第九話
「…それは…」
答えに困る。どうしたら。
「それは?」男は俺の返答を促した。
答えられない。
そう、言うしかなかった。
「…黙秘で」
俺は、さっきからずっと逃げている。
"黙秘"と言う言葉で。
身を守るだけのつもりが、自分の全てを、自分自身からですらも隠しているようで。
俺は、一体、
「一体…何を考えているんだろう」
よく、分からない。自分でも。
「…どうした?」
男にそう言われ、初めて俺は呟いていたことに気付いた。
「…いや…」そして俺は、また誤魔化す。「…何でもない」
「…そうか。なら良いんだ」男は言った。「ただ、理由があるのかと」
「…理由?」「此処ら辺は皆、ホームレスが集まる土地で有名だからな」
ホーム、レス?
「知らな…かった」
「だろうな。一般人の来る所じゃねぇよ、追いはぎにでも遭ったらどうする」
そう言ってから、男はバツの悪そうな顔をした。
「…って、今の俺達こそ、まさしくそうだがな」
ホームレス、か。
成る程ね。
「だから、俺の財布が気になったのか」「まぁ、そんな所だ」
しかし顔つきは鋭くなり、
「それ以外にも、理由はあったが」
そう言った。
「これが、最後の質問だ」
時と場合によっては、これが"最期"の質問にもなり得る。
「お前…帰る場所はあるのか?」
その問いが、俺を今まで引き留めていた何かから解放されるきっかけとなった。
その瞬間、俺は、泣き出した。
多分、せき止められていた何かが崩れたんだと思う。
俺はどうすることも出来ずに、ただ、溢れ出て止まらない涙を流し続けた。
もう、黙秘なんて、
…強がりは嫌だ。
「…あ、ありま…せん…」
やっとの思いで、答えた。
もし、此処で殺されるのなら、最後に取り乱すような真似をして気恥ずかしい。
けど、俺は逃げなかった。
初めて、自分の人生に、正面から向き合った。
だから、多分、このままで良い。
そう思っていた。
そんな俺に、その言葉はかけられた。
「質問は以上だ。結果…お前を生かすことにする」
その言葉をきっかけに、後ろの男は金属バットを離して俺の自由を縛る縄を解き始めた。
…今までずっと、バット持ってたのかよ。なんて、ツッコむ余裕すらなかった。
男は笑いながら、こんなことを言い出したから。
「俺達と一緒に…暮らさないか」
…一人で逃げてばかりの自分に、新しい居場所が出来た。




