第3話
「ご馳走様。グラディウス、共に甲板へ。それとも何だ、軍港だからと私に化粧でも求めてくるのか?」
「いえ、船長がお化粧嫌いなのは重々承知しておりますので。……それに、海賊に必要なのは美しさではなく豪傑さでしょう。」
「それを聞けて安心した。」
扉のない枠組みの天井から垂れ下がる、じゃらじゃらと音を立てるカーテンを手で退けながらリビングへと足を運び、そのままの勢いでウィスの私室と廊下を隔てる扉を開ける。グラディウスの設計のお陰で、ウィスの部屋と廊下では明るさがまるで違う。
……眩しい。
「……グラディウス。この窓、全部カーテンでも付けたらどうだ。」
「では、全てレースにしましょうか。」
「前言撤回、何もせんで宜しい。」
「畏まりました。」
「あ、船長……!」
底抜けに明るい声と共に、明るい赤髪の男が走ってくる。女性にしては身長の高いウィスや、ハイエルフという種族的に元々身長の高いグラディウスよりも身長のある、大柄な海の男らしい赤い瞳の男が、人懐っこい顔で大きく手を振りながら走ってくる。
相変わらず元気な奴だ。
「おはよう、ヴェントゥス。」
「おう! おはよう、船長! ……コート、全然皺寄ってねぇな。さっきまで寝てたのか?」
「……まぁ。それで? 操舵手のお前がこんな所で何してる。大事な船を座礁させる気か?」
「いやいや、今はソルがやってくれてるよ。」
「……ふーん、あいつが。」
「船長、そう心配されなくとも我らの航海士は船長が起こした嵐の中でも平然と船を操れるんですよ?」
「そ~だよ、もしかしたら俺よりも上手いかもしんないよ?」
「それじゃあ困るんだが。」
「そこは反省してください。」
「へへ、ごめんなさぁい。あ、そうそう! 船長、そろそろアーティア軍港に入るよ! も~~~み~んなはしゃいじゃってさ! 港街では花火とか、紙吹雪とか凄いんだから!」
「……海賊だって何度も言ってるはずなんだがな。」
「まぁまぁ船長、それだけ船長に対する愛が溢れているんですよ。」
「そうですよぉ。俺達の船長は凄いんですから!」
「ヴェントゥスはともかく、グラディウス。愛という言葉で表現すんのは辞めろ。……これから沢山聞く事になるんだと思うと今から頭が痛い。」
「これはこれは船長、大変失礼致しました。あぁそれと、船長。フォーマルハウト王国海軍からもう1つ、お耳に入れておきたい事が。」
「何だ。」
「今晩、アーティア港町の巨大桟橋で我々の無事の帰還を祝って王国民の皆さんが祝賀会をしたいそうですよ。」
「全然海軍じゃねぇじゃん……。しかも、どーせあいつらの事だ、また巨大桟橋の巨の文字が増えてんじゃねぇだろうな。」
「んー……。そろそろお貴族様のお屋敷ぐらい?」
「……金の無駄だ。」
「まぁまぁ船長、仕方ないじゃないですか。伝説の呪われた船長とは違って、我らの船長は水桶に浸かったとしても陸に上がれないんですから。むしろ、桟橋はセーフなのが奇跡なぐらいですよ。」
「悪かったな。」
「まぁ……俺達としては船長が誘拐されなくて済むから良いんだけど、さ。」
「誰の心配してんだ、お前らは揃いも揃って……。」
大体、一番誘拐し易いだろ。そんな奴。
そして、そのまままるで抵抗も出来ず。敵も敵で何が何だか分からないまま、ただ吐血して、どんどん出血多量で弱り、やがては死ぬだけのウィスを見るだけ。結局の所、どの海賊も、どの海軍も陸に本拠地がある以上、ウィスを誘拐した所で命に害を及ぼさずに捕虜とする事は不可能なのだ。
それもこれも、かなり昔からウィスに掛けられた……酷く残酷な呪いの所為で。
だからって、貴族連中のお屋敷程度の広さを誇る桟橋は……最早桟橋って言わねぇだろ。




