巨人号の事件68
「んだ。……まあ、崩子嬢が直接じいさんを手にかけたかどうかまではわかんねぇけどな。他のものをつかって殺したかもしんねぇけど。問題は、殺人に主体的に関与したかどうかだよ。この箱は、挑戦者の心を見抜いて起動する」
「そんなぁ。崩子さんは大叔父さんに愛されていたんじゃなかったの?」
「そうだ。そう自分でも思っていたから、崩子は箱に血を垂らした。異一郎もまさか崩子が自分を殺すとは思っていなかったろう。なにせ、じいさんもあのお嬢さんの能力にずっぷりはまっていただろうからな」
能力?どういうこと?
「……あなた、崩子さんの魔能……『誑惑』に気づいていらしたのね?」
魔美子のことばに、
職人はうなずいて
「ああ、あのお嬢さんの誑かしは巧みだな。知らぬ間に好意をもたせて意のままに動かしちまう。異一郎以下、斑玉家の人間は全員、崩子のよいように動かされていたんだ」
おどろきの暴露をした。続けて
「そもそも、あんな内気でひかえめな鬼利江さんが自ら当主に名乗り出て、こんなおそろしい箱に挑戦しようとするのがおかしい。あれも崩子の誑かしにあったんだ。崩子は慎重な女だからな。自分が異一郎に愛されていると思っていても、万が一の生命リスクを負うことを避けたんだ。だから先に鬼利江さんに箱開けに挑戦させたんだ。鬼利江さんは自分で選択したと思ったろうが、それはちがう。すべて崩子の誘導だ」
そんなおそろしい!自分で思っていないことをさせられるだなんて。
「ところが、そんな崩子の目論見は途中でおかしくなった。きっかけは、おめぇの力だ。おわかい当主」
「えっ?ぼく?」
「その破邪の瞳術だ。おめぇは鬼利江さんをにらむことで、彼女がかかっていた崩子の誑かし……洗脳を解いたんだ」
えっ?にらんだりしたおぼえはない……あっ!そういえばはじめに鬼利江さんが会いに来たとき、ぼくはコンタクトを外していた。
箱をじっと見てほしいと言われたけど、なにも起きず彼女はがっかりしていた。
「鬼利江さんは陽城の瞳術なら箱の呪いを破れるのではないかと望みをかけたんだ。しかし、あんたは別に箱に挑戦してたわけじゃないし、箱の仕掛けを壊すことはできなかった。そのかわり……」
うん。そのあと鬼利江さんはぼくの瞳を熱心にのぞいた。そして、なにかが彼女におこったようだった。まるで憑物が落ちたみたいに。
そうか!あのとき、彼女にかかった「たぶらかし」が破られたのか!?
「それがあったから、鬼利江さんはあなたに恩義を感じて特に丁重に扱ったのね」
魔美子は納得したようにうなずくと
「瞳術によって正気をとりもどした鬼利江さまは、自分を動かしていたのが崩子だと気づいた。ただ、彼女がそれをうらみに思うことはなかった。姪が力を得るのを良しとしていたのでしょうね」
(そうだ。あのひとは万事を受け入れているように見えた。すべて、しかたないですませていた)
「誑かしなどせずとも、鬼利江さんは叔母として崩子のことを愛していらしたのよ。あの方は魔道者に向いていない、ひとのよいかただったわね。ただ、崩子のほうはそう思わない。善意をそもそも持たない彼女には、他者の善意をくみとることなどできないのよ。自分の誑かしが効いていない鬼利江さんが箱を開けてしまったら、自分に実権が回ってこないと判断した」
晩餐のとき「あなたはだまっていて」と鬼利江さんに言われた崩子の顔色が青ざめていたのは、そういうことか。言うことをきかなくなった、つまり誑かしが破れたことにショックを受けていたのだ。
だから、崩子は鬼利江……叔母も殺すことに決めたのだ。




