拾陸
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まさか、怜様がこんな所においでになるなんて…
…ここで、寝てたみたい
怜が、あの芹何怜が、掃除用具置き場の隅で寝ていた理由。
所在なさげにしていた理由。
あの。聞いてください。あたし…平家物語朗読できるんですー
こんな馬鹿女を、無理矢理、嫁がせた理由。
やあーっと怜様も本命をねえ
いやあねーあんたずっと狙ってたんじゃあないの。玉の輿
どこかの二人組がそう言って笑った。
お金に困る両親を見ていた那野が、政治、経済界でもトップのこの最高の縁談を断るはずもなかった。
醜女。
本当に醜い女だ。
こんな、こんな男にひっかかるなんて。
「本当に…醜い性格をしている…」
み‐にく・い【醜い】
1 顔や姿かたちがよくない。
2 見て不快な感じがする。嫌な気持ちがする。
本当に、本当に醜い――――。
見ていて不快な感じがする。―――苛立つ。
「―――お前はどこまで行っても醜女だ…」
叫び疲れた怜は、かすれた声でそう言って鉄格子を揺すった。
「…出せ」
「…はい!」
怜が落ち着きを見せ始めたからだろうか、いつの間にか控えていたのであろう女中が素早く出てきて返事をした。
怜は久しぶりに見た自分と同じ顔の父親を睨み、胡坐をかいていた足を崩してゆらりと立ち上がった。
「お前は本当の意味で、気持ちが悪い。見ていて不快だ」
「お前呼ばわりとは―――。成長とは、悲しいものだ」
「…早くひっこめ」
「さあて、見ものだな。どうやってあの子を助けるんだ」
「…黙れ!」
怜のその言葉で、芹何国一は、霧になって消え去った。
あと、その手紙。そんなに握りしめていたらボロボロになるぞ。―――お前のように。
怜は鉄格子に向かって頭突きをし、荒々しく女中に命令した。
「あいつのところへ連れて行け!」
「…ですが、そのお召し物では…」
「黙れ! 早くしろ!」
「仰せのままにっ…!」
怜の言葉が届くことはない。いつだって、どこだって皆に受け入れられるのは彼の父、芹何国一の方だった。




