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クズと最初の町

 異世界に飛ばされた蓮斗は、現在、町が見える平原に立っていた。


 「おいおい。もしこの世界の住人に見られてたらどうするんだよ」


 そこは女神的なパワーで周囲に人が居ない事を確認していたのか、もしかしたら転移魔法などが珍しくない世界なのか......


 「まぁ、考えてもしょうがないよな! さっさと町へ向かうか」


 自分から勝手に考察を始めたはいいものの面倒くさくなったのか適当なところで放り出した蓮斗はお気楽な顔をしながら町へと歩いていく。


 そこは上るにはちょっと......というほどの高さの壁に囲まれており、東西南北に門が設置された割と大きめ町であった。


 蓮斗が居るのはこの町の左側、門には門番が立っており、指名手配された犯罪者達が入ってこれぬよう見張っているようだった。


 「あのー。すみません。町に入りたいんですけど......」


 蓮斗が門番に話しかける。


 「身分を証明できるものは?」


 当然持っていない。


 「いや、なんか無くしちゃったみたいで…… どっかに落としたのかな......?」


 「何も持っていないのか?」


 気のせいか門番の顔が少し険しくなった気がする。


 「では、どこの町から来た?」


 当然答えられるはずはない。


 「んー。遠いところ...... ですかね?」


 「貴様。私のことを嘗めているのか!」


 門番が腰に差していた剣を抜き、切っ先を向けてくる。 刃が妖しく煌めき、反射された日光が蓮斗の顔を照らす。


 このままだと、その刃は蓮斗を貫くだろう。


 しかし、驚くことになるのは門番の方だった。


 「貴様何のつもりだ!?」


 それはとても洗練された、美しさが感じられるほどの土下座であった。


 「すみませんでした。どうか命だけは助けてくださいお願いします」


 恥ずかしげもなく蓮斗の口から流れ出る命乞いの言葉。


 「貴様プライドはないのか......!?」


 「プライドより命の方が重いに決まってるだろ! いい加減にしろ!」


 「わ、私が間違っているのか?」


 土下座しながら怒鳴るという他には真似できない真似をしてのける。


 「これで足りないなら次の手を使うぞ!? 本当にいいのか!?」


 土下座しながらの脅迫。有史以来初めての快挙を成し遂げた蓮斗の命乞いは次の段階へとシフトする。


 土下座し、地にこすりつけた頭の位置は動かさずに折り曲げた足をピンと伸ばしそのままうつぶせに寝転がる。


 「いいか? 門番。これがプライドを彼方に捨て去ってきた漢にしかできない謝罪の究極形態! 土下寝だ!」


 「お、おう。そこまでするのか......」


 門番の顔の険がとれ、次第にその顔がゴミを見る目に変わってくる。


 さて、これでも通してもらえないとなると駄々をこねながら泣きわめくしかないかと思い、手足をばたつかせる準備をしていると、門の向こう側、つまり町の中から女性の笑い声が聞こえてきた。


 「ねぇ門番さん。いいじゃない通してあげなよ。何かあったら私が責任取るから!」


 ちらりと蓮斗が顔を上げると、笑い声の主の姿が見えた。


 肩まである、蓮斗と同じ黒髪に、緑の髪飾り。体には赤を基調とした鎧を身にまとっているが、スタイルの良さが分かるほどには女性らしい体つきをしていた。


 「ア、アキホさん!?」


 門番がその女性をみて驚く。その反応を見るにどうやら凄い人らしい。


 「ですが、アキホさん! 身元も知れぬ奴をこの町に入れるわけには......」


 「大丈夫だって! なにかあっても私が止めるし! 門番さんも私の実力は知ってるでしょ?」


 アキホの言葉に門番は確かにと納得しつつも、己の責務への責任感か未だ渋っている様子だ。


 「ねぇ。お願い! もしかしたら私と同郷かもしれないんだ」


 「な、なんと。アキホさんの同郷...... はぁ。わかりました。確かにアキホさんがそこらの奴らに後れを取るとは思えませんしね。ましてやこんな奴に」


 どうやら町の中へ入る許可が下りたらしい。これは、黒井家に伝わる喜びの舞をしなくてはと思ったが空気をよんで止めておく。蓮斗は空気が読める男なのである。


 「ありがとうございます。えっと……アキホさんでしたっけ?」


 蓮斗がそう聞くと、アキホが笑ってはい! と返す。


 立ち上がって体についた土ぼこりを払うと、頭を下げながら門を通り、改めてアキホに礼を言う。しつこいと言うなかれ。蓮斗は強いものに巻かれるタイプの男なのである。


 「だからいいって! 気にしないで!」


 「いえいえ、本当に助かりました! 命があるって素晴らしいことですね! 生きててよかった! 泥水すすってでも生きていきたい......」


 「そ、そう......」


 図らずもアキホを少し引かせてしまったらしい。


 「ま、同郷のよしみってことで! 君、日本人からの転生者でしょ?」


 同郷とは勘違いではなく本当に同郷だったらしい。しかしこれは......


 「どうしたの? なにか複雑そうな顔してるけど?」


 「いや、他にも転生者が居たとか、自分の特別感が減るなぁって......」


 「ちょっと! 助けてあげたのになにその言い草!」


 いいから行くよとアキホが蓮斗の手を引いていく。


 「え、どこに連れていかれるんですか!? きゃぁ! 怖い! 離して! 誰か助けてください! 人気のないところに連れ込まれる!」


 蓮斗の必死な叫びに周りの人たちが何事かと目を向ける。


 「いや、違うから! みんなも本当に違うからね!? 身分証作るために冒険者ギルドに連れて行くだけだから!」


 アキホがギョッとした顔をして弁明する。周りの人たちも、手を引いているのがアキホだとわかると安心したように目線を外す。


 「冒険者ギルド? 身分証ってそんなところで作れるんですか?」


 「うん。冒険者になれば冒険者カードを発行出来てそれが身分証代わりになるんだ。しかもカードにはステータスとか所持スキルとか書いてあるから色々便利だよ!」


 アキホの説明を聞く限り作った方が良さそうだ。


 「よし。じゃあ行きましょうか。異世界に来たら冒険者にならないといけないなと思ってたところだったしな!」


 そういうと蓮斗は、先ほど引きずられていた時とは打って変わってゲームセンターに向かう小学生のように歩き出す。


 「え、ちょっと待ってよ!」


 いきなり歩き出した蓮斗に置いて行かれないようにアキホも早足で追いかける。


 「待ってろよ! 冒険者ギルド! 俺の冒険はこれからだ!!!」


 「ちょっと待ってそっちじゃないから!そっちは歓楽街だから!」

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