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運命の記念写真③

今回、主人公のトラウマに少し触れます。

余り直接的な表現はしませんが、苦手な方はご容赦ください。

結局、皆に打ち明けることにした。つい2年前も人間関係のトラブルから、とても勤められる状況ではなくなり、あの怠惰な生活に落ちぶれていた。そのきっかけも、隠し事を暴いてしまって……というものだったのだ。


今回のパパラッチの機能というかバフの事も、今【隠して】後から【バレた】らきっと皆も不信感を抱くだろう。俺ならそう思う。だったら、今は皆と仲良く仕事をしたいと思えているし、初めから話して、もしそれでダメなら仕方ないかな。


「皆も見えた……よね?文字」


見えた、と全会一致。やっぱり、他プレイヤーにもこの表記は見える。ちなみに表記は写真をウィンドウに映し出してしばらくのみ、浮かび上がる。しばらくすると自動で消えるが、また再度ファイルからウィンドウに映し出すとまた浮かぶ。


便利なような、単純に写真を眺めようと思っても毎回浮かび上がって見辛いような……俺は短気だから後者かな。


「それで、詳しい振り分けはわからないけども……撮った写真に写っている人物のレアなスキルやアイテムを表記して、撮れた内容によって俺のステータスにバフが付く、みたい」


「「「…………」」」


またしばらく沈黙。というか女性陣はちょっとバフって?みたいな顔をしていらっしゃる。そうか、ちょっとわかりづらかったかなー。


「え、えぇ⁉︎え、あ、じゃあ今の写真は、ど、どれくらい反映されたんですか?」


「えー……割り振りは勝手にされるみたいだけど。AGI+2 VIT+3 LUK+4 ATK+1ってなってるね」


うわ、露骨にドン引き、みたいな顔しないでよ鳥野内君!そりゃ俺もそう思うよ?各ステータスに言える事だが、【+1】の差はかなり大きい。単純に装備出来るものが増えたりするだけでなく、プレイに関する全てに影響するだろう。移動が速くなったりね。


それが、どこまで反応するかはわからないけれども!けれども、他人の物やスキルですら判定してくれるときた。これはもう、ちょっとニッグに追いかけられるのもさもありなんだわ。


「ちょっとよくわからないんだけど……写真を撮ったらはなだくんは強くなるって事ですか?」


「あー、まぁ写真に指定の物が写ったら、かなぁ?ちょっとまだ確かじゃないけど、イメージそんな感じ」


「超すごい‼︎超すごいよ‼︎」


美幼女大天使こと道山さんは自分の事のようにぴょんぴょんし、エルフ姉さんこと御薬袋さんは感嘆の息を吐く。


「は、はなださん!ちょっと、確認しておきたい事が」


負けないよう、今日一な声を上げた鳥野内君からご質問が。


「どうしたの?」


「いや、ちょっと……これは、こ、公表、というか他のプレイヤーには、な、内緒の方が……」


「もちろん」


それはもう、もちろんさ!どゆこと?なお二人がいるので、自分で補足説明することにする。


「女性陣、まっ白さんの【錬金術師】然り、俺達のギフトは基本的に普通のプレイヤーからしたら、ぶっ飛んだスキルになります。これを公表すると……?」


「えー、なんだろ。羨ましい、とか?」


「まぁ正解。そこから他のプレイヤーに追っかけ回されたり、利用されたり、後は晒されたりとかね。良いことなんかないわけですよ」


今までだって、このゲーム内外問わず、そういう事は沢山あった。自分が時の人、になった事はないけれど、なってしまった奴は余程上手く立ち回らない限りは、そのゲームを普通に楽しむ事は難しいだろう。


「じゃあ……どうしてはなだくんは私達に教えてくれたの?……はっ!まさか、このまま消され」


「ません!ほら……なんていうかさ…………だょ」


がぁぁぁ、顔が、顔が火照る!なんでこのゲームこんな感情からの体温調節なんて機能あるんだよ!擬似発汗機能まで搭載されてらぁ。


だが、俺の羞恥虚しく三人共聞き取れなかったようで、もう一回、と指を立ててくる。


「……皆に隠し事するの、嫌だなー……と」


「え、かわいい」


おい、今素だったぞ鳥野内君!てか、可愛くはないだろ、中身俺だから!より恥ずかしさを増してプルプル震えていたら、きゃーと女性陣は抱き寄せてくる。


「ダメですよー、こんなに可愛くちゃ!あー、妹感がすごいです」


「わかりみ、わかりみだよまっ白ちゃん!私達をそんなに思ってくれてたんだねー」


や、やめなさい君達!と、鳥野内君助けて‼︎


手を伸ばすも流石に女性三人の中に割って入るわけにも行かない、というか例え男三人だとしても彼は無理かもしれない……おっぷ、男三人で想像したらクるものがあるな。


「と、とにかく!他のプレイヤーには内緒で!」


「「もちろん!」」


小さく、後ろからはい……とも聞こえた。


ミューゼスの雲海は今日も変わらず流れ続けている。他にも沢山変わらないことは有るけれど、今日頑張って変えた一つは、何か良い事に結びつけば良いなと思う。


ずっと蟠っていた曇った感情が、少し晴れた気がする。効果的にはチリも積もれば、のチリであろうこの一枚の記念写真は、俺にとって忘れられない、人としての再スタートのきっかけとなった。


◆


ふわふわする……足元じゃなく全身が。何かの水に揺蕩うように浮かんでは沈んで繰り返す。ちゃぷちゃぷふわふわ。


辺りは何にもない。真っ暗闇に身体の周りに広がり続ける波紋と、俺の身体だけがやけにはっきり見える。


ちゃぷちゃぷふわふわ。当てもないので、こういう時は真っ直ぐしか無いだろうと、ひたすらに直進する……進めているのかは分かりにくい。多分進んでる。


そして後悔する。鈍い光が見える。不味い。

あの声が聞こえてくる。不味い。


そして案の定あの部屋にたどり着く。一時期は親の顔よりみた給湯室。無骨な灰色とクリーム色が混ざった壁紙に、良くある冷蔵庫、コンロが一つ付いたキッチン。


響くのは嬌声。俺は聞いた事が無いけど、有る。それともう一つ、低く不快な、荒い息。昔好きで、こんな風になりたいと憧れた、今ではもう、不快な声。


あぁ、戻れ。どうにかして元の場所に戻れと身体を捻ろうとするが、漂うばかりで逆に部屋に部屋にと進んでいる。


やがてこの嫌煙時代には珍しいタバコの匂いと、アルコール、饐えた匂い。やめろ、嗅ぐな。見るな。聞くな。


愛と、嘲笑と、よく分からない言葉を、聞かせてくる。聞いてしまう。見てはいけない、聞いてはいけない。身体は動かない、あの時と同じ。


視線は一点で固定されている。ドアには手をかけたまま。ギリギリ部屋の一角が見えるくらいの隙間が空いている。ダメだ。


足、綺麗な足なんだ、汚いと思ってしまった、何も纏っていない足だ。ダメだ見るな、視線を上げるな。立ち去れ。


視線は、自動で上がる。俺の意思など初めから考慮されておらず、慈悲もない。何処から?初めから。


声と声は絡まる。触れる。絡まる。俺は、絡まらない。あの時、初めてしたのは羽のような、軽さのもの。目の前では泥のような、重く深い……ダメだ。


思い出す。何度目だ、この光景。嫌になるほど見た。思い出すが、俺の意思は関係ない。視線が上がる。


慣れ親しんだ愛しい瞳。少し細めで、綺麗な二重。時折大きく開くととても可愛かった。視線が、交わる。勿論、俺とじゃない。


身体が、強ばる。ドアが開く。俺が開けたのだ。俺の意思ではないが。過去の自分。


ドアを開けると更に濃くなる匂い、大きくなる音。その、正しかった、間違えた瞳と目が合う。


沈黙、憧れた男の荒い息だけが響く。


沈黙も束の間、嬌声が叫びに変わる。憧れは反転。身体は動かない、熱い、憎い。赤くなる。


【バレちゃったか……ごめんなぁ、そうちゃん】


憧れた声、感じていた慈しみなど無く、只々気持ちの悪い粘り気を纏わせて、俺を呼ぶ。


【もう……最悪!だから社内ではって……どうすんのよ】


【こうすんだよ】


慣れ親しんだ二人、まるで長年連れ添ったかのような会話。その毒は、矛は俺に向いている。俺が彼等の敵なのだ。


知ってる、身体は動かない。が、身体は頬に熱さ、痛みを感じ、吹き飛ぶ。遅れて男に殴られたと理解した。


そのまま、乱れたものを整えると、動かない敵に馬乗りになる。右左、リズム良く、殴る殴る。


【ほら、美耶、叫んで叫んで】


【なるほど……ごめんね、そうちゃん】


響く彼女の助けを求める声。俺の頬が鳴らす音。あぁ、もう、もういい加減にしてくれ。


バタバタと、遠くから人の足音。この後、俺は……


【さ、させません、よ!】


弱々しく、か細い。緑の声。他の足音は近づけない。


【良く頑張りましたね】


泣きそうな、白い声。包まれて、温かい。


【さぁ、任せて任せて〜】


弾む、赤とオレンジの声。憧れを、吹き飛ばす。


あぁ、あったかい。

やっと……見つけた。


しがみついても、いいのかな。


◆


真夜中、目が覚めた。時計を見れば2時半過ぎのようだ。喉がカラカラ、汗びっしょりなのでとりあえず冷蔵庫……は近寄りがたいので、シャワーを浴びる。


温かいお湯を頭から浴びる。子供の頃からそうだったけど、お風呂やシャワーがとにかく好きだ。この、全身あったかい感覚が堪らない。


ふと、先程の夢を思い出す。何度も見た、忘れられない悪夢。元は現実。最近は見る頻度が減っていたが、かなりの回数、繰り返し見ていた。その度に疲労困憊、偶に堪えられなくなり吐き戻す事もあった。


だが、今日は少し様子が違う。確かにうなされてはいたのだろうけれど、微かに覚えている温かい感覚。頼もしい声達……すごい感化され易いなぁ俺。


記念撮影の時、ちょっと涙腺に来ていたのは秘密だ。あのゲーム涙も判定するからなぁ、ゲームだからバレないとかは無い。


あの時、一歩踏み出せていて本当に良かったと思う。自分でも何故なのかはわからないが隣に居たかった。普段なら即秘密にしてソロプレイしてるところだったんだけどな。


記念撮影が終わり、近くの初心者向けマップで道山さんの楽武お披露目会もした。その後は俺のパパラッチの件もあったからか、皆のギフトお披露目会も有り、色々と時間を食ったので解散したのだ。



身体を拭き、寝巻きに着替える。さっきのは汗だくだから洗濯カゴに突っ込む。洗濯は週2回、休みの時にする事にした。御薬袋さんとはとりあえず、水曜日と土曜日に休もうと決めてある。時折イベントとかあれば変わるけどね。


そう、明日は働き始めて初のおやすみの日。だから夜中に悪夢で起こされたとしても、ちょっと余裕だ。


「さて……どうしよっかな」


テレビを点けるとあまり見ない深夜番組が流れている。格式あるお家の家長が初フルダイブに挑戦⁉︎みたいな密着番組だ。よくわからない。


テレビは最近あんま見てなかったなぁ。テレビ使用の用途と言えばレトロなゲーム機を使用する時くらいで、俺を含めて一般的な人は大体プロジェクターを買って、動画サービスやらを投影している。テレビが廃れ出した片鱗は、動画サービスが流行り出した頃か。


今では視聴率が3%越えれば今年度最多視聴率になったりする。さっきの謎企画も苦し紛れの物だろうか。


ノスタルジーは感じるが、別に興味は無いので程々にして電源を消す。自分以外、無音の空間。耳をすませば冷蔵庫の音や、時計の音が嫌でも耳に付く。


静かになると、夢の原因である女が嫌でも頭によぎる。今回は皆が庇ってくれたような気はするが、現実はそう容易く救世主が来るわけもなかった。


俺が働いた友人の会社にいた先輩で、品行方正才色兼備、おまけに俺の生まれて初めての彼女だった。


今でも情けなくなってくるし、怒りも燃え上がるが……何より人が、女性が兎に角恐ろしくなる。結局初めから騙されていたんだ、俺も当時の同僚の皆も。その皆は今だって……。


浮気現場、というか最早浮気ですらなく向こうが元から本命で、俺が騙されていただけなのだが、出くわした俺は逆に襲われそうになったと槍玉に挙げられることになり、退職した。


友人の会社だったから友人からもそんな奴だと思わなかったと、半ば絶縁され、その前に務めていたブラック企業のダメージも有り、当時の憔悴振りはヤバかったようだ。自分では覚えておらず、様子を見に来ていた母から聞いた事だ。


あー、やめだやめだ!落ち込み中止‼︎今の俺にはやる事あるだろう。我ながら単純だが、少しは信頼出来そうな人達とも仕事出来ているし、マシになったさ!


鬱屈した気持ちを忘れようと、休日だし冷蔵庫からキンキンに冷えたビールを取り出してガブ飲みする。くぅぅ〜、キンッキンに冷えてやがるぅ。


「やってやんよ、今度こそ!」


ちょっと痛いかもだが、一人声高に宣言する。誰も聞いてない宣言は、しっかり俺に浸透する。やるぞ!明日休みだけど!


真夜中の筈の俺の部屋は微かに熱量を上げ、やがてその熱量を拡散していく事になる。


頭の中の角栓が、すっかり取れたような、晴れやかな感覚。早く仕事に行きたいなんて、いつ振りの気持ちだろうか。

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[一言] 元のアバターではゲームしないんだ?
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