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side story②

「なんや、兄さんもかいな……今日はこのパターン多いなぁ」


眼前で失礼にも、ため息を吐く関西弁の羊なのか猫なのか、未だによく分からない生物。このゲームの案内人的存在。私はあまり好みでは無いが、一部界隈のファンクラブまで存在する程人気とのこと。


初心者じゃないなら、とさっさと何処かへ行ってしまったので、一人キャラメイキングのコンソールへ向かう。前回はエルフを選び、金髪の美男子的なキャラにしていたけれど、今回はどうしましょうかね。


会社からは自分だと判別出来ないようなキャラと指示が有る事ですし……今回、私達のペアは【アテーナーイヤー】をホームに指定されている。選べる種族はヒューマンか【竜化人(ドラゴニュート)】、後は特有の【人魚族(マーメイド)】かな。


まぁヒューマンはありきたりですし、自分の性格上人魚族もしっくり来ませんね。折角別の自分になれるのだから、ここは竜化人一択。


その後もすいすいとメイキングは進む。元のアカウントでも時々追加メイキングしていたので、コンソールの扱いも容易く、割と短い時間で完成。竜化人特有の2メートルを越える高身長、力強い翼、鱗がびっしりの尾。瞳の色は私の好きな黄金色。


後はプレイヤーネームですか。これも指定が有り、必ず色に因んだネームにしないといけない。好きな色はゴールドだが、だからといって安直にゴールドは少し……。ならばドイツ語の【ゴルト】にしましょう、見た目の厳つさにも負けてないと思うな。


完了のボタンを押し、コンソールから離れると同時に奥から案内人アンクが現れる。タイミング良く現れた所、何だかんだ見られてはいたようだ。


「お兄さん早いなぁ、迷いないっちゅーか……まぁええ所ですな」


上から下まで舐め回すように見られた後に、「綺麗な金色や」とぽつりと零した呟きに高感度が少し回復……しそうだったが、それもこの案内人の策略かもしれない。


そのままスルーして、ゲーム開始の為のポータルに移動する。ポータルは淡く青白い光を放っていて、最初にこれを使った時はもっとワクワクしていたなぁと感慨深い。このゲームがサービス開始してから大凡3年ほどかな、その間何度も出入りしたものだ。


「もう行っても大丈夫かな?」


「まぁなんや注意することも質問もないでっしゃろ?」


そうですね……ギフトの事は気になってはいるけれど、アンクに質問した所で仕方ないし、なんなら不正な者としてシステムにバレてしまうかもしれないし、ここはやめておくとします。


「大丈夫ですよ、では、お願いします」


「はいはーい」


淡かった発光が力強さを増し、慣れているものの目を開けづらい。もう間もなく私はこの竜化人【ゴルト】の体で新たに生を受ける。


次第に視界が真っ白に染まっていき、体は浮遊感に包まれて行く。この時の感覚が私はとても不愉快だ、酔ってしまいそう。



______ようこそゴルト。ワールド オブ オーダーへ。


______認証完了、キャラ固定完了。


______スポーン開始……失敗。未認証ギフトの受け取りに成功。


______再度スポーン開始……成功、ダイブ開始。良い旅を




「笑うのがお上手やねぇ……でも嘘は笑顔だけにしときね、ずるはいかんよ」


呆れたような、先程より不機嫌さを全面に押し出したアンクの声がギリギリ、私の耳にも届いた。意識は白に染まる。


◆


白の世界から一転、視界は赤に包まれる。浮遊感は継続していて、通常通りのダイブとは行かなかった様子。それにしても暑いな……


見渡す限り溶岩溶岩、足場があるのかも今のところ怪しい。私はどうもこの溶岩の海を内包する、火山の天辺から落ちて来ている途中のようで、着地まではもう少しといったところか。


WAOは本来ニューゲームした場合、選択したホームタウンのランドマークにスポーンしてチュートリアルが始まる。が、今回はスポーン間際のアナウンス的に、束内さん達が添付したギフトがWAOの不正検出の対象に引っかかってしまったようだ。


となると……この不自然な場所でのスポーンは何か意味があるのでは?恐らくお仕置き的な……そう言えば、私とペアになった【鈴村 美海(すずむら みみ)】さんはどうなってるんですかね。


初対面の自己紹介の集まりでは、本当に、見た目だけ絵に描いたようなギャルで驚きましたが、ダイブ前に少し話をしてみると、意外にも良識は持ち合わせているようでした。


彼女はWAOは初めてと言っていたし、いきなりこんな事態になって大丈夫なんだろうか。一応、近くに居るかもしれないので、落下しながら辺りを見渡す。先程よりは地面、というか溶岩に近付いて来てより鮮明に見える。


足場が無いように見えていたが、良く見ると所々溶岩が固まって出来た足場はあるようだ。足場の隙間からは、まだ音までは聞こえないようだが、時折溶岩が飛び跳ねるのが見えて少し怖い。


そして下に向いていた視線を辺りに向けると、少し離れた下方に、居るではないですか、彼女!まぁ、見事に殆ど同じ背格好にしていますね……束内さんの説明をきちんと聞いていたのか怪しい。


派手に盛られた髪は現実では栗色の髪でしたが、今は金色、悔しいがいい色です。そして周りも同じような色の景色なのでハッキリとは見えませんが、どうも体色を真っ茶色、焦げギャルというのか?みたいにしていらっしゃる。


そんな、見間違うのが難しい彼女は、先に私に気づいていたようで遠くから手を振っているのが見える。私だとバレているのか、まぁ状況的には私の可能性が高いのでしょうが、何かのイベントだと思われていてもおかしくはないとも思う。


タイミング的に彼女がスポーンするのが早かったのか、彼女の方が体重があるのか、兎に角彼女は私より下方にいるので先に着地するであろう。ちょっと実験台、このゲーム地形ダメージも勿論有るので、足場の部分は大丈夫か身をもって見せてもらいますよ。


まぁとりあえず手を振りかえしていると、もう彼女は着地する寸前。私の耳にも風切り音以外にもしゅうしゅうと蒸気の立ち上がる音が聞こえてきました。さて……


ダン!と正に見事な両足による着地。理想は五点着地で衝撃を分散させる、等聞いたことはあるけれど、どうやら一点でも落下ダメージは問題ない様子。そろそろ私も着地の、心構えを……ん?


しゅうしゅう聞こえていた音が急にヤカンの沸騰するような音になり、更には腹の底から響くような地鳴り、そして私が着地せんとする瞬間、ついに地面が爆ぜた。


爆ぜた事で視界を埋めるほど飛び散る溶岩。勿論空中で避けきれる事もなく、数滴浴びる。ゴリゴリと削れ、灯火のようなHPに焦燥を覚えると、視界が開かれて、迫る溶岩溜まり。


ジュ、と。お肉が焼けるような音と共に私の体は溶岩溜まりに突入すると共に、消滅。近くで「あー、竜の人ー」と彼女の声が聞こえる。呑気だなぁ。


______


あなたは死亡しました。10秒後にホームタウンで復活します。レベルが10未満のためデスペナルティはありません。


WAO世界内最速での死亡を確認。

称号【死に魅入られし者】を獲得。


復活まで……3.2.1、プレイヤー【ゴルト】をリスポーンします。良い旅を……



◆


突然浴びる眩い光に目を細める……しばらく頭が追いつかなかったが、水の都【アテーナーイヤー】の神殿前にいるようだ。先の光は、水中都市で、都市の周りを水が覆っているものだから、外からの光がダイレクトに目に入ったのだろう。


恐らく私は死に戻った。鈴村さんは大丈夫なんだろうか?あの時いた火山はこのアテーナーイヤーとは似ても似つかない場所、自他共に認める廃課金ユーザーだった私ですら見たことが無かった。


あそこから無事に戻るには案外死に戻りが安定だったかもしれない……そう言えば束内さん達が今回のメンバーは自動で、フレンド登録されるように細工していると話していたのを思い出す。


ウィンドウからフレンド欄を開くも、九人共ネームを聞いていたわけでもないので、誰が誰やら。これは……お手上げですね。


早々に鈴村さんの安否は置いといて、先程死の間際に聞こえてきたアナウンスを思い起こす。そう言えばギフトを貰っていたのだった、ちゃんと確認しておくとしましょう。


確認すると【風水師(ジオマスター)】の表記が、これはまだ見聞きした事のないものだ。大概の職業欄がパッシブにしろアクティブにしろ、スキルを内包しているものだが、先にフレーバーテキストの方が気になる、どれどれ……


「【天災にも救済にもなる力を、導く者】か……物騒なワードもあるね」


スキルは、アクティブスキルメインのようで、説明欄には五行を制することが出来る、と。要は自然体現効果という事、かな。初期のMPの全てでようやく一回分ですが。街中では攻撃系のスキルが気軽に発動出来ないのが残念だ。こんな見たことの無いスキル、是非すぐに試したい!


疼く好奇心に、直ぐに初心者向けのフィールドに移動しようとした私の耳に……いや、全プレイヤーの耳に聞き慣れないアナウンスの声が響き渡る。それは恐らく脳内メッセージで、耳を塞いでも何でも、平等に降り注ぐ。


______


監視者・五使がワールドへ開放されます。不正なプレイヤーを対象にランダムに襲撃を開始。


並びに全プレイヤーを対象にエクストラクエスト【監視者】が追加されます。


エクストラクエスト【監視者】を強制的に開始します。第一段階【邂逅】クリア者数名。


______


がやがやと賑わいが激しくなる街並み、それもその筈。このゲーム初めてのワールドアナウンス。グランドクエストはまだ進展が無い上に、レア装備やスキルの取得などは秘匿性が重要なので明かされず、今まではアナウンス機能自体が無いかと思われていたのだから。


気になるのは【不正なプレイヤー】というところ。これはタイミング的には私達の事では……。


あれこれ思案していると、少し前に自分がリスポーンした場所に、恐らく鈴村さんであろう焦げギャルがリスポーン。しかし、その額にはまるで子供が悪戯でもしたかのように、でかでかと何かの刺青的な物が刻まれているではないか。


タイミング的に非常に怪しい。もう少し周りのプレイヤー達に、詰め寄られたらバレることだが、基本的に余程棒立ちでモンスターに攻撃され続けない限りは、初心者プレイヤーがレベル1でデスする事は無いと言えます。


だが我々はレベル1、ネームが確認出来る距離まで近づかれると直ぐにバレてしまう。そうなると今回の件に関わっているのは明白、不正を疑われるアナウンスがあった以上晒し者にされてしまう恐れもあるだろう。


これは非常に不味いですねー……とりあえずスキルも確認したいし、一先ず私は退散させて……。


「あっ、竜の人ーー!!」


無視、関わると私まで怪しまれてしまう。


私の思いとは裏腹に、彼女は凄い勢いで此方まで駆け寄ってきてしまった……ここに来るまでにも大注目されているのに、視線に頓着は無いのだろうか。


「無視しないでくださいよー!さっき火山にいた人ですよね!」


「ちょ!ちょっと、こちらに来なさい!」


今度は対象的に私が率先して彼女の腕を引き、とりあえず少し離れた神殿の裏手に連れ込む。現実なら事案ものだが、まぁ今私竜化人ですし、ゲームですからね。


「貴方、何考えてるんですか⁉︎凄い目立ってたの自覚してますか?」


「え?目立ってた、私?……てか目立ったらダメなんですか?」


頭を抱えるどころか、最早目眩を感じる程だ……しばらく考えても理由がわからなかったようで、不貞腐れたような表情でそんな事より、と切り出してくる。


「あれから大変だったんですから!なんか、こうぶわぁぁあって、赤い渦巻きみたいなのに閉じ込められて。えっと……トランプ?ブ?ルネ、ってやつに自己紹介されて、で、不正したから粛正する!って囁かれたと思ったら……ここに居たんだから!」


「トランプ、ブルネ、ねえ……それより、貴方鏡見ましたか?額にデカデカと刺青入ってますよ」


「ひたい?」


「オデコですよ、オデコ」


あぁ、と額をさすっているけれど、さすったところで消えるわけもない。恐らく、監視者のペナルティマークみたいなものだろう。



しかし大変だった、と言えるのかはさておき、トランプルネ、若しくはトランブルネというのが【監視者】とアナウンスされていた存在だろうか。最悪なことに私はその場に居なかったし、彼女はそいつを視認出来ないままキルされてしまっている。


「そう言えば、貴方お名前は?」


「ん?……【こばるとルブー】、よろしくね。竜の人は?」


「【ゴルト】です、よろしくお願いしますね……貴方、お仕事で来てますよね?」


フレンド欄を改めると、確かにその名前が有る。もう決定的に鈴村さんですね、とりあえず今後の事もあるので、正体を隠しておいても直ぐバレる。ここはお互い誰か知っておく事にする、しかない。


「え!すごい!なんでわかったの?」


「束内さんのお話で、あの場に居た者は自動でフレンド登録されるから、とあったでしょう」


てへ、と舌を出して誤魔化す彼女の仕草は、確かに大多数の人間が絆されそうな気がする。まぁ私も特に問い詰める気も無いので、そのまま流してしまいます。


「私です、秋月ですよ」


「え⁉︎秋月さんなの⁉︎すごーい、めっちゃ竜で、わからなかった!」


「それは、一目で正体が分からないように、と指定されたでしょう」


むしろ貴方が可笑しいのです、そのまま色だけ変えてくるとは……なんだか偶にやる対戦ゲームで2Pカラーを使ったりした感覚を覚える。


「そう、こんだけ違ったらわかんないでしょ?」


「……まぁ、どうでしょうね。それより、私もすっかり忘れていましたが、集合場所に移動しないといけませんね」


本当に、すっかり忘れていたが、鈴村さんの傍若無人ぶりを見て、逆に一旦冷静に戻る。この後は世界樹の麓にあるこのゲーム中心街で集合となっていたのだった。


今は取り敢えず暗がりにに逃げ込んだので新たな人目につく事は無くなったが、彼女との会話の片手間弄っていた、WAO内のBBSでは早速先のアナウンスと、刺青が入ったレベル1のリスポーン者達に関係性を見出し始めた者もチラホラ出始めていた。


恐らく他の同期達であろう、プレイヤー達の撮影された画像や動画も同じく上がり始めているようだ。今移動するのは至難の業なのだが、会社命令ですし、致し方ない。


「これを」


無造作に彼女の頭に私の初期装備のフード付きマントを被す。彼女も同じ物を持っている筈だが、私のアバターの方が体が大きいので、額までしっかり隠せるのだ。


「にひひ」


「何が可笑しいんですか?」


「いや、だって、優しいんですね」


優しい?この行為が、だろうか?それは……想像だにしなかったな。


「はい!被ったし、行きましょ行きましょ!」


突然腕を襲う衝撃に戸惑うも、自分が彼女に手を引かれているとわかり、路地から飛び出して行く。彼女は事情を把握しているのかいないのか、フードを目深に被ってはいるものの、満面の笑顔で街を駆け抜ける。


「秋月さん秋月さん!」


「何ですか、後、ゴルトです」


「あ、ごめんなさい……ゴルトさん!」


「はい」


「これからよろしく!」


「……はい」


私が思っていた以上に彼女は図々しく、若さが無ければきっと社会では通用しない性格なのだろう。だけど、今はこれで良いかと思ってしまった。そんな世間体のようなものは嫌でも、後からついてくるもの。


彼女との新たな仕事のスタートは、私が想像していたより心躍り、少年が描く夢のような冒険に満ち溢れ、そして……後悔の念しかない。





どうしてああなったのか、こうなった今。


この位しか考える事が出来ない。何か間違えていたのだろうか。


兎に角、彼女の破天荒振りは私にとっては晴天の霹靂、目から鱗。あぁ、ベタですが、タイムマシンがあればなぁ。


ごめんなさい、ごばるとルブー、鈴村さん。

私、秋月 孝太郎は貴方を、何度も何度も何度も……。

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