巨人号の事件62
「えっ、ぼく?」
急に思わぬとばっちりを受けて、少年当主はたじろぐ。
「あの女は美麗なおまえに過剰な肩入れ……と言うより、のぼせ上がってしまった。しまいには、斑玉家の財産の大半をおまえに贈与しようと考え始めた」
……そんな、ぼくは斑玉家になにも関係ないよ。贈与だなんて、そんな無茶苦茶な話はないよ。
「そうだ、そんな無茶な話はない。しかし、そういさめたおれのことばを鬼利江はいっさい受け付けなかった。なにが美少年だ、この女たらしの魔公子め!」
知らないよ。
少年の当惑を無視して従者は一方的に
「そんなことをされてはたまったものではない。おれの財産が失くなってしまうではないか。それで、ついカッとなって殺してしまったのだ」
犯行を認めた。
魔美子が
「カッと……というのはおかしいでしょう?わざわざ短剣のトリックをつかって翔之介に罪を着せようなどとは計画性にあふれている」
「ハンッ!おれの予定を乱したおまえを退けようとしただけさ!それは今からでもおそくない!」
そう言うとツァーリは、持っていた短剣を翔之介に向かって投げつける。
しかしそれに対して、攻撃を予期していた魔美子が
「たたなづく!」
枕詞に引き出された青垣……青々とした木々が、少年の前に生い茂って立ち塞がる……
が、なんということだろう!投げつけられた短剣は、まるで目に見えないものの手によって押されているかのように木々の壁を突きぬこうとする。これには、魔美子もおどろく。
ツァーリは
「『盲射偶中』ならぬ『盲射必中』!目が見えぬ私の唯一最大の攻撃手段だ。わが命の大半と引き換えに、狙った相手に必ず到達する。それぐらいの歌ことばでは防げぬ!」
「いけない、翔之介!」
魔美子がとっさに甥の盾になろうと身を投げ出すが、自動回避能力を持った剣にそんな庇い立ては通用しない。
自分を狙って光る剣先に、もうだめかとあきらめかけた
少年の前に、にわかに姿を表したものがある。
それは、あの着物すがたの前髪パッツン少女だ。
(えっ?なんで?)
少年が驚くその前に、少女は青垣を飛び出た短剣にむかって
「ちかえし」
短くつぶやいた。
その刹那
なぜか短剣は、投げた側であるツァーリの腹部に刺さっていた。
「な、なぜだ……おれの能力は必中のはず……」
目を見開きおどろく従者に対して、
少女はつめたく
「『ちかえし』は『霊力返し』。その剣にこもった必殺の念を反転させた」
「おのれ……」
従者は倒れる。
「あ、ありがとう!でもなんできみが……?」
素直に感謝を述べる少年に対して、
叔母は急に登場した幼女に警戒を崩さず
「甥の身をたすけていただき、ありがとう……ところで、あなたは『なに』かしら?人ではないわね」
えっ!ひとじゃないの?……いや、たしかに表情とぼしいなぁとは思っていたけど。
少年の驚きをよそに、
少女は魔美子に向かって
「その子は、罠にかかって困っていたあたしを助けてくれた。その返報。あたしたちは、そのへん人間と違ってきっちりしてる」
罠?どういうこと?たすけたおぼえはなにも……あっ、もしかしてジーアちゃん?階段でひっかかっていたヒトガタの?あれ、きみだったの?
「ジーアちゃん……この船のメイン・マスコットね……ああ、あなたこの船のフナタマなのね?」
「そう」
フナタマとは、船にかかわる物霊全体のトップ(として祀られているモノ)だと聞かされる。
「けど、ぼくはなにもたすけたりしてないよ。かってに罠がやぶ……」
少年が言いかけたのを、
ジーアちゃん……フナタマは首をふって
「あなたは、にらんでくれた」
「??」




