第23話「セリアが選んだのよ」
「あなたは」とガレスが言った。「セリアを、恨んでいなかったのですか」
しばらく間があった。
私はお茶を一口飲んだ。冷えていた。冷えたお茶はそれほど嫌いじゃない。温かいものより、少し落ち着ける気がする。
恨んでいたか。
そう問われると、すぐには答えが出てこない。
断罪の場にセリアはいた。泣きながら、でも止めなかった。追放された後、手紙は来ない。そのまま数十年が経って、先にあの子は逝ってしまった。
(正直に言えば、わからないのよ。その頃の感情を今さら正確に取り出せない)
「どうかしら」私は言った。
「はっきりしない答えですね」
「はっきりした話じゃないから」
ガレスが縁側の端に目を落とした。
静かな男だと思う。騎士だったと聞いている。断罪の場で私の退場を見届けた後、近衛から辺境警備に自ら志願したと、ずっと後になってセリアから聞いた。左遷ではなく本人の希望だったらしい。罪悪感を剣で振り払おうとしたのか、それとも辺境に近い場所に行きたかったのか。どちらにしても不器用な話だ。今の彼にその頃の気配はない。ただの老いた男で、私と同じように年を重ねて、しわが増えて、背が少し縮んでいる。
庭のジジが草の根元に何かを見つけたらしく、じっと動かなくなっている。尻尾の先だけが、ゆっくり左右に揺れていた。
「恨んでいたかもしれない」私はそう言った。「でも、もう遠い話よ」
ガレスが顔を上げた。
「遠い」
「ええ。遠すぎて、輪郭がはっきりしない。あの頃の感情がどんなものだったか、ちゃんと思い出せないの。恨んでいたとしても、それはもう私の中に残っていない」
ガレスが「それは」と言いかけて、止まった。
「なに」
「……それは、忘れた、ということですか」
「忘れたとも少し違う。ただ、遠くなった。長く生きると、そういうことが起きるのよ。残っているのは、何かがあった、という事実だけ」
「事実だけ」
「あなたはセリアと結婚した。セリアは断罪の場で声を上げなかった。私は追放されて、それきり会っていない。それだけよ」
あの頃の自分が聞いたら、怒るかもしれない。でも今の私には、これが正確な言い方だった。
ガレスが息をついた。長い息だった。
「あなたが怒らないのが、怖い」と彼は言った。「怒鳴られたほうが、楽でした」
「そうでしょうね」
「なぜ怒らないのですか」
「怒るほどのエネルギーが残っていないのよ、もう」
本当のことだった。怒りというのは体力が要る。若い頃はいくらでも腹が立ったけれど、七十を過ぎると怒りを維持するのが面倒になってくる。そんなエネルギー、もうとっくにない。
(ガレスがそれを聞いて、どんな顔をするかとは思ったけれど)
「それに」私は続けた。「あなたがセリアと結婚したことを、私は怒れない」
「どういう意味ですか」
「さっきも言ったでしょう。セリアが選んだのよ」
ガレスが黙った。眉がわずかに動いて、何かを飲み込もうとしているような顔だった。
「あなたと結婚したのはセリアの意志だった。断罪の場で声を上げなかったのも、セリアが判断したことだった。泣きながらでも、あの子は自分で決めた」
「……そうかもしれませんが」
「そうよ。あの子はそういう人だった。流されているように見えて、根っこのところでは自分で動いていた。私はそれを知っていた」
ジジが庭から戻ってきた。何かを追っていたが、逃げられたらしい。不満そうな顔でこちらに歩いてきて、縁側の端に腰を下ろした。毛並みに草の欠片がついている。
(で、捕まえたの。ジジ)
尻尾がぴくりとも動かない。捕まえていない、ということらしい。
「セリアのことが、好きだったんですね」とガレスが言った。
「好きだったわよ」私はあっさりと答えた。「友人だったんだから」
「なのに」
「なのに、何?」
ガレスが言葉を選ぶように黙った。少しの間、縁側に静けさが戻った。
「なのに、どうしてそんなに穏やかに話せるのか、と思っていました」
穏やか。
そう言われると、自分ではよくわからない。穏やかなつもりはない。ただ、昔のことを今更燃やす気にもなれないだけだ。
(穏やかと諦めは、傍から見ると同じに見えるらしい。ずいぶん買いかぶってくれるものね)
「穏やかというより、疲れているのよ」私は言った。「怒るにも悲しむにも、もう少し若くないといけない。今の私には余力がない」
「それは」ガレスが困ったような顔をした。眉の端が下がって、何とも言えない表情になった。「慰めになるのか、ならないのか、わからない言葉ですね」
「慰めじゃないわよ。ただの事実」
「はあ」
まあ、そういうことよ。私はジジの毛並みについた草を指でそっと取った。ジジが迷惑そうに耳を振った。
「セリアが選んだ。あなたがいたからじゃない。あの子がそう生きたかったから、そうなった。恨む気持ちがあったとしても、それとこれとは別の話」
風が吹いた。
桜の季節には早い。でも、春のにおいがかすかにした。
ジジが目を細めた。猫にも春のにおいがわかるのか、尻尾の先がゆるやかに揺れていた。耳がぴくりと動いて、また静かになった。
「私が言えることはそれだけよ」私は言った。「遠い話だから、正確なことは言えない。ただ、今のあなたに怒ってはいない。それだけは確かね」
ガレスがゆっくりと頭を下げた。白髪の頭が、深く垂れている。
私はそれを、特に何も言わずに受け取った。




