表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/19

第19話:世界の管理者は、最愛の王妃へ

最終話です

 アステリア王国の完全な清算(せいさん)から、数ヶ月が()った。

 かつての、魔法の借金で(ふく)れ上がっていた(いびつ)な世界は、今やエルディアが主導する健全な魔力銀行システムによって、驚くべき速さで再構築されている。


 今夜は、その立役者(たてやくしゃ)である私の功績を(たた)え、そしてエルディアの新時代の幕開けを祝う大規模な祝宴が(もよお)されていた。


「……ふぅ。やっぱり、こういう場所はまだ少し肩が()るわね」


 私は豪華なダンスホールを抜け出し、一人でバルコニーへと出た。

 夜風が、火照(ほて)った頬を優しく()でる。

 見上げれば、雲ひとつない夜空に満月が輝いていた。かつてアステリアの窓際で、絶望しながら見上げていた月と同じものだとは、到底(とうてい)信じられないほど、今の私に見える景色は()み渡っている。


 あの日、私はボロボロの法衣一枚で国を追われた。

 けれど今の私は、エルディアの民から世界の管理者と敬愛され、宝石よりも価値のある信頼という名の資産を手にしている。


(……人生の帳簿は、付け方次第でこんなにも変わるものなのね)


 感傷に(ひた)りながら、手にしたシャンパングラスを月にかざした。


「一人で何を計算しているんだ? リゼット」


 不意(ふい)に背後から聞こえた、聞き慣れた、そして私にとって今や世界で最も心地よい響きを持つ声。

 振り返ると、そこには祝宴の主役であるはずの、アルリック陛下が立っていた。

 月光を背負った彼の髪が輝き、その立ち姿は神話の英雄のように美しい。


「陛下…。主役がこんなところにいて、よろしいのですか?」


「主役なら、私の目の前にいる。君がいない宴など、私にとってはただの非効率な時間の浪費(ろうひ)だ」


 陛下はゆっくりと歩み寄り、私の隣で手すりに手を突いた。

 彼の(まと)う清潔で知的な香りが、夜風に乗って鼻腔(びこう)をくすぐる。


「リゼット。君がこの国に来てから、エルディアは変わった。民は希望を持ち、魔法は正しく(めぐ)り、国力はかつてないほどの最高益(さいこうえき)更新(こうしん)し続けている。君という『資産』を手に入れたことは、私の人生で最大の成功だ」


「……お()めいただき、光栄です。私も、陛下という最高の投資家に出会えたからこそ、今の私があると思っています。私たちは、最高のビジネスパートナーですね」


 私は冗談めかして笑い、彼にグラスを向けた。

 ……けれど。

 陛下は私のグラスを取る代わりに、私の手首をそっと、しかし逃がさない強さで(つか)んだ。


「……陛下?」


「ビジネスパートナー、か…。リゼット、君はどこまで計算高いのか、それとも自分の価値に無頓着(むとんちゃく)なのか」


 陛下の瞳が、これまでにないほど真剣に、そして深い熱を帯びて私を射抜いた。

 彼は私の手からグラスをそっと取り、テーブルに置くと、両手で私の肩を抱き寄せた。


「私は、君をただのビジネスパートナーにしておくつもりはない。そんな『契約』で君を縛っておくには、私の独占欲はもう限界を超えているんだ」


 心臓が、()ね上がった。

 これまでのどんな監査業務よりも、どんな複雑な数式よりも、私の頭を真っ白にさせる言葉。


「陛下、それは……」


「リゼット。私は、君のすべてを買い取りたい。君の知性も、その美しい瞳も、時折(ときおり)見せる年相応(としそうおう)の笑顔も。他の誰にも1MPすら分かち合いたくないほど、私は君を愛している」


 アルリック陛下が、私の前に(ひざまず)いた。

 一国の王が、ただ一人の女性の前に、誇りさえも投げ打って。


 彼は私の右手をとり、その指先に、月光を凝縮(ぎょうしゅく)したような大粒の魔晶石が埋め込まれた指輪を()えた。それは、世界中のどんな財宝よりも透明で、強固(きょうこ)な真実の愛の裏付(うらづ)け。


「リゼット。私の元へ、王妃として来てほしい。君の人生という名の帳簿を、一生かけて私が守り、最高の結果を出すことを約束しよう。この投資の成功報酬(ほうしゅう)は、君と共に歩む未来だ」


 見上げた陛下の顔は、これまでの冷徹な王の仮面を完全に脱ぎ捨てた、とびきり甘くて、切実な男の顔だった。


(……ああ。もう、計算なんてできない)


 私の脳内にある精密(せいみつ)な計算機が、心地よいエラー音を鳴らして停止する。

 合理性? 効率?

 そんなものは、この(あふ)れ出す幸福という名の「過剰(かじょう)利益」の前では、何の意味も持たなかった。


「…陛下。そのプロポーズ、受諾(じゅだく)しない理由は、一文字も見当たりません」


 私は、(こぼ)れ落ちそうになる涙を()えながら、最高の笑顔で答えた。


「私の人生の全権、陛下に委譲(いじょう)いたします。その代わり、私の愛はかなりの『高金利(こうきんり)』になりますけれど、よろしいですか?」


「望むところだ。一生をかけて、利息(りそく)もろとも君に(おぼ)れさせてもらおう」


 アルリック陛下が立ち上がり、私を力強く抱き寄せた。

 重なる影。触れ合う唇。

 大ホールから()れ聞こえる祝福の音楽が、遠くで私たちの門出(かどで)を祝っているようだった。


 無能と捨てられた会計士の物語は、ここで終わる。

 そして明日からは。

 世界で最も賢く、そして世界で最も愛される「魔力会計王妃」の物語が始まるのだ。


「計画的なご利用を…なんて、陛下にはもう必要ありませんわね。…ふふ、大好きです、アルリック」


 夜空に輝く月は、私たちの新しい帳簿の最初のページを、(まぶ)しいほどの白さで照らし出していた。


 ――私の人生、これから先も、ずっと『最高益』で間違いなしね。


ここまでお付き合いいただきありがとうございました

自己破産や借金の話ができたので満足です

次はどぎつい思想もの書きたい


よろしければリアクション数がトップのこちらもお読みください♪

◇◇◇「愛が無い関係」なんて誰が決めたのですか?◇◇◇

https://ncode.syosetu.com/n9668li/


甘い恋愛がお好きな方はこちらをどうぞ♪

◇◇◇婚約破棄されゴミとして押し付けられた侯爵令息、スパダリな私に全力で溺愛されて聖者として覚醒する〜今さら「息子を返せ」と言われても、もう遅いですわよ?〜◇◇◇

https://ncode.syosetu.com/n3978lq/


「面白かった!」


「ほかの作品が気になる、読みたい!」


「似たような話がほしい!!」


と思ったら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします!


面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当にうれしいです!


なにとぞよろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ