運命の記念写真……おまけ
「え、すごーい、綺麗ですよ!正に雲泥の差です!」
はしゃぐ御薬袋さんと我々一向がいるのはミューゼス最寄りの初心者マップ【ムルテン雲海】。果て無く広がる雲海が、所々盛り上がって、盛り上がった場所が色々なモンスター達の住処となっている。
そして泥と例えられたのは我らがアタノール帝国最寄りの初心者マップ【ミアンの森】だ。そりゃあ景色良し、モンスターも比較的可愛げが有るのが多いと来たら勝てないよ。
「そりゃあそうだよ、それは良いんだけど余り一人で遠く行かないでよー」
はーいとちょっと離れたところから返事が上がる。俺達三人は苦笑しながらついて行く、なんだか小さい子供みたいだなぁ、可愛い。
ムルテン雲海には皆のギフトと、道山さんの楽武お披露目会に来た。雲海のモンスターは地上のものより非好戦的な奴らが多く、ゆっくり試すには打って付けだった。どっかの殺意高い兎たんにも見習わせたいね。
先日兎狩りをしていて感じた事だが、呪胎の効果のヘイトが対象者に向きやすい、というのは特に敵に発見され易いという訳ではなかったようで、今のところ実感はない。基本俺が戦闘していたからというのもあるかもしれないけど。
「それじゃあ、とりあえず私の楽武からで良いかな?」
「良いと思うよ。御薬袋さんのギフトは戦闘向きじゃないし、順番に三人で披露していこうか……おーい、まっ白さーん!そろそろこっち来てねー!」
ぶんぶん手を振って呼ぶとどこから持ってきたかわからない雲の塊を握った御薬袋さんが、駆け足で戻ってきた。おいおい、なんか目ついてる、モンスターじゃんこの雲。
「見てください、超可愛いモンスター見つけました」
「……か、か、可愛、い?」
鳥野内君、君が正しい。多分可愛くない。さっきから御薬袋さんの腕の中でギョロギョロ大きな目を回転させていて、正直怖い。一つ目じゃないぞ、ちゃんと血走った三つ目だ、怖いって。
「えー、すごい可愛い‼︎まっ白ちゃんすごい」
「でしょー、ありがとう!」
絶対可愛いくない凄い。
そう言えば、鳥野内君が頑張ってご教授したようで、道山さんは皆を現実の名前で呼ぶ事は今のところ見ていない。御薬袋さんはまだ慣れないみたいで、時々間違えてしまうけれど、まぁそれも良かろうと思います。
「さて、じゃあ丁度いいのがいるし、こいつでとりあえず楽武のお披露目会と……」
「「却下!」」
だそうです。な、なんだぁその暴漢から我が子を守る母親のような目はぁ!いや、しかもその肝心の目雲ちゃんが、腕の中で抱かれながら、御薬袋さんの二の腕の辺り齧ってるからね⁉︎てか口もあるんだな、尚更キツい。
しかし、女性陣の結束は固く、お許しは出なかったので仕方なくボチボチ移動しながらモンスターを探す。綺麗で良いんだが、なんせ同じような雲海が続きすぎててモンスターが分かりづらい。
オマケに目立つのを避けて、メジャーな狩場を離れてきたものだからポップ率も低い。出会うのも先の目雲ちゃんが殆どだ、正式には【イミテーションクラウド】、ほらイミテーションよイミテーション、偽物よ?
「お?」
やっとこさ出てきましたよ、モンスターっぽいモンスター。いやー、ミューゼスの方は元のアカウントの時もあまり来る機会が無かったから、モンスターの把握も出来てないんだよねぇ。
出てきたのは大きめの猫が気持ちムキムキになって、背中に道山さんのより更に小ぶりな羽根が生えた、天使のような猫型モンスター。しかしその容貌は天使どころか、涎を撒き散らし、毛を逆立たせて此方に唸り声を浴びせ続けている。
「え、え、【エンゼキャット】です。あれなら……大丈夫で、ですか?」
大丈夫ですか?……大丈夫のようで、グッドサインがお二人から出る。ということ、で!
「では、チェリさんお願いします」
すっと前に出たチェリさんこと、道山さんは手には先程のクラリネット型の楽武。猫型のモンスターは威嚇こそすれ、まだ襲っては来ていない。まぁ多勢に無勢だものなぁ。
しばらく猫型ロボ……っと、モンスターことエンゼキャットと相対していたが、スッと楽武の口につける部分(後からマウスピースと教えられた)に麗しい唇が付く。
いよいよ、俺だけじゃ無く鳥野内君やさっきまではしゃいでいた御薬袋さんも、すっかり静かになって見入っていた。
思っていたより低めのラッパ音。流れるように滑らかに動く指。笛先からは同じく滑らかで、且つ一音一音がハッキリと聞こえる。
曲目はわからないが、穏やかな曲だ。まるで暖かい陽気の中、ピクニックに出かけたりしているような感覚を覚える。
猫型モンスターも唐突な演奏に虚をつかれたのか、威嚇を継続しながらも戸惑いを隠せていない。その間も楽しげな演奏は続く。さて、楽武というからには何かしら効果があるんだろうが……
たらたらたらたらたったったーん
たらたらたらたらたらららら
そ、そう聞こえるんだもん!決して音程馬鹿野郎ではない、断じて。とか何とか言っているうちに短めの曲だったのか、演奏は止まった。猫型モンスターは健在、楽武からも何か発せられるものは……ん?若干。本当に若干道山さん黄色い?
「チェリさーん?すごい上手かったけど、どうかな?」
「や。やー……なんかステータスがアップしてるっぽい」
え、えー……いや……えー?ステータスアップはいいんだろうけども。楽【武】って言うからには、なんか、こう、攻撃でも出るのかと思っちゃうじゃん?
本人も変な手答え、と苦笑しているがこれはどうだろうな。道山さんだけにしか補正が乗ってない所を見るに、パーティ単位のバフという訳でもないか。
「あー、、じゃ、じゃあその上がった、す、ステータスで、殴る、とか?」
えー、効率悪。演奏も時間かかるし、なんならその間無防備な訳だしね。戦闘前から演奏してもいいけど、効果時間は短くなるし。
「待ってね、ちょっと違う曲も試して見る!」
そう言ってまた猫の前に相対する。わざわざ律儀に前に立たなくてもと思うのだが、まぁいいだろう。あの猫が手を出して来ないのも助かる、きっと怖がってるだけの只の羽根の生えたマッチョ猫なんだろうなぁ。
そして次に道山さんが演奏し出した曲は……あ、これ知ってるよ、ダダダダーンだ!えーと……べ、ベートーヴェンだ、運命、だったかな?ちょっと聞いた事のあるオーケストラのものとは違う雰囲気だけど、そこはクラリネット単体だからだろう。
先程の曲は軽く、朗らかな音で吹いていたのに対し、対照的と言える程に重く、激しい吹き方になっている。そして……
出た、やはり小振りの衝撃波がクラリネットの先から飛んでいった。雲海を裂きながら真っ直ぐに飛び、しっかりエンゼキャットにヒット。一撃、とは行かなかったようでこれで相手も完全に迎え撃つスイッチが入った。
「おー、すごい!頑張れー、チェリさんー!」
演奏の途中だが、御薬袋さんから応援が入る。ギフトや武器に慣れる為に、基本的には一人で対応することになっているので、まだ助けに入れないからだ。
どうも見ていると、かの有名な【ダダダダーン!】の時や合間合間の音が低く、大きかったりする時に衝撃波が出ている気がする。運命という曲も、あのダダダダーンのとこしか知らなかったのだが、強弱や音階の違う、あのリズムの演奏を繰り返すもののようだ。
しかし、しかしだ。エンゼキャットだって唐突な侵略者に無防備というわけではない。兎ちゃんなんか可愛く思える程、耳を後ろに閉じてイカのような形になり、尻尾を逆立てながら縦横無尽に走り回っている。初心者用モンスターの差がすごいな。
道山さんは何とか避けながら演奏しているが、演奏に集中出来ず衝撃波は出るが、小さく弱いものだったり、強めのものが出ても動く相手には割と避けられる。これはこれからの課題だなぁ。
そして……
「だらぁぁぁぁあ!!」
がっつーん、と。業を煮やした道山さんによる重ね重ねたバフを乗せた、ダイレクトクラリネットアタックにより、閉幕した。
◆
「そ、それじゃあ、い、いきますよー」
鳥野内君がちょっと離れたところで手を振る。次は鳥野内君と道山さんのギフトお披露目会だ。事前に聞いていた鳥野内君のギフトは【祈祷踊子】。
具体的に言うとバフのプロ。踊りによりパーティにバフをかけまくり、敵にはデバフをかけまくる。更に精霊や神仏等とも対話出来る様なスキルもあるようだ。
そして二度目の出番、鳥野内君の隣でストレッチしている道山さんのギフトは【人形術師】。書いて字の如く人形を操る。文字通り人の形をしていればぬいぐるみから、プレイヤーまで操れるそうだ。
二人の眼前にはさっきとはまた別の個体のエンゼキャットさん……また威嚇し出してからしばらく経つが、もしかしたらUIは流石に初心者向けなのだろうか。なんにせよ助かる。
「パペッター!おいで!」
道山さんが威勢良く手を掲げると、小さめの魔法陣が3つ空中に出現する。しばらくクルクル回っていると、一つ一つから4〜50センチ位の人形が飛び出してきた。
「か、かわいい……」
赤い犬の耳がついた人形と、緑の鳥の様な嘴を顔の辺りにつけた人形、最後は青の熊の様にごつい人形、こいつだけやたらでかくて1メートル位は有りそうだな。
それらはしばらく道山さんの周りをクルクル回遊する。俺の隣で眺めていた御薬袋さんの視線は、推しであろう青い熊に釘付けだ。
やがて道山さんが腕をエンゼキャットの方へ差し伸ばすと、人形達はそれぞれが勢い良く飛びかかって行く。すごいな、道山さんの意思で動くのか。
先ずは赤犬の人形が耳の部分に噛み付く。嫌がるエンゼキャットがバタつかせる手足を青熊人形が押さえ込む。無防備になった所を緑の鳥の人形が突っつき回る……見事なコンビネーションだが……。
「嫌がってはいるけど……あれ倒せるんですかね?」
「多分、いつかは……多分ね」
火力足りなさそうだなぁ。正直まだ初めたばかりの低レベルだと言う事もあるが、それにしても全く効いている様子がない。
隣の御薬袋さんも初心者ながらこの事態にはお気づきの様で、先程とは違う遠い目をしてらっしゃる。
「で、では、僕も!」
ここで動いたのは鳥野内君。ただこの時、俺は何を見ているのか理解出来なかった。鳥野内君は、上半身の初期装備の革鎧を外し、インナーの簡素な肌着を脱ぎ捨てる。更には先程購入した緑のマフラーを投げ捨てて、上裸になったらお次は足元、靴と靴下を投げ捨てる。
このゲーム規制版、18歳以上版があってギリギリ男性は上裸になれる。女性は肌着まで、水着とかね。
やがて身軽になった鳥野内君は、ステップを刻み始める……なんだなんだ、心無しか周囲に後光が差している気が……。
雲海という場所が場所であるからして、本当に何やら降りてきている様なキレッキレのダンス。軽やかにステップし、かと思えば地面スレスレまで体を畳み込む。ちょっとダンスの良し悪しは分からないが、多分上手い部類なのだと思う。
BGMは無い。無音のダンスなど見たことは無かったが、予想外に見入ってしまう。知らず知らずに流れていないリズムを足で取ってしまう。
「すごいな……ちょっとネタかと思ってた」
「ですね……あ、見てください、クマちゃん達が発光してますよ!」
ほんとだ。ダンスの方に意識が向いていて気づくのが遅れたが、人形達が淡く発光している。メリ、メリメリと肉がはち切れそうな音を微かにさせ、2回りほど大きくなった。ムチィとかミシィみたいな効果音が聞こえる気がする。
「……マッチョアニマルズ」
「可愛い……くないです」
ブゥ垂れた御薬袋さんを他所に、アニマルズは見た目通り強化されたようで、見る間にエンゼキャットを蹂躙して行く。赤犬は耳をちぎり取り、青熊は掴んでいた両腕を破り捨てる。そして最後に背後から緑の鳥が胴体を突き刺してエンゼキャットは虹のエフェクトとなり散って行った……南無三。
「…………うわぁ」
「…………」
御薬袋さんに至っては言葉もないようで、変貌を遂げた推しに複雑なようだ。変貌で思い出したけど、道山さんも変貌を遂げている。見ないようにしていたけど、認知してしまった。
あの人形達と同じように、ムキムキマッチョになった大天使チェリさん……マッチョ人形術師の誕生である。というかあの大天使顔であの身体は反則ですよ、マジで。
向こうでは道山さんを中心に、鳥野内君とアニマルパペット達が取り囲み、ハイタッチしている。どうやら鳥野内君の踊りによるバフだったようで、彼だけは元の体のままだった。
そして落ち着いたのか、のし、のしと地面が揺れるような感覚を携えながら、二人と3体は此方に向かってくる……ひいぃ。
「おーい、見てたー⁉︎」
手をブンブン振りながら此方に来る大マッチョ天使、心無しかブンブンが擬音じゃなくて本当に風を切る音が聞こえる気がする。しかし、元から目立つ四人だったけども、大マッチョ天使に、半裸の汗だく美男子が発生した事でかなりカオスになりつつあるな。
「見てたよ、すごいね……色々と」
「そうでしょう!僕も長いことこのゲームやってましたけど、かなり面白いですよね!」
お、おうそうだな、でもランナーズハイなのかキャラ変わってるよ!大丈夫?まぁ楽しそうなので良しとします。
それに確かに鳥野内君の言う通り、かなり面白いギフトを二人は受け取ったみたいだ、組み合わせも抜群だしね。パペッターと鳥野内君の踊りによるバフ、後は……
「思ったんだけど、チェリさんはパペッター操りながら演奏は難しいの?」
実現可能ならバフの重ねがけが出来て、より強くなれる……いやまぁ、あのパペット達の様子ならもう必要ないか?
「や、ちょっとね、頭が追いつかないというか……私マルチに考えるのダメで」
「成る程ね……ところでそれ、戻るの?」
ここまで戻って来て少し経つがパペット達と道山さんはまだムキムキのままだ。もしやずっとこのままでは?と冷や冷やし出していたのだが、心配はご無用のようで。
こうだよ!という掛け声と共にぷしゅーと、空気が抜けるような音共に全員萎んで、というか元のサイズに戻っていく。安心と信頼の大天使チェリさんの再誕である。
「あぁぁぁ良かった〜、チェリさんもう戻らないのかと思ったんだから!」
「えへへ、びっくりしたでしょ。鳥野内君のスキルなんだけど、かけられた人達のタイミングで解けるんだー」
ほう、それもまた珍しい、そういうスキルもあるんだなぁ。
「あのダンスは……事前に聞いていた【祈祷】なの?」
鳥野内君から事前に聞いたざっくり説明では、大自然の精霊神仏と心を通わせ、皆に恩恵を与える事ができる……というなんとも、胡散臭い宗教のようなものだった。
「そ、そうです。……こ、このギフトのせいか、せ、せ、精霊とか、普通に、見えます」
あ、ハイモードは終わったんですね。元の鳥野内君の話し方に戻ってらっしゃる。それにしても精霊か、非常にファンタジーというかやはり居たのか、という感じだ。魔法やアイテムなんかのフレーバーテキストに、そういう存在がいるとは書いてあったしね。
「今も見える?」
「はい。皆さんの、あ、足元をぐるぐる……あ、な、なんか、火の玉?明るい黄色の色した、そんな子達が」
なんそれ可愛い。というか別に祈祷踊子じゃなくても干渉はされてるんだ。あのダンスで仲良くなってー、みたいな感じなのかな。
「それにしても、キレッキレでしたね。何かダンスとか習っていたんですか?」
すっかり元のサイズに戻ったネフィリムな道山さんを胸元でよしよし、エルフお姉さんこと御薬袋さん。なんだこれ、尊いかよ。
「い、いや、何も。ちょっと補正とか、か、かな⁉︎」
あー、あるかもな、俺のパパラッチの三半規管補正然り。転がってたダイアモンドの原石的な才能でも無ければ、そんな急にこんな動きは出来ないだろうしね。
「えー、でもこれでやってもらうの2回目だけど凄かったよ?プロ目指せるって!」
「そうですよ、その辺のストリートダンサーなんかよりよっぽど魅入っちゃいました」
「そ、そうですかね⁉︎」
満更でも無さそうだ。これで彼がダンサーやらパフォーマーなんかになったら、語彙力に欠けるが、とても素晴らしいと思う。ゲームに限った話ではないが、なんて事ない日常のワンシーンが、人生の転換点になったりするわけだ。その現場に居合せたとなれば、感慨深いものもある。
まぁ俺達自身が正に転換点中でもあるけどね、転職したばかりでもあるし。
「次、はなださんですよー」
お、ついに出番です。
◆
雲の海なのでジャリっとは鳴らないが、足に力を込め踏ん張る。いや本当に?雲の上って踏ん張れないって、普通。あ、ファンタジーか。
相対するは先程のムキムキ猫のレア種【エクスエンゼキャット】。そう、魔眼を使って大人気なくちょっと探し回りましたよ、レアモンスター。いやだって折角の見せ場なんだからいいカッコしたくて。
通常種と同じく、威嚇こそすれど直ぐには襲いかかってこないので、遠慮なくシャッター。ちゃんと撮影した画面には【エクスエンゼキャット】の名前が浮かび上がり、脳内ではDEX+1されたことが伝わってくる。因みに先程のムキムキ通常猫と、目雲くんは反応しませんでした、後この雲海自体も反応なし。
やはり珍しいもの、だな。やり込めという事だろう、任せておきなさい。趣味が仕事に変わったんだ、やったりますよ!
さて、ギャラリーもお待ちかねだし、戦闘開始と致します。どう攻めるか……パパラッチの地味なスキルを最大限魅せようじゃないか。
武器を構える。今回は錬金で出来た【一角兎の短剣】を使用する。ダガーより少し長く、片手剣類よりはやや小さい。
右手に携え、先ずは真っ直ぐ切りかかる。先程の通常種の動きを見て、猫特有の縦横無尽な動きは中々に厄介なのは把握済みだ。変に相手ペースになると不味いので、相手に攻撃を【避けさせる】。当たらないのではなく、敢えて避けさせるのがミソだ。
俺の切りかかりを素早く左に避けたエクスエンゼキャットは、カウンターの一撃を放つ。ガラ空きの左首元を狙った噛みつきだ、殺意高いじゃないか。
それでは初お披露目のパパラッチのスキル……いくぜ!
「フラッシュレイ!」
直後、短い範囲だが直視出来ない程の光が俺の身体から溢れ出す。【フラッシュレイ】……要は大陽○みたいなもんで、目眩しの一環だね。ダメージなんてあるわけは無いし、目が無い種類のモンスターなんかには無力。
だが結果上々。突然の強光に動きを止めて目が眩み、頭を振り回すエクスエンゼキャットちゃん。俺はというと、切りかかり後の踏み込んだ足にグッと力を込めてイメージ……では怖いので。
「レールスライドォォ!」
しっかり叫んで【レールスライド】を発動させる。行き先は直上、必勝パターンになりつつあるね。物理演算感謝感謝と思いつつ、このまま外したりしたら雲割って落ちないか心配だな。
レールスライドの効果が発現し終わり、3.4メートル程真上で急停止する、のは前回の発動で分かっていたのでその勢いと、漲る腹筋に力を込めて反転。真下に敵を見る、我ながら良い位置だ。
ニッグの時の様にそのまま自然落下し始めるが、ここはもう一手間。あの時とは理解度が違うのですよ。
「ナイトスマァァッシュ!!」
理解度は違うけど心配だから叫ぶよ。叫ぶと同時にスキルが発動、突き刺さるように支えていた短剣の刀身が真っ黒に染まる。
【ナイトスマッシュ】もパパラッチのスキルの一つ。【盲目状態】、【スニーク下】に於いて攻撃の威力が3倍になる。なんかパパラッチとか言うより仕事人な気がして来た。
もちろん、狙い通りエクスエンゼキャットの脳天に命中。すぱぁっと短剣は下まで突き抜け、文字通り切り裂いた、二つに。虹のエフェクトが舞う。
……ふぅ、やったぜ。まさか一撃とは。きちんと行動を予測、辿れて良かった。魔眼で片目を封じてる以上、そこから逸れられると今の状態では対応出来なかったかもしれない。
______
称号【レアハンター】を獲得。レアドロップ率が2%上昇します。
______
お、副産物もゲット。この称号は元のアカウントでもあったね、探せばいるからねー、レアモンスターって。
更に今回のドロップアイテムも回収ー。お、流石レア、良いもん持ってますなぁ。モンスター素材の【天上猫の鋭爪】に、これこれ!【雲上石】!天界のモンスターが極稀に落とす鉱石。なんでも大体のモンスターが雲を摂取するので、体内で結晶化してエネルギー源になっているとかいないとか(bye考察班)
いいですねー、実にいい仕事してます。うっほ。
俺が色々成果を噛み締めながら戻ると、皆様待ち侘びたようで遅いですよとお叱りを受けました。あらまぁ。
「全く、にやにやしすぎですよー」
「いや、レア素材が取れたんでね。後でまた錬金見てみよう」
序盤でこれはニヤケが止まらんですな。やはり恩恵が判り難い初見ギフトより、こういう目に見えたレア物の方が心に響く。
「そ、それにしても、す、すごかったですよ!空中であんな」
「前もしてましたね、あれ。そんなに凄いんですか?」
前も、と自分で言って初デスを思い出したのか、苦い顔をする御薬袋さん。その節はごめんなさい。
華やかじゃないからかダンス程褒めてくれない女性陣に比べて、VRゲームを嗜む鳥野内君は異常性をわかってくれたようだ。
「まぁ普通は多分出来ないかも。もっと激しい動きを無理にしようとしたら、脳が酔ってログアウトするかもだし。少なくとも前のアカウントの俺では無理です」
「はぁー、私も飛べるようになるのかなー」
パタパタと背中の羽を動かす道山さん……え、それ動くの⁉︎可愛い⁉︎じゃなくて、飛ぶというか無理矢理真上に移動しただけだからなぁ、飛べないと予想してる。
「途中なんかちょっと光ってましたよね、あれは?」
「フラッシュレイってスキル、目眩しだよ」
そうか、ちょっと離れたところから見ているとそんな強い光に見えないのか。そりゃあ急に俺がちょっと光ったら……面白いな。
「な、成る程。そ、そ、それで動きを止めて……でも、い、一撃でいけるものなんで、です?」
いい質問だ、ワトソン君。
「落下速度と、これまたギフトに入ってたナイトスマッシュって言う威力増強スキルを足したら、ああなったよ」
「「「はぁ〜」」」
まぁ、ですよね。俺も多分側から見てたらはぁ〜だわ。
「兎に角、俺のパパラッチはこんな感じ、軽業師というか暗殺者みたいよね。という事で!次は、いざ錬金タイム」
◆
更に移動して雲海の外れにある【ムルテン雲海西部】のセーフゾーンに来ました。
好戦的では無いとはいえ、流石に普通にモンスターが彷徨く中で呑気に錬金は無理ですし。
「じゃあ、スキルの概要は移動しながら説明した感じです。今回はさっき取れた素材で試してみますね」
と、御薬袋さんがウィンドウを開いたので皆後ろに周り一緒に見る。どれどれ……成る程。
結果が分かっているのは【天上猫の鋭穀】、【白雲】の2種。先述は鳥野内君が持つ初期武器のフレイルにドロップした鋭爪を錬金したもの。後述は俺が持つ雪の剣に雲上石を錬金したもの。
「結果判明はこれですが……どちらもはなださんの素材なので」
「やろう、鳥野内君もいい?」
「ぼ、僕は願ったり叶ったりです、けど」
言いたい事は分かる。なんて言うか、遠慮しちゃうよね、普通。
「良いんだよ、使うときに使わないと腐らせちゃうし。それにまぁ、これからよろしくって事で」
賄賂的なんじゃ無いよ?年齢とか仕事とか抜きにしても、一緒にやって行きたいと思ったからね。それは伝わったようで、他二人からもやったね、と促してもらえた。
というわけで一旦俺と鳥野内君からアイテムを御薬袋さんに渡し、錬金を開始する。
道山さんと鳥野内君は初めて見る錬金時の光に驚いていたけど、人気のないセーフゾーンに移動したのも納得して貰えたようだ。
「じゃじゃーん、はい、どうぞ」
ポポンと御薬袋さんからメッセージ、添付された【白雲】を早速装備する。前の雪の剣も刃から柄まで真っ白だったが、より洗練された純度の高い白。そして前は無かった流線型の模様が雲海を思わせる。
勿論、ステータスも向上しているし、なんなら特殊効果もあるようだ。【クラウドインベントリ】、刀身を一つ限りのインベントリとし、あらゆるものを内包する。一定時間で再度放出しなかった場合、武器の耐久値は0となる、ね。いいスキルだ。
そして鳥野内君の手には初期の鉄製フレイルの先、鉄でできた棒部分の先に、所謂穀物と言われるスパイクの様な鈍器が付いた部分。
そこにさっき取得した、爪素材が加工されて、より攻撃力を増している新しいフレイル。
「お、おぉー……あ、あ、ありがとうございます、お二人とも」
ブンブン素振りしながら晴れやかな笑顔を見せているが、どうも邪悪感が増してる気がする。鬼に金棒というか祈祷師に拷問器具、的な。
鳥野内君のは片手で使う物より少し長い、フットマンズフレイルという両手持ちタイプ。ちなみに片手のはホースマンズフレイルという、由来は知らん。何回か使った事はあるけど、クセが強くて王道武器が好きな俺はちょっと苦手だった。
俺が使うと先っちょの穀物と呼ばれる部分が、振り回す度に自分に当たって痛い痛い。あれを昔の人は馬上でも振り回していたってんだから、凄すぎるぜ。
「後は……ランダムですかねー、レア度2の確定なら何個か行けそうだから試してみますね」
残った素材で数回錬金。あんま良く考えて無かったけど、普通にクエストやら正規での武器防具なんかの強化やらを考えると、少しは素材を残しといたほうがいいのかもしれない。なんか貯金出来ない人みたいになってるよね。
そうこうしてると、ハズレというか、ポーションやちょっと派生した素材類が数個、そしてクリーム色のイヤリングが2セット錬金されていた。
「お、装備が出来ましたよ!……【雲獣の耳飾り】。特に効果は無さそうですが、DEXとVITが少しずつ上がりますね」
「やったじゃん、お揃いにしなよ」
「「え?」」
え?この流れだと女性お二人で着けるのでは?俺も鳥野内君も先に貰ってしまっているし、わざわざねだろうとも思っていなかった。鳥野内君もうんうんと頷いている。
「お揃いか〜、照れますなぁ。ありがとうね、まっ白ちゃん!」
「やったね、チェリさん!」
るんるんと、お互い耳に装着して見せ合っているお二人。仲良き美女はかくも良きものかな。
「じゃー、今日はこんなもんかな。結構時間経ったしね」
大体現実で4時間くらいかな、経っている。ちょっと早い気もするが、体感は半日なので働いた感は十分だ。たまには早上がりしたって悪くは無いだろう。
「そ、そ、そうですね。い、色々、あ、ありがとうございました」
「本当、まっ白ちゃん居なかったらどうなってたか……また困ったらお願いします」
当然、と俺達は答える。呪胎の解除の仕方がわからない以上、しばらくはNPCからの買い物が必要な時はお呼びがかかるだろう。それに関しては俺も頭が上がらないね。
「では、最後に一つ!」
ちょっと小慣れてきたもんで、さっとカメラの自撮りモードを取り出して、三人を引き寄せる。カシャっとシャッターハイチーズ!
御薬袋さんは慌ててるし、道山さんは驚いた拍子に目をつぶっているし、鳥野内君は転びそうになっていて、俺だけが笑顔だがこれでいい。
特別レアな物や場所も写ってないし、俺達もあんまり成長してないからステータスアップはしなかったけど、俺にとって意味のある、最高の再スタートの一枚になった。
もうきっと大丈夫さ、この先には皆がいてるんだ。
ちょっと前回のお話の間を書きたくて、おまけで書いてたら思わぬ量に。
ちなみに、すぐ倒れたエクスエンゼキャットちゃんは、縦横無尽な機動に、尻尾から毛を針状にして飛ばしたりと本来なら初心者キラーなのです。




