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こんな家族の姿があってもいいんじゃない?  作者: アーエル
第三章:慈善事業『白い花の箱』

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29-1 整いすぎた施設


 最初にその申請書を見たとき、セシリアは思わず感心しかけた。


 責任者の名、記録係の名、布の管理方法、代替人員、食事の最低手順。リディアが求めた項目はすべて埋められている。文字は整い、言葉遣いも丁寧で、支援品の保管場所まで図で示されていた。これほど準備が整った施設なら、白い花の箱を置いてもよいのではないか。そう思いかけて、セシリアは手を止めた。


「整いすぎています」


 隣で書類を確認していたエリアスが顔を上げた。


「不備がないのは、良いことではないのか」


「もちろん、不備がないこと自体は悪いことではありません。けれど、初めて申請する施設の書類に、困っていることが一つも書かれていないのです」


 セシリアは申請書の端を指で押さえた。整った筆跡、過不足のない項目、いかにも模範解答のような文面。だが、救貧院で見た記録はそうではなかった。布が足りない日があり、粥が出せない日があり、当番が倒れる日があった。現場の紙には、必ず小さな汚れや迷いが残る。


「リディア様は、守れないことを隠さない場所にだけ箱を置くべきだとおっしゃいました。この申請書には、守れなかった場合にどうするかは書かれています。けれど、守れなさそうな理由が一つもありません」


「人手は十分。布も十分。食材も十分。記録係も交代要員もいる。乾燥場所も清潔な保管庫もある。……それなら、なぜ今まで白い花の箱を必要としていなかったのでしょう」


 エリアスは黙って書類へ目を落とした。言われてみれば、そこには困窮する施設特有の切実さがない。助けを求める手紙というより、審査に通るための答案のようだった。


「救貧院の院長は、最初にできないことを教えてくださいました。人手が足りない、食材が足りない、だから全部は無理だと。その正直さがあったから、リディア様は簡略版を作られたのです。でも、この施設は最初から全部できると言っている。できすぎていて、こちらが工夫する余地も、記録から学ぶ余地もありません」


「つまり、箱を置きたいのではなく、箱を置いたという事実が欲しい可能性がある、ということか」


「はい。もちろん、私の考えすぎかもしれません。けれど、善意の顔をした罠は、いつもとても丁寧です。だからこそ、丁寧さだけで信じてはいけないのだと思います」


 その夜、セシリアは申請書の写しを前に、なかなか筆を取れずにいた。


 リディアに相談することは、もう珍しいことではない。けれど今回は、ただ「どうすればよいでしょう」と尋ねるだけでは足りない気がした。違和感を覚えたのは自分だ。その形を、自分の言葉で説明しなければならない。

 セシリアは深く息を吸い、羽ペンを取った。


『リディア様。白い花の箱の設置を希望する新しい施設から、申請書が届きました。責任者、記録係、布の管理、代替人員、食事の手順、すべてが整っています。書類だけを見れば、申し分ありません』


『ですが、私はそこに不安を覚えました。救貧院の最初の記録には、できないことが書かれていました。人手が足りない、布が足りない、粥を毎日は出せない。だからこそ、何を一つ増やせばよいのかが分かりました。今回の申請書には、できないことが一つもありません』


『もしかすると、本当に整った施設なのかもしれません。私の疑いすぎかもしれません。けれど、守れなかったことを隠さない場所にだけ箱を置く、というリディア様の言葉を思い出すと、この書類には『隠さない誠実さ』よりも、『申請に通るための整い方』があるように見えるのです』


『私は、この申請をすぐに受けるべきではないと思います。まず現地を見たいです。書類に書かれた責任者が本当に現場を知っているのか、記録係が失敗を書ける立場にあるのか、布の保管庫が使われている場所なのか。それを確かめたいのです』


 そこまで書いて、セシリアは手を止めた。これは相談であると同時に、自分の判断を差し出す手紙だった。間違っているかもしれない。それでも、何も感じなかったふりをして印を押す方が、今の彼女には怖かった。


『リディア様。私はまだ、あなたほど先を読めません。けれど、違和感を見なかったことにするのは違うと分かるようになりました。もし私の考えが甘ければ、どうか直してください。けれど、現地を見たいという気持ちは、今の私の答えです』


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