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「あっ、那野さん!どうしたんですか?」

 桃花は廊下に那野の後ろ姿を見つけて少し驚いたように声を上げた。

 その声に驚いた那野も慌てて後ろを振り向いた。

「わ、桃花! 探してたのよ!」

 輝かんばかりの笑顔である。

「すみません。先程まで中庭にいたんです」

「…中庭…そんなものがあるのね」

 那野はもう、驚かなくなっていた。さぞ立派なお庭でしょうよ。あたしだったら、立派な庭より全部畑にして野菜とか育てるわ、とかなんとか考えた。

「それより那野さん、あの…大丈夫ですか…? 掃除をご一緒させていただいた時は平気そうだったので、おうかがいするのをうっかり忘れてしまっていたんですが。もし、その…気に入らないのでしたら……縁談を取り消――――――」

「大丈夫よ」

 那野は桃花の言葉を遮ってきっぱりと言った。それからニッコリと笑う。

「…あ、そう…です…か」

 満面の笑み。完璧な笑顔。―――――貼り付けたような笑顔。

 桃花はざわりと胸が騒ぐのを感じた。

「心配してくれてありがとう。でもあたし、結婚するから、絶対」

「………………」

 桃花は、何も言えなかった。そう、それは、怜をまとう空気と似ているものが那野からも出ていたからだ。怜とは違って那野は満面の笑みにもかかわらず、だ。

「大丈夫よ。心配いらないわ。きっと上手くいくわ」

「…はっ…はい」

 桃花の喉はカラカラに乾いていた。


「あたしの荷物をね…」

 那野がそう言うと桃花はしまった!という顔をした。

「すみません!すぐ、お届けに上がるつもりが…。すみません…」

 あーあ、落ち込んじゃって。そんなに肩落とさないで。

桃花は相変わらずである。

「着替えとかもあるし、荷物の整理、今からやろうと思って…」

「そうですね。那野さんがそうおっしゃるなら…。わたしもお手伝い致します」

「そう、ありがとう」

「いいえ。わたしはあなた様の味方ですから」

 突然そう発した桃花はしかと那野の瞳を見つめた。

那野は不思議そうに少し小首をかしげた。

「お守りいたします」

 力強い瞳は、先ほど、怜と対峙していた桃花がしていたものと同じものだった。


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