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直往邁進④

「ここが……ニャート、にゃあ」


それまだやるのか……。可愛いエルフ姉様の仰る通り、少し休憩を挟んだ後、そのままの足でアタノール帝国最寄りの町【ニャート】に到着した。町の入り口にはデカデカとレンガ製のアーチが設置されており、アーチの最上部には町の名前入りの看板が掲げられている。


実は俺もこのニャート、ひいては【ハイゴブリン】を倒すルートは初めてだ。アタノールでは元のアバターで、一応ホームタウンだったのだが、早々にフレンドと共にヘパイシュタに移住したので、殆どアタノール側は未開拓のままだった。


果たしてここに何があるのか無いのか……まぁぶっちゃけ無くてもあのアーチ潜った時点で、ファストトラベル地点に認定されるので、それで良かろうなんだけどね。


「それでは、レディファーストです」


深々とお辞儀をし、手をアーチの方に差し出して先を促す。あら、と少しだけお嬢様っぽい足取りでアーチに向かう御薬袋さん。アーチに差し掛かった辺りでこちらに振り返る。


「まぁ……レディファーストの起源は女性を罠や銃弾避けに使う為、だと言われてますけどね……」


「え⁉︎えぇー……え、そうなの?」


「諸説有り、ですけどねぇ。日本以外では結構多かったみたいですよ。後、先に女性が男性をもてなす準備をする為に早く行動したりしていた習慣とかも」


「はぁー……知らなかったなぁ」


「まぁ、今ではすっかり女性尊重、って意味に成りましたからね。ちゃんとはなださんは気遣ってくれたって分かってますよ」


ずっとこっちを向きながらアーチの下から声をかけてくれるもんだから、取り敢えずそそくさとアーチまで移動する。しかし知らなかったなぁ……確かにFPS系のゲームでもドアや曲がり角の向こう側の死角でずっと待機して、ノコノコやってきた敵を奇襲する、所謂【壁待ち】とかが横行しているが、その辺りの予防にはなるのかなぁ……嫌な文化だ。


まぁ何はともあれ、結局二人で足並み揃えての入場を果たし、無事ファストトラベル地点に認定された。されてるかどうかはマップを呼び出せば青い字で、町の名前が表示される。まだ行ってない場所は灰色、行ったけれどファストトラベル地点にはなり得ない場所は赤色で表示されるのだ。


そして、町を見渡してみるがアタノールと比べると広さは一見して狭い。アタノール自体が大まかに6区に分かれているが、その内の1区分の広さにも劣るかもしれない。


町の様子はごくごく普通の中世田舎町風のレンガ町。一応、特産品である【シャカリキらむね】はレインボーなガラス玉のような見た目、炭酸のような弾ける食感、何種類かあるフレーバー、更に低価格な癖に短い時間のAGI補正がかかるバフ付きと相まって、中々の人気だ。直接この町に買いに来た事はなかったが、この町から買い入れた商品を別のホームタウン等で転売している奴から購入した事はある。


「それでー、ニャートでは何するんですか?」


「え……特に何も?」


沈黙。空白。再質問。


「え、何をするって?」


「いや……特に何……あ!らむね買って帰る?結構いけるよ」


「……はぁ、らむね、ですか」


見るからに足取り重やかになった御薬袋さん。あっちあっちと手を引いて歩いていくと、やんわりと人手が増えてきたのがわかる。元からNPCが多く住むわけでは無く、特産品やイベントが盛んなわけではないニャートに、人集りなんて中々出来たものではなかった。


そんなニャートの町の中でも異彩を放つのがこのらむね店だ。店の周りには結構な行列が出来、ガヤガヤと賑わっている。基本的にNPCは売り子はすれど、NPC同士で買い物はしないので、並んでいるのは全てプレイヤーだ。


この町だけでなく、割とこういう特産品や名物なんかの為に、ホームタウン以外の地域に出向いて回るプレイヤーも珍しくはない。楽しみ方はそれぞれだからね、戦闘やグランドクエストだけが正しいとも思わない。


「ほら、ポスター見てよ、凄い綺麗でしょ」


「うわ、本当ですね……綺麗」


誇張ではなく、宝石箱のようである。映えの為に、あえて華々しい装飾の箱に入れられているのだ。箱の中で光を浴びると、ラムネ達は反射し合い、あたかも発光しているかのようだ。美味しさ、効果もそうだが色んな層のプレイヤーに刺さるよう、工夫されているのだなあ。


しばらく並ぶと自分達の番が来て、一個だけ購入。そういや今は可愛い二人組だからか、こういうとこに居ても浮かなくて有難い。現実でもWAO内でも、スイーツの周りは男性一人にはハードルが高いのだ。


「綺麗だけじゃない、美味しいよ」


箱から水色に煌めく粒を一粒取り出して、頬張る。思った通りソーダフレーバー、口の中で爽やかな酸味と炭酸感が心地よく広がる。ラムネなのですぐ溶けて無くなってしまうが、飴玉みたいに長く残らないのもまた好きなところだ。


御薬袋さんにも箱を渡すと、深緑の一粒をパクリ。


「……?んー……あぁー、スイカ、スイカですね、これ」


「スイカか、色々あるなぁ……季節の味とかも出るから時々食べたくなるんだよね」


「少し割高なのが難点、ですかね。でもいいですね、気に入りました!」


きゃっきゃっとはしゃぐ彼女はやはり年相応の女性なんだなと思う。普段落ち着いて見えるのは、もしかしたら頑張っているのかもしれないな。


そして、仰る通り少し割高だ。おかげでこの後少し入り用なので、一箱しか買えず分け合っているわけだ。一個鑑賞用に欲しいなぁ。


「さぁて……どうしよっか」


からころからころ、口の中でラムネを転がす。なんですぐ、ラムネって無くなってしまうん……今のはトロピカルなフレーバーだな。


「どうしましょうか……」


御薬袋さんも隣でからころ。どうしよっかなぁ、今日はボスを攻略することだけに目が行っていて、その後の事あんまり考えてなかったなぁ。


でもこの町にはそんな大したアイテムやイベントも無いし、アタノールに戻ってそろそろノーマルクエスト消化するか。経験値も稼げるしね。



「あー……私ちょっと、この町も観光したい、です」


「おー……そうだね、折角だしね。じゃあ今日は観光終わったらまたいつものホテルまで戻る、を目標にしよっか!」


「はい、行きましょう」


からころ歩き出す二人。ちょっと自分が考えていた効率的な動きとは違ったけど、こういう自分から何かを感じに行く、ような感性や行動は大事だと思う。というか今思い出させられた。


色んな物が便利になって行く中で、敢えて景観や日常なんかを楽しむ、なんて考えが頭から弾き出されている人が多いであろう。でもさ、人の事言えないけど、ゲームなんだし楽しまないと、だよね。


この後も、本当何にもない町だったけれど、からころ観光を楽しめて良かったと思う。


御薬袋さんも終始笑顔で、あそこに猫が居たとか、猫の形の庭園だ、とか……猫多いな……、きっとここに着くまでは緊張していたんだろうな。


観光できて良かったです、にゃあと。





「あらぁ、また沢山持ってきたのね」


薄ぼんやりとランプの灯りが照らし出すカウンターの向こう側には、今日は黒い、所々メッシュのような肌が露出する部分がある、ドレスを見に纏ったアリアーリーさん。本日も大変麗しゅう。


俺はニャートを満喫した後、一旦アタノールへ帰還し、戦利品の整理をした後に要らない素材やら、使わないドロップ装備なんかを売却に来ていた。本来ならこれくらいの品物ならNPC店で正規の価格で売れば良いのだが、なんせお店から弾かれちゃうもんで。


「順当って言えばそうだけど、随分早足で攻略したのね」


「そうかな……まぁありがとうございますっと」


「何か良いスキルでも?」


アリさんは素材を検品中で視線は手元のままだ。ままなのだが……こちらの腹を探るような意図を感じる……考え過ぎだろうか。というかそんなに早かったかな、攻略。


ちなみに、現在御薬袋さんとは別行動中である。御薬袋さんは買い出し担当、使用した各種ポーション類とかね。この後また落ち合って錬金会を開いて終了、ってわけだ。


「いやぁ、実は結構この手のゲーム得意でして、意外とあっさりクリアしちゃったー……みたいな?」


「ハイゴブリン、あの子怖がったんじゃないかしら?」


「え?あー、まぁ……ちょっと怖がらせてしまった、かも」


「きちんとフォローしてあげなさいよ?見るからにこういうゲーム初めてだったしね」


まぁ滲み出てますよねぇ。このVRやダイブゲームが旺盛な時代に、殆どゲームした事が無いだけである意味希少価値だ。皆何かしら経験はあると思っていたなぁ。


なんだかんだ話ながら、査定は終了する。今回持ってきたのは今受けている細々したお使いクエストでも錬金でも使わない、モンスターの素材の余りだ。行き道の分も有るが、実は帰りは別々にアタノールに戻ってきたのだ。


御薬袋さんはニャートからファストトラベルを利用して(隣町からなので超安い)、俺はハイゴブリン達の住処は避けながら、トレントスやミニウルフなんかを乱獲して戻ってきていた。ボスエリアは一度クリアしても再戦可能だが、撃破後は迂回して進むことも出来るのだ。今回はめんどくさかったので割愛。


そしてわざと目立つように大きな音を立てて歩いていき、格下モンスターを引き寄せぶっちぎりながら、薄暗い森の中で時々奇声を上げながら歩くツインテ美少女は多分ホラーだったに違いない。


「はぁい、こんなものかしらね」


アリさんから電卓に買取価格が表示される。


5.5万ドン、よしよし、中々の金額だぞ。アリさんは市場の価格より少し高めで買い取ってくれている為、幾ら数があるとはいえ初心者マップ周辺でこのくらい儲かれば上出来だ。


買い物や諸経費等にお金が要るというのもあるのだが、考え始めたのがプレイヤー店だ。それこそアリさんのように生産職割り切って店を構えるのではなく、露店を出して店番はNPCを雇って、錬金や余剰な物をバザーにかけるくらいのものを出せば、例え俺達が冒険してようとも勝手に商売が成り立つのではと。


その為には商業登録を各町々に登録せねばならない。アタノールではアリさんのような固定の建物有りなら【500万ドン】、俺達が考えている露店スタイルなら【50万ドン】で出店出来る。


「ありがとうございますー。助かったよ」


「まぁねぇ、貴方達面白そうだから?普通ならこんな価格で買い取ってないのよ」


全くその通りで、アリさんはアイテムの元の価格だけで無く、市場や希少度等で価格を決めてくれるそうで。要するに……。


普通のNPC店で【鉄鉱石】を一つ売る。すると【100ドン】で売れる、これはアイテム毎に元から決められた価格だ。しかし鉄鉱石が不足している時期であったりしても値段は同じ。だがプレイヤー店に売ったならば、需要が供給に追いついていない時にはこれの何倍にもなる。


更に例えば【伝説の剣】とか。とても希少価値の高い品物だがアイテム毎に元から決められた価格は【1ドン】、NPC店ではどれだけアイテムに効果や価値があろうとも、決められた価格以外では売れないのだ。


「全く、本当びっくりするくらい有難い話ですよ……普通こんな初心者二人から取引しないと思うし」


「普通はねぇ……最初のインパクトと、後は……可愛いからかしら」


艶かしい視線をカウンターなら投げかけながらため息を吐くアリさん。思わず背中をゾクゾクする感覚が走る。わ、分かってます?俺今美少女だけど、中身アラサー男性だからね?……ん?いや、むしろ分かってる、のか?


「と、兎に角、おかげで助かった。俺達まだしばらくアタノールにいると思うし、またちょくちょく来るよ」


「あら、何か目的が出来た?大体皆一旦離れていってしまうものだけど」


「あー、まぁ。……実は露店を出そうかと思ってて、お金稼ぎ中です」


どうせバレるし、別に隠す事でもないしと思って口に出したけど、良く考えたら商売敵になる宣言だったかな。どうかと思っていたけれど、意外にもアリさんは見た事ないくらいぱぁっと明るい顔を見せた。


「あら、本当?貴方達もお店持つのね……いいわよねぇ、自分の店を出すワクワク感。屋根とか、店の内装とか考えてるだけで一日終わっちゃうわ」


「そ、そう。で、そもそもの出店資金を集めているわけですよ」


「あぁ……あったわねぇ、そういう時も。……開店資金高いものね」


アリさん?おーい!なんか一人で思い出に浸り出しちゃったよ。相変わらずぼやぼやしてるかと思ったら急に的確な事を言ってくるもんだから、この人といるとペースが乱れるなぁ。


ともあれ、売却も済んだし今のところ新しい装備も必要無さそうだし、そろそろお暇するかと挨拶をしようと思った矢先に、向こうから声がかかる。


「そう言えば、貴方達、私が商業登録の推薦してあげましょうか?」


わぁーお。間違えた、にゃ〜お。

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