巨人号の事件63
疑問だらけの甥に、叔母が言った。
「ああ。あなた、さてはそのときコンタクト・レンズを外していたでしょう?」
そういや、あのときは一度リラックスしてコンタクトを外したまま部屋を出たな。
「あなたが『にらんだ』ことによって、魔法陣が無効化されたのよ。それが、おにいさまもお持ちだった陽城家の固有魔能」
魔美子の発言に、
日和見でいた周囲の聴衆がざわつく。
「名高き陽城家の破邪眼……とだえていなかったのか」
「禍王家と手打ちできたのも偶然ではなかった。やはり陽城家の力はおそるべし」
おそれられちゃった。
「にらむ力をコントロールできないうちは、物騒だからね。特殊なコンタクト・レンズで抑えているの」
そうか。遺伝的に弱い目だからと、視力が悪くないのに付けさせられていたのは、そういう理由だったのか。Xメンのサイクロプスみたいだな。
血反吐を吐いた状態で両膝をついたツァーリは
「……ぐふっ、しょせんわれら下賤出が伝統ある魔道家に勝つのはむずかしいということか?フナタマにいつのまにか好かれるとは、われらには予想できん」
わらうと、前に倒れた。
「「ひっ!」」
刺さっていたナイフが貫通して背に抜ける。
最期は、細かいことを言わず、まるで自害したように見えた。
グガーーーーーーーーッ!!!!
そうだ、海ではいまだクラーケンが暴れているのだ。
「はやく!みなさん救命艇にお乗りください」
船医のことばに
「泥形さん、あなたは?」
魔美子が問うと、
彼は
「わたしとて船員のはしくれ。いまだ船内に乗客がおられるのに、先に去ることはできません。残ります」
にこやかに返した。
「そんな、そこまでしなくとも」
少年のことばに、
船医はゆっくり首をふると
「翔之介さま、ご無事を。あなたに関わることができてよかった」
額にキスしてきた。びっくりだ。
「魔美子さま、あなたともお会いできてよかった」
さわやかな笑顔に、
おばは
「……ええ、よかったですわ」
なんとも考えの読めない表情を浮かべる。
自分のことを慕ってくれている男性に対してそっけなさすぎるようにも見えるが、少年には微妙な女ごころはわからない。
いっぽう振り袖・幼女すがたの物霊は
「これをあげる」
ハトロン紙に包まれたものを翔之介に渡す。
なにこれ?
「あたしのあるじからもお礼だって。あとで開けて」
少年が
「ありがとう……でも『あとで』って、きみはどうするの?船はあぶないよ。いっしょに行こうよ」
言うと、
少女は小首をかしげて
「そうはいかない。フナタマは船とともにある。あたりまえ」
首をふると、船医とならんで脱出者らを見送る。
翔之介と魔美子は、斑玉家唯一の生き残りとなった崩子嬢そして奇多郎、ラビと同乗することになった。志魔家の気の良い従者・キャリバンのことは気になるが、ここでお別れだ。また蘭子に酷い目に合うのだろうが、魔商の遺した予言どおり良くなることを祈るばかりだ。
救命艇が海面までクレーンで下ろされる。エンジンが動くとフックが外れて巨人号、そしてクラーケンとハンターの争いから離れる。




