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観察眼に優れた商人は、世間知らずな錬金術師と共に成り上がる!  作者: ファイアス
3章:アキナイ領の未来を巡る攻防

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第25話:納得は結果でしか得られない

「おーっ!」


 サリアが声を上げる。


「サーチヒュームの本体を作れたのか?」

「うん」


 サーチヒュームの調合時間は約10時間にも及んだ。

 途中食事も挟まずに続けていたのか、サリアの声からは疲労が滲んでいる。


「じゃあ、確認するぞ」


 俺は完成したサーチヒュームを受け取ると、きちんと機能するか確認作業を行った。


「うーん……」

「失敗してないよね?」


 サリアは不安そうに訊ねる。

 長時間の作業だっただけに、やり直したくないのだろう。

 ……不十分であることを伝えるのが心苦しいな。


「失敗とは思わないが、レシピに記された機能の一部が欠けている」

「えー……」


 サリアはがっくりと肩を落とす。


「気を落とすな」


 俺はすかさずフォローを入れる。


 サーチヒュームのレシピは、アルシアの知識と技量を前提に記されたものだ。

 そのため、最初からレシピに記された水準で作れるとは思っていない。


 それに欠けている機能は、情報を伝える音の種類が少ないだけだ。

 最低限の機能は備わっていると判断してもいいだろう。


「子機はばっちりだな」


 子機は合計で10個作らせていた。

 10個までは同時生産できると判断したからだ。

 現状10人も子機を渡したい相手はいないが、予備があるに越したことはない。


 俺はサーチヒュームを持って、カタインの元へと向かった。

 アルシアを呼ぶに値する品質か、彼に判断してもらうためだ。


「その件は聞かされていません」

「そうか」


 彼に判断を仰げばいいと思っていただけに困ったな。

 アルシアはすでにサリアの技量がどの程度なのかは知っている。

 しかし、要求する品質水準がサリアの技量を考慮しているとは言い切れない。

 どうしても人は自分自身を基準に、他人のできる・できないを判断してしまうからだ。


 ……とはいえ、やり直しても完璧なものが作れるとは思えない。

 心苦しいが、アルシアに渡された子機を使うか。


 俺はアルシアに渡された子機に、サーチヒュームの完成を伝えるべく魔法を放った。

 俺の魔法は灰色の色素を帯び、鈍い音となりサーチヒュームを伝っていく。

 この色と音は不安の表れだった。


 サーチヒュームを完成させてから4日後、俺の元を訪れたのは意外な人物だった。


「姪に手伝いを頼まれてきたが、まさかお前だったとはな……」


 俺の店に現れたのはアルシアの親類であるルベルトだった。


「姪ってアルシアのことか?」

「……そうだ」


 ルベルトは小さく言葉を返す。

 彼はアルシアを快く思っていない様子だ。


 それもそのはずだ。

 アルシアは自分の創設した連合会こそが、社会の秩序だと考えている節がある。

 領主制を財力で覆そうとする反逆者と言えるかもしれない。

 だからルベルトが本家の人間──すなわち次期ナスダック領の領主ならば快く思わないのは当然だ。


「サーチヒュームなら見せねぇでいい」

「えっ?」

「アルシアを呼んだんなら、機能は備わってんだろ?」

「ああ」


 雑な仕事はしない──そう信頼された上での判断か。

 評価してくれるのはありがたいが、プレッシャーになるな。


「アルシアに要請した件は?」


 アキナイ領に迫る未来への憂いを断つには、領主になりたいシャルルの執着心を取り払わなければならない。

 その手段としてシャルルを取り込むよう、俺は連合会に協力を求めていた。


「アルシアが認めたのはお前だけだ」


 当然の判断か。

 何せシャルルは今までに一度もアルシアやカタインと会話を交わしていない。

 彼自身は信頼される理由がない。


「俺が仲介に入る形ではダメなのか?」


 シャルルの常識力はサリアと比べればまだまともだ。

 しかし、認知が著しく歪んでおり、サリアよりもトラブルを起こす可能性が高い。

 そのため、しばらくは俺が仲介するつもりでいた。


「そのやり方を認めちまえば、架空の連合会員を利用して一日の販売制限を潜り抜ける輩が必ず出てくる」

「それはそうだな」


 特例を認めたらルールの抜け穴になるか。

 ごもっともだな。


「それにクレーマーはどう対策するつもりだ?」

「クレーマー対策はすでに考えてある」

「ほう、どうするつもりだ?」

「警備の人間に丸投げすればいい」


 クレームはもちろん、商品説明など複雑なことは何もしなくていい。

 それで商売が務まるわけないが、需要超過の商品を取り扱っていれば話は別だ。

 どんな嫌な店員だろうと、そこで買うしかないからだ。


「そんなんで商売ができるのか?」

「俺の管理下に置いていればな」


 しばらくは商売が成り立たなくてもいい。

 大事なのは「自分でもできる」と思わせる成功体験の積み重ねだ。

 その積み重ねがないまま困難に直面すると、「どうせ自分にはできない」と投げ出してしまう。

 だから、当分はぬるま湯に浸からせるくらいでいい。


「ちょっと待っててくれ。計画の概要をまとめる」


 俺はルベルトに納得してもらえるよう、シャルルの教育プログラムをまとめる。


「こういった形で考えているがどうだ?」

「ほう」


 ルベルトは俺の書いた教育プログラムに目を通す。


「まるでガキのおままごとだな」

「それでいいんだよ」

「困難は全部お前に丸投げじゃ成長しねぇだろ」

「まだ困難に立ち向かわせる段階ではない」

「ガキじゃねぇんだぞ!」

「年齢を重ねていれば成長してるのか?違うだろ?」

「……」


 シャルルは俺より10歳以上年上だが、精神年齢はそこらの子供よりも幼い。

 どう考えても年齢相応に扱うべきではない。


「甘すぎるだろ……」


 ルベルトの判断は例えるならば、Gランク冒険者にDランク以上推奨の魔物と戦わせようとしている。

 そんなことをさせたら、Gランク冒険者の大半は死亡するだろう。

 しかし、ルベルトはその問題を分かっていない。

 彼には弱者の視点がないからだ。


「綺麗な水辺でしか生きられない魚がいるように、甘い環境でしか育たない人間もいるんだ。だから俺は相手のタイプに合わせて、必要な教育を施すべきだと考えている」

「……」


 ルベルトは何も言い返さなかったが、俺の考えに否定的なことだけは分かった。

 これ以上話しても無駄だろう。


「状況が改善したら、また報告する」


 考えの相容れない人間を説得する唯一の手段は結果で示すことだ。

 だから俺はシャルルが連合会の一員として、最低限のやりとりができるようになるまで待って欲しいと伝えた。


「いいだろう」


 ルベルトは俺の言葉に承諾すると、店内の片隅へと移動する。

 店を出る様子はない。

 用は済んだはずだが……


「誰か待っているのか?」


 俺はルベルトに問いかける。


「アルシアにお前のサポートを任されてんだよ!」

「えっ?」

「だから警備してんだ」


 ナスダック領の領主一門であるルベルトが、俺の店を警備だと……

 アルシアの思惑と、ランデロール家の力関係はどうなっているんだ。

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