巨人号の事件70
あきれ顔の少年に、職人もうなずいて
「ほんとうは、箱の呪いなんて異一郎を殺した者にしか発動しねぇはずなのに、崩子以外のみんなも死んじまった。斑玉家は絶えちまったな」
神妙に言う。
たしなみある老ラビは、他家の事情に目を閉じて一言も発さない。
魔美子は
「……奇多郎さん、あなたそれでよいの?」
問うた。
「なにがだ?」
「あの狡猾な崩子が、ただ箱の秘密を知っているだろうからという理由で、一介の職人見習いであるあなたに近づき気を引こうとしたとは思えないわ……彼女は気づいていたのよ。あなたが異一郎翁の実子であり、斑玉家の正統な後継者たりうることを」
えっ!そうなの!?
「おそらく、崩子は前から翁に子がいることは知っていた。そして乗船したあなたの魔紋を照合して確信したんだわ」
職人はただ黙っている。
「おどろかないところを見ると、あなたも自分の出自をご存知だったのね?」
「――まあな。師匠から聞かされていた」
つづけて箱を手に取ると
「異一郎は魔神によって未来視能力を得た、って言ったろう。そんな能力が無償で手に入るはずはない。やつは自分のこどもの命を魔神に捧げる契約をしたのさ。そのとき、やつに子はおらず結婚する気もなかったから、それでよかったんだ。
でも、魔神ってのは巧みだな。それからずいぶんして、異一郎はある若い女をはらませやがった。じいさんはその事態を予知できなかったんだ。このままだと産まれてくる子どもの命は魔神に取られちまう。異一郎は仕方ないとあきらめたそうだが、事情を知った女はあきらめなかった。魔神にかけあって契約を書き換えたんだ。こどものかわりに自分の命を奪うように、ってな……そうやって産まれたのが、おらだ。おっかぁは、おらを産み落とすと同時に死んだ。
あのひねくれものの砂々衛門がおらを引き取ったのは、その女が自分のかわいがってた姪っ子だったからだ」
すごい話だ。
「師匠が死ぬ前に、異一郎の話は聞かされていた。招待状が来て、船に乗るかどうか悩んだけどな、正直ひでぇ親父の顔をいっぺん見とくのも経験になるべかなと来たんだ。一発なぐるなりなんなりしてやってもよかんべぇと思ってな。異一郎が死んでるとは知らなかったけど、それは正直ほっともしたな……会っても不快な気分になっただけだろう……いなくとも、結局いやな気分にはなったけんど。まあ、いろいろ勉強になったさ」
自分に言い聞かすように言った。
「……あなたなら、箱を開けられるのでは?」
そうだ。もしかしたら異一郎に指定されていたのは、実子の奇多郎さんじゃないか?だから異一郎は彼を障玉會に呼んだんじゃ?
しかし、職人は
「ためす必要もねぇ。おらはただの職人だ。こんなものいらねえ」
救命艇のすきまから小箱を海に捨てた。
「そんなことより、あっちのほうがよっぽど大事だ」
奇多郎がのぞく先では、ハンターと海獣の戦いが続いている。




