第八話
「…俺を殺して、何になる?」
ぶつけたかった、問い。
絞まりそうな喉をフル稼働させてまで、言いたかった言葉。
──例えこれが、遺言となっても。
「俺一人殺したって、未来は大して変わらないが」
それは、まるで自分自身に言うかのように。
自然と紡がれた言葉であった。
──あいつ一人殺したって、未来は大して変わらない、と。
心の何処か片隅で、そう思っている自分がいるのだろうか。
「…どうかな」先頭の男は、俺の首を掴みながら言った。「お前の価値は、俺達が決める」
「俺の、価値?」思わず聞き返す。俺には価値なんて、あるのだろうか。
「そうだ」男は肯定する。「お前は生かした方が有益か、それとも…」
首を絞める手に、力が籠もる。
「…今、此処で殺した方が有益か」
くっ…どうかしてるぜ。
たかが俺一人の命で、無益も有益もあるのか。
たかが、人、一人の命で。
「で…」苦しくなって来た。「結果、は?」
「それは、俺が幾つか聞いてからだ」男は俺が答えやすいように、最低限まで手を緩めた。…流石に、離してはくれなかったが。
そして、俺への尋問ラッシュが始まった。
「名前は?」
「黙秘で」
「答えられないような事情が、何かあるのか?」
「それも、黙秘で」
「何も言わないと、分からないだろうが」
「…でも、黙秘で」
「黙ってばかりだと、不利になるぞ」
「それはありません。黙秘権は全ての人間に与えられた権利であり、決して侵害されるものではないと刑事さんが特番で話してました」
「お前は…そう言う能書きは答えるのな」
「プライベートはお断りです。聞きたいのなら、一般常識だけをどうぞ」
「…呼び名がないと、色々と面倒だろうが」
「じゃあ、斎藤さん(仮)はいかがでしょう?」
「何だよ、(仮)って」
「"仮名"って意味です」
「…そうか。じゃあ斎藤、」
「ちゃんと(仮)を付けて下さいね」
「いちいち、面倒臭い奴だな。まぁ…良いや。斎藤(仮)、お前に聞きたいことがある」
「何ですか?」
「お前は何処から来たんだ」
「…黙秘」
「仕事はどうした?今日は休みなのか?」
「黙秘ー」
「…ふざけるな」
「すいません。続けて下さい」
「続けたって、答えないだろうが…」
「そうですね」
「じゃあ逆に、何を答えられる?」
「一般常識と…その他色々」
「はしょり過ぎて分からん」
「そうですか(笑)」
「おい、何で笑ってるんだ」
「間違えました。正しくは"そうですか(仮)"です」
「何だよ、(仮)って」
「仮に、俺が"そうですね"って思ってると仮定して…」
「じゃあ、実際には思ってないのか」
「黙秘です」
「何でだよ!?」
…何だか、漫才ちっくになっているようだが。
相手の男はハァハァと肩で息をしている。
…いや、発情期じゃないよ?ただ、ツッコミが多いだけで。
「…取り敢えず、お前に聞きたいことがある…」
「はい、何でしょう」俺はこの問いに答えるのは何度目だろう、とか考えながら聞いた。
「…お前は何で、この土地にいる?」
それは。
黙秘云々(うんぬん)ではなく、まさしく俺の答えられない問いだった。




