第十話
…で、どうしたことだろう。
俺は、その男の言葉に肯定すべきかどうか迷っていた。
確かに、一緒に生活出来る人達が居るのは心強い。
それも、五十人近くいる仲間達だ。
…だが、迷惑はかけられない。
俺は犯罪者だ。
しかも、逃亡中の。
他の皆には、迷惑はかけられない。
…どうしたことか。
俺は頭を抱えた。
かと言って…今、この誘いを断っても、俺の居場所なんてない。
だから、だから…。
「しばらくの間、お世話になります」
しばらくの間。
俺は、予防線を引いていた。
一時、心を許して泣いた俺だが…落ち着いてしまえば、また元通りなのだ。
元通り、臆病な男のまま。
「もし、迷惑がかかりそうなら…俺は黙って、此処を出て行くつもりです」
「…他に行くあても、ないのに…か?」男は聞いた。先程、俺の頭にティッシュを乗せた男だ。
…あ。傷口、やっぱりカスだらけになっていた。
「例えなかったとしても。皆さんに…迷惑はかけられない」
少し離れた所で、俺を殴った男がバットに付いた血を拭いていた。
水で濡らしたら、錆びるのだろうか。
「…そうか。まぁ、好きにすれば良い」
男は答える。
「元々、訳ありな人間の集まりだ。気にしない。ただ…出て行く時は、一言頼む。考えたくはないが、もし仲間を拉致されていたとしたら…俺はリーダー(仮)として、皆に顔向け出来ない」成る程…この人もちゃんと、仲間のことを考えているんだ。って、
「リーダー(仮)って、どう言うことですか?」
「んー、そのまんまさ。もし俺が死んだら、リーダーじゃなくなるんでな」「それ、何十年後の話ですか…」俺は呆れた。
「いや、そう遠い未来でもないさ」リーダー(仮)は言う。「ホームレスなんて、安定しない生活のままじゃ…明日だって、生きられないかもしれない」
嫌に、現実味を帯びた言葉。
少し前までの俺なら、"ふーん、そっか"で終わる気がした。
だが、今は違う。
ホームレス、に。
多分、自分自身が片足を突っ込んでいるからだ。
そして…きっと、両足を突っ込むことになる。
この身体は、いずれズブズブと──まるで底無し沼に身を投げ出したかのように、この生活に馴染んで行くのだろう。
一見、平穏そうに見える生活の中。
逃亡中の指名手配犯として、
あいつを殺した犯人として、
追われる立場だと言う、恐怖に怯えながら。




