拾漆
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場所は変わって、ざわざわと騒がしい、大広間。この騒がしさ。当たり前と言えば当たり前である。
那野はあまりの居心地の悪さに身じろぎした。
「主役がそろってないんじゃあなあ―――――」
「いったい何をしてるんだ! こっちだって暇じゃないんだぞ! 時間を無理にでも作って来ているんだ!」
「次期当主にもなろう方が…こんなので大丈夫なのか!」
さまざまな野次が飛び交う。あたりは殺伐とした雰囲気で満ちていた。最初こそ、芹何財団ということで物怖じしていたものの、一人不満をこぼせば瞬く間にそれは全体へと広がっていく。あたりは雑然としていて、すでに混乱状態だ。しかし一時間も待たされれば、こうなっても仕方がないだろう。
司会者と思われる禿げた男は、媚びへつらうようにへこへこと頭を下げるだけで何の役にも立たない。
大広間はこれでもかと言うほどに荒れていく。中には目の前の酒に我慢が出来ず、勝手に酌をしだすものもいた。
那野はどうしていいかわからず、ただただ自分の隣の座布団が埋まるのを待つしかない。那野は一番言われたくない言葉を頭に思い浮かべ、身震いした。
よく考えてみれば怜がここに来るなんてことありえないような気がした。
首を絞められて以来会っていない。頼みに行けばよかったのか。あたしは、どうすればよかったんだ。考えれば容易に出てくるこの状況。けれど、あんなことがあった後で――――――。
「逃げられたんじゃないのか――――――」
刹那、騒がしかった会場は、その喧騒を一気に静めた。
那野の思考は途中で断絶した。先ほど那野が頭の中に浮かべたそのまんまのセリフが、他の人によって発せられたことを理解した。それも自分に向かって。
あぁ、望まれない縁談だとばれてしまう。望んでいない縁談だとばれてしまう。お父さんの会社が潰れてしまう。お父さんの会社が潰されてしまう。この結婚が無しになったとしたら。破綻したとしたら。今度こそ、あたしは怜に殺して貰わなければならない。親に顔向けできようはずがない。何より、落胆した顔を見る勇気があたしには無い。あたしは―――――。
漆黒が瞬く間に那野を侵食していった。
あ、あたしを守ってくれる桃花は――――――どこよ。
『那野さん、私は出席できるような者ではないので、申し訳ありませんが…』
『だーいじょうぶよ! 何とかなるわよー座ってりゃいいんでしょ? 楽勝よ、楽勝ー』
――――どこよ。守るって言ったじゃないのよ。言ったじゃない!
あたしは、本当に、本当にどこまで行っても最低なようだ。性格が歪んでいる。醜い。醜女という名もピッタリではないか。あたしに合いすぎていて、的確すぎて言葉も出ない。ほんとうにあたしは――――
「お前ら何やってんだあああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
またもや那野の思考は断絶された。
スパーンと襖が横に滑る。那野が気に入った竹取物語の挿絵の襖だ。
見ると、そこに立っていたのは―――――単細胞生物だった。




