第4話
「あ、船長! おはようございます!」
「船長……! おはようございます、も〜いつも起きるの遅いっすよ〜。」
「おはよう、船長! 良い夢見れたかぁ?」
「船長〜! おはようございます! 麗しのアーティアが見えてきましたよ!」
「あぁもう……うるさいうるさい。総員、おはよう。後、アーティアはもう私にも見えてるからいちいち報告せんでよろし。……ったく、いつまで私が寝惚けてると思っているんだ。」
ウィスが呆れた口調でそう話そうとも、それに萎縮したり。過剰な反応を見せる乗組員はこの船に居ない。誰もがからからと楽しそうに笑い、大きく開かれた複数の黒い帆が風を受けて海面のように波打っている。
漆のように黒い甲板やマスト、何ならロープまで真っ黒だ。それもこれも、全てウィスの好みだが。
全く、いつになっても騒がしい連中ばっかりだ。
何も、騒がしいのはこの船の上だけではない。《夜煌の唄》がはしゃぐように安定した波が起こる海面を走る中、今彼らが居る湾の奥に港町が見える。
ヴェントゥス達が先程はしゃいでいた通り、花火が上がり、紙吹雪が待っているのが見える。中には……海軍達も気付いたのだろう。まるでこれから戦にでも行くのかと疑いたくなる程に綺麗に並べられた艦隊が大砲の砲口を空へ向け、祝砲として打ち上げている。
……全く。あいつらに聞いてみたいもんだな。我々が本当に海賊だって理解しているのかどうかを。
「グラディウス。」
「はい、船長。ここに。」
「甲板にある全ての砲身を上斜め45度に向けて空砲をあげろ。お前達だって、折角声掛けてるのに応答がなけりゃ寂しいだろ。」
「仰せのままに、船長。――野郎共、甲板にある全ての砲身を上斜め45度に向けて空砲を撃て!! 間違っても実弾を入れんじゃねぇぞ!!」
「ヴェントゥス。」
「はぁい船長!」
「海賊旗にもこの湾の空気を楽しませてやれ。仲間外れは寂しいだろ。」
「はぁい、船長! ――皆、船長の命令だ! 海賊旗を掲げろぉ!!」
結局、海賊ってのはこんな物だ。さっきまでの静けさと大人しさは何処へやら、ウィスが一度号令を出せば一気に甲板が騒がしくなる。――これぞ、海賊の醍醐味の1つだ。
そうこうしている間に青空を拝んだ甲板にある砲身達、砲口は全て空を軽く仰いで腹に響く良い音が溢れ返る。
……あぁ。鐘の音なんかよりずっと良い。
少し向こうに見えてきたアーティア港町やアーティア軍港。その他近隣街に至るまで、ウィス達の1年に渡る長い航海の間に襲われた様子はなさそうだ。
ぼんやりと、でも何処か安らいでいる様子で港一帯を眺めていたウィスだが……どうやら幾ら海を塞ぐ程の巨大なこの船でも、今日は妙に波が高い。転覆する可能性や横転する可能性はまるで心配する必要はないが、ウィスの重心を揺らがせるには十分だ。
そんな体を、傍に立つグラディウスと片手で舵輪を握る逞しいヴェントゥスの腕が支える。
……っとと。
「船長。」
「……すまん。少し、酔った。」
「今日は妙に波が高いですからね。上甲板にあるベンチにでも座っていましょう。」
「私は後部甲板でも良いんだが。」
「駄目です。」
「この船の主役は船長なんだからぁ、船長がそんな目立たない所に引っ込んじゃ駄目でしょ?」
「……あんまり目立つのは好きじゃないんだ。」
「今日1日は我慢してください。」
「はぁ…………。




