとか……まぁそれが出来ないからこんな事してるのかな。
「……言いたい事は分かるっすよ?それが改善になっているか、って目っすね。でも、そんな直ぐにはどうしようもないんすよ」
まぁそうだろうな。一昼夜で何とかなる問題でもあるまいて。寧ろそれで解決できるならば、現実の国々でもスラム街なんか無いよね。
子供達がスリをして、よしんば成功したとしてもそれはその場凌ぎでしかないわけだから。更にリスクも大きい。皇女様が考えているようにどうにかしたいのなら、とても得策とは思えないなぁ。
「今度はこちらから質問宜しいですか?」
「勿論、どうぞ」
「柴鴨thには貴女が見えていたようですが、あれはスキルですか?」
まぁそこも突っ込まれるか……別にこれは秘匿しなくても大丈夫かな。
「そうですね、隠密、というスキルですよ」
「隠密……私の持ってる【気配遮断】と違って、なんかこう、上手いこと言えないっすけど消えかけてる、みたいな感じですかね」
「柴鴨thのは気配だけですから、本人が目の前に居たらバレてしまいますものね」
「寧ろどうやって見つけたのか聞きたいけどね」
「それは次の質問でいいんすか?」
いや違うな、そんな事よりだよ。俺は重要な事に気づいてしまった。思い出すのはアルツから言われたクエスト更新の為の条件だ。【空中に留まる】、アルツが初登場でやっていたし、何ならその後のレムちゃんの証言では留まるだけじゃなくて歩いてたらしいからな。
で、だ。このしばかもすさんはさ、最初俺の【頭上から】声を掛けて来たよな。あの時に俺はたまたまだが、上側が吹き抜けて何もない路地にいた。つまりはあれだよ、留まれるんだろぉ?こっちを聞かなきゃな。
「いや、別にいいや。俺を見つけた時、最初空中に留まってたよな、あのスキルの事が知りたい」
「あー、あれはねぇ【空力】って言うんすけどね、結構大変です、取得が」
「空力、聞いた事無いな……最前線プレイヤーの戦闘も何度か見た事あるけど、誰も使ってなかったと思うんだが」
「使用人口は知らないっすけど、自分なりに取得の条件を考えてみて、まぁ万人が取れるものではないとは思うっす」
「その条件は?」
「秘密っすよ、隠密は教えてくれるんです?」
「…………」
教えるも何も、パパラッチに内包されてたから、教えようにも教えられない。言い淀んでいるとほらねーと言わんばかりに肩をすくめるしばがもす。違うんだ、教えたく無いじゃなくて知らないんだって。
しかしながら鎌をかけてみたが、やはりあの空中浮遊はスキルだったか。【空力】……空の力、か?これは意地でもコネを作っとかないといけないか!
「だったら!提案がある!」
「お、どうしたんすか、急に」
「まぁね。皇女様!スラム街を良くするって具体的にはどういう風にでしょう?このまま子供達にスリを続けさせるんですか?」
「そ、それは……子供達には申し訳ないと思っていますが」
そこだよ、付け入る隙はそこにある!
「ならしばがもす、この先どうする?」
「うぇ⁉︎私っすか……この先か……でも子供達にはまさか街の外で狩りをしろなんて危険な事言えないっす」
しゅんとする二人。何と言うか、二人とも心意気とアクティブさは認めるが、余り計画性はないようだな。俺が二人に取り入るため、痛いところを突っついていると……。
「どわぁ⁉︎」
背中に重い衝撃が。思わず耐えきれず前のめりに倒れる。いてて、顎打った……。慌てて振り返ると半泣きの小さな女の子、確かカミュちゃんだったか、が思いっきりのしかかっていた。
「…………」
「…………」
お互い無言で見つめ合う。歳が歳なら、ちょっとヤバめな体制だが、流石にお子様相手に照れる事もない。が、半泣きの女の子がじっと見つめてくるのは心に来るものがある。来るのは罪悪感。
「……お姉ちゃん達いじめないで」
……くっ殺せ。待って、尊い、尊死する。いかん、見た目美少女だけど中身アラサーだから!もう涙腺が、涙腺が緩いんだから!
「わ、悪かった!悪かったから、な!」
「……ありがとう」
「ほら、カミュ。余り乱暴な事しちゃダメっすよ」
見かねたしばがもすとトリス皇女がカミュちゃんをゆっくり立たせて、少し遠くから心配そうに見つめている少年達に預ける。あーあー……こんなん流石に見捨てれないわなぁ。
「改めて、はなださん。私達に協力してはくれませんか?正直行き詰まっています」
「私からもお願いするっ……します。この子達にこのままの生活をさせたくないっす」
「……分かったよ、協力しよう。だが!一つ条件がある」
「「条件?」」
「俺に【空力】を覚えさせる事」
虚を突かれたような顔をして、お互いの顔を見合う二人。やがて力強く頷くと、二人ともぺこりと頭を下げる。
「「宜しくお願いします」っす」
こうして、俺は空中に留まる手がかりと、皇女様達はアドバイザーを目当てに、共同戦線が組まれたのだった。
…………あ、御薬袋さん。




