第三話
一体、誰だ?
建物の陰になっているため、薄暗くてよく見えないが……。
まさか。
警察?
もう、此処まで追い付かれたのか。
やはり税金の無駄遣いではない。きっちりと仕事はしているのか。
仕方ない…此処で捕まる…
…訳には行かない。
俺は、周りを見渡した。
しかし細い路地は両側とも壁だ。逃げるための脇道もない。
引き返すか…振り返ると、向こうからも人々の気配。
──挟まれた。
悟った、捕まることを。
逃げなくては。
…分かっているのに、体は動かなくて。
両方向から近付いて来る姿なき敵は、まるで示し合わせたかのように、同時に目の前に現れた。
…不良?
いや、違う。かも、しれない。
鉄パイプやバットを引きずり、近付いてくる集団。それだけ見れば、不良に見えなくもない。
──って、
やばいな…この状況。
どうするか。どうするよ?
ってか、本当にどうすんの?
「おい」視界右側、先頭の男が話し掛ける。「有り金全部寄越せ」
「…どちら様、ですか」掠れた声を絞り出すように、言った。喉の渇きからか、恐怖からか。
見た所、不良とは違うようだが。武器は持っているし、数が数だ。これは…どうしたことだろう。
もしかすると、私服警官かもしれない。…にしては、ガラが悪過ぎるが…。
「お前に名乗る名など、ない」男は答える。「とにかく、財布を渡して貰おうか」
「…無理だな」俺は正直に言った。「訳あり、でな。財布はない」
財布は。
小銭はあるが…当てにならない程度。
しかも、それを取られたら生活出来ない。
「財布がない…だと?」男は問う。
「あぁ」…声が、出なくなってきた。
「馬鹿にするな。今の御時世、何処に手ぶらで出歩く奴がいる」苛立たしげに、男は金属バットをアスファルトに打ち付けた。ガギィン、と、嫌な音を響かせる。
「いるさ、此処に」強がりを言う。しかし、状況は良くない。細い路地裏で、逃げ道はない。左右を武装した?男達に囲まれている。
俺は周りをざっと見た。
感想。…多い。
何だこれは。二十人ずつ、計四十人と言った所か。まるで不良クラスを丸ごと路地に押し込んだようだ。
…何で俺は、こんなに冷静なんだろう。
強行手段に出た男達が、一斉に、金属製の物体を振りかざしていると言うのに。
何か、叫び声が聞こえる。だが、何と言っているのか分からない。
「やっちまえ!!」的な声かな。そんなことを考えながら、頭目掛けて振り下ろされるバットを見ていた。
…取り敢えず、腕でガードしましたよ。
でも、痛い。
腕の痛みに怯んだ隙に、二本目のバットが目前に迫る。
防ぎ切れない。
"ぐぁ…"枯れ切った喉からは、叫びにならない声が漏れた。
…走馬灯。
来ないじゃないか。
死なない、のか?
頭は割れる程、痛いのに。
ちら、と一瞬だけ、流れた映像は。
よりによって、殺した女の苦しげな表情だった。
何てこった…。
俺は罪から、逃れられないって訳か。
妙に納得しながら、俺は意識を失って倒れ込んだ。




