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***

「那野さん。これから、お風呂はどうですか、その後お部屋にお食事をお運びいたします。そして明日は芹何家の皆みな様との顔合わせになります」

 那野に、庭に行きたいとせがまれてから、数時間が経ち、桃花は自分の仕事を終えてから那野を迎えに行った。今、桃花と那野は、那野の部屋へ向かって歩いている途中である。

「どうですか、と言っておきながらあれね。なかなか強制的ね」

「…すみません」

 図星のようだった。

「その通りにするわ。でも、桃花。少し気になっていたのだけれど、人少ないわね、この屋敷。こんなに広いのに、人口密度が低すぎるわ」

 あぁ。そう言って桃花は頷いた。

「それはですね、今日まで皆様お休みだったのですよ。連休です。これでも明日の会合のために今、続々と集まっているのですよ。まぁ、でも那野さんの部屋とは別棟(べつむね)ですので会いにくいかと思われますが」

 なるほど。那野は妙に納得していた。

あの青年も、きっとそうね。



「では、お着替えをお持ちください」 

 桃花は部屋に付いてからそう言った。

「バスタオルや、シャンプー、リンス、トリートメント、化粧水、乳液などのものは既に準備しておりますので、それらをお使いください」

 那野は桃花に連れられてお風呂へと向かった。この家は、一人で行動するには無理がありすぎる。

「では、ごゆるりとおくつろぎくださいませ」

 いつかの言葉を、桃花は再び言って、お辞儀をした。



 もう、描写するまでもない。

それは、立派で荘厳で、那野は感嘆の声を漏らした。


「木のお風呂なんて、初めてだわ…!」

 すごくいい匂いがした。木の、とてもいい匂いが。那野は何の木なのか分からなかった。

桃花にあとで、尋ねてみよう。密かにそう決意する。



お風呂は、――――それは広くて、綺麗で、秀麗で。いい匂いがした。


 それは、何もかもを、忘れさせる力がありそうで。

 那野は、那野は、


「馬鹿やろおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 心からの叫びを、

叫びを、

悲痛な叫びを、

響かせた。


「あたしは、あたしは―――――――」


 あたたかい湯気が、さながらお母さんの腕のようで。

つかった湯船は、お父さんの心のようで。


 ――――――こぼれそうになった、溢れそうになった。


 那野はざんぶと頭ごとお湯につかった。

 

 大丈夫よ。上手くやれるわ。


 いつものように、いつかのように、自分を励ました。

那野は励まし続けた。




 豪勢なお風呂から上がると、入口に『那野様御入浴中』という札がかけられていた。間違っても男性が入らないようにだろう。


 …すごいわ。

那野は素直に関心した。


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