第87話 最高の別荘からの本気で移住を考える
「こちらが今夜の宿、ログハウスです」
「おお、これはこれは、まさに貴族の別荘ではないか」
「そうですね、このエリアは国中の公爵家が、この公園に別荘が欲しいといった場合の区画です」
ざっと見回した感じでも、
十二軒くらいは用意されている立派な建物、
単独で見れば貴族の屋敷とそう変わらないな。
「ひとりで、ほんとうに良いのか」
「はい視察ですからね、購入していただく可能性のある貴族の方に報告して頂ければ」
「恐れ多いがわかった、失礼しよう」「ちなみにここは三階建ての、一番小さいタイプです」
玄関は暖かい、
樹の温もりを感じるが、
入った瞬間に勝手に灯りが燈った。
「ベラドンナ殿がつけてくれたのか」
「いえ、人体センサーで自動ですね」
「そのようなものが」「居間はこちらです」
テーブルに八人が座れる、
そして暖炉があるものの、
吹き抜けの天井には風車が勝手にゆっくり回っている。
「なるほど、冬は暖炉、夏は風車が速くなるのか」
「いえ上のは飾りですね、そもそもエアコンがありますから」
「壁のそれが装置か」「あと大型テレビも備え付けです、今は夜のニュースですね」
つけると先ほどのお別れパーティーの模様が!
『視察団の方々は明日朝、王都に向けて出発なさるそうです』
いやいやここともお別れか。
「テレビの番組表はこちら、エルフ専門チャンネルやドワーフ専門チャンネルも開局予定ですよ」
「夜遅くもやっているのだな」「はい、夜中に『おじゃまなナイト』『テレビDEごめん』などもバラエティも」
「このラジオというのは」「音だけ、声だけの放送です、今オンエア中は『トミカン』ですね、トミベラさんとカンベラさんのトーク番組です」
いやはやこのシステム、
王都にも導入したいものだ。
「おっと大切な場所を紹介します、こちらです」
「この部屋は、二段ベッドが左右にあるが」「メイド控室、四人用です」
「そのようなものまで」「貴族の方といえばメイドが付きものです、我々も園長の、事実上のメイドのようなものです」
なるほど、
あれだけ多くの獣人メイドが居るのか、
まさに種族丸ごと抱えているようなものだな。
「変な言い方だが、そのメイドを借りる事は」
「現地メイドですか、園長に提案してみましょう」
「王都や他の領地に持ち帰る事は」「無理ですね、あくまで公園の管理人ですから」
……陛下がこの黒猫獣人を見たら、
特別隊を編成したいと思うのだが、
やはりそれは……いやしかし、国の危機となれば!
(そのレベルになると、陛下とハルク殿の直接対話か)
続いて各部屋を見て周る、
寝室はハルクパークレジデンスホテルにあったような高級ベッド、
こちらにもサイズが小さいがテレビがあるな、棚も豊富、この白い箱は……?!
「冷蔵庫ですね、夏に冷えた飲み物が欲しい場合はそちらに入れていただければ」
「寝室にあるのか」「大きいのも、もちろんキッチンにありますよ、あとこちらを」
「その紙は」「出前一覧です、ラーメンからカレーから、あと出張マッサージなんかも各種ありますよ」
更には書斎、子供部屋、
トイレに風呂に倉庫と二階含め充実しているな、
三階は一部屋しかないが中は本当に何も無い、用途自由といった感じか、
「これが購入できるのか」
「はい上位貴族限定で、お値段設定は園長次第ですが」
「まだ決まっていないと」「迷ってらっしゃいますね、造りはじめたばかりですし」
値段によるが争奪戦だな、
おそらく陛下が購入順位を決めることになりそうだが、
本音を言えば、やはりここは……
「私も買う事は可能か」
「騎士団の方でしたら、新しい県民寮を王宮騎士団寮として」
「いや家族で」「どうでしょう、そこは奥様の叔父であっても難しいかも」
正直に言おう、
もう、ここへ移住したい!
あくまでも王宮騎士団員として。
(陛下への報告書で、それも書いておこうか)
私がここへ居れば、
アイリスを通じてハルク殿に話が通り易くなるとか……
正確には私がアイリスに頼み、アイリスがフィーナに頼み、フィーナがハルク殿に頼む形か。
(パーティーでフィーナが、こっそり教えてくれたな)
もうハルク殿はすっかりフィーナの傀儡、
アイリスとの正式な入籍後にハルクとアイリスが結ばれる、
互いの初めてはその時まで取っておく、だから最後の一線をフィーナは超えるつもりは無い。
(が、しかしだ)
逆に言えば『最後の最後、本当に最後の一線』以外の行為は何でもすると、
それに関してはアイリスも了承しているため、フィーナはハルク殿に対して、
最後の一線手前までであれば、ありとあらゆる行為をして、むしろ責め尽くしているらしい。
(それでもアイリスにとっては『清い身体』なのだとか)
まあ、三者が納得しているのであれば、それで良いだろう。
「さあ最後に地下です」
「何があるのか」「ワイン貯蔵庫です」
「それは素晴らしい」「商業エリアで買ったものを、是非、保管して下さい」
陛下への貢物にあった酒、ワイン、
あれをここで寝かせれば、さぞかし美味いであろう、
私も自動販売機の安酒ではなく、高いのを買ってここに……
(いっそ、ハルク殿付きの騎士になる手も)
王宮騎士団と兼任できれば!!
「……本気で移住を考えてしまうな」
「それでは私はこれで」「ああ、すまない」
こうしてハルクパークでの、
派遣団としては最後の夜を最高の別荘で過ごしたのであった。
(いやはや、危険を覚悟で来たのに、しっかり観光、保養になってしまったな!)
酒とツマミと『テレビ』で、ゆっくり眠ろう。




