ルイーズの怒り
「失礼。ご主人は御在宅かな?」
前に急に現れた、蒼眼でグレーの髪をしたローブを着た男。
門番の男性は、目の前の男が魔法師団の制服を着ている事に気付いた。
「いえ、まだお戻りではございません。」
「では、待たせていただいても良いでしょうか?」
--そして微笑んでいる目の前の男に、肉眼で見えるはずのない怒りマークが額に浮かんでいるのを見た。
「……は!ははははい!執事に聞いて参ります。」
『丁寧な言葉遣いではあるが、顔が……気迫が……恐すぎる!!!』
物凄い勢いで屋敷の中に門番は消えていった。
※※※※※
「今早馬を向かわせておりますので、こちらでお待ちください。」
マデラ伯爵家の客室で待たせてもらうことになったルイーズ。
顔は笑顔ではあるが、溢れ出てくる殺気が混ざったような気迫は、同じ空間にいるこの家の使用人達を青ざめさせていました。
目の前にはこの家の夫人が対面に腰を降ろしていますが、使用人達と同様に青い顔をしていました。
夫人は、最初に挨拶した時にルイーズの急な訪問とこの様子にかなり萎縮しながらも、何があったのか訪ねたが、「まあまあ。」と、はぐらかされてしまいました。
--ですので無言の対面が続いております。
まあ、ルイーズ的には心をかき乱されているさらなる原因が在るのだが……。
その、人がいるにしては静かすぎる状況を破ったのは、慌ただしく帰宅したこの家の主人であるマデラ伯爵でありました。
「お待たせして申し訳ない。シアード伯爵!」
「……!……いや、急に来たのは私だからな。」
シアード伯爵に一礼すると急いで夫人の隣へ腰を下ろしたマデラ伯爵。
「それで?いかがされましたか?」
「おふたりにまず聞きたい。この家の子供はニコラルド・ディ・マデラか?」
「ええ。」
「そうですわ。」
「この絵の者で間違いないか?」
ルイーズがおもむろに取り出した一枚の人物画を確認したおふたりは、頷きます。
「一体どうされたのですか?」
「ラルドが何か?」
要件は何かと思っていたら、息子の名前が出てきた事に驚いているマデラ伯爵夫妻。
「……うちの娘に薬を盛った。」
「え?!」
「ラルドが?」
人は良さそうなおふたりだ。
特に貴族の間でも、やや服の趣味がなっ……て事以外には悪い噂は聞かないが……。
いや、それよりも……。
『なぜ、ふたりマデラ伯爵も外ハネなんだ?』
コレです。先程から怒りのルイーズを更に苛つかせているものは!
先に対面したマデラ伯爵夫人も、今しがた到着したマデラ伯爵もみんな同じ髪型なのです!
『外ハネ!!!』
無性にイライラが増していきます。
「後は、息子本人に聞け!あとは……その髪型を全員やめろ!」
と言ってその場を後にします。
いろいろと言ってやりたいことが沢山あったのですが、次々に現れる外ハネにもう言う気が失せてしまいました。
『あ!ですがこれだけは言わねば!』
「うちの娘にはロイくんがいるんだ!もう余計なことはしないように息子に言っておけ!」
プンプン!
--当人達の知らないところで父にも公認になっていたロイでした--
そしてその後すぐにニコラルドが主人の命で、屋敷の者に探し出され呼び戻された。
「お前は一体何をしたんだ?マデラ家の外ハネまでやめろと言われたんだぞ!」
どうやら、シアード伯爵家の近くのカフェに居たらしい。
「これからアリミアが俺に会いに来るんだー!」
と連れ戻す際に喚いて暴れまわったと使用人から聞かされたマデラ伯爵夫妻は頭を抱えて涙目だったという。
「“アリミアさん”は、確か……シアード伯爵家の御令嬢ですよね?」
コソコソ。
「ええ。そうですわ……。涙。」
コソコソ。
ガックリとうなだれたマデラ伯爵……どんどんと頭が沈んで……沈みきって……一気に顔を上げた。
息子の両肩を掴んだ手も、身体全体もブルブルと小刻みに震えてながら、静かに問う。
「ラルド!お前、アリミアさんに薬を盛ったのか?」
ギクッ!
息子がビクビクする姿を見て、より悲しくなるマデラ伯爵夫妻。
そしてあろう事か言い訳……にもならない事を言い始める外ハネ息子。
「だって御父様!学園のパーティーは、アリミアだって俺と行った方が良いと思うんですよ!こんなにアリミアを大切に思っているのは俺しかいないのですから!」
キラーン!とカッコつけているつもりの息子をマデラ伯爵は眺めている。
「……謝りにいこう。」
「……そうですわね。」
「今何だか外ハネがとても憎らしいのは私だけだろうか?」
「いえ。私もですわ……。」
そして、お互いに向けて一言呟いた。
「「すみません……。」」
※※※※※
その後すぐシアード伯爵家に、髪を無造作に束ねたマデラ伯爵夫妻としなびた外ハネのニコラルドが訪ねてきた。
マデラ伯爵夫妻が必死に頭を下げ、息子には今後アリィに近付かない事を約束させると言ったので、シアード伯爵はそれ以上騒ぎを大きくすることはしなかった。
「マデラの息子よ。」
「……はい。」
「本当は憲兵に突き出すべき所を、お前の親達に免じてしていないのだ。約束が破られればいつでも今日のことを世に出すからな!」
力無く言葉を絞り出すニコラルドと、何度も何度も頭を下げ続けるマデラ伯爵夫妻。
「……はい。申し訳ございませんでした。」
「「ありがとうございます。」」
※※※※※
一件落着したが、その後数日に渡ってマデラ伯爵家に封書が届いた。
内容は全て同じだった。
※※※※※
アリミア・ディ・シアード伯爵令嬢に今後ニコラルド・ディ・マデラが何かした場合はお付き合いを考えさせていただく。
※※※※※
と、いうものでした。オルビン侯爵家から以外からはやわやわとした文章で綴られていました。特に一般家庭からの三通は一見抗議文とは思えないくらいやんわりとしたかなり遠回しな文章でした。
ん?オルビン侯爵家ですか?それは勿論ド直球ですよ。ほほほ。
まあ、言うなればどの家からも--アリィに何してくれてんの!!今後何かしたら私達はもうマデラ伯爵家とは友好関係も、取り引きもしないからね!--
と、言われてしまったのです。
最初は、その日のうちに早馬でオルビン侯爵家から。
次の日には、一般家庭の、フレイン家、キース家、ルモンド家から。
そしてそのまた次の日には、シルク伯爵家、ハノワ侯爵家から。
そして、極めつけが最後に届いたブロンクス公爵家からの封書だった。
どの家も家族全員の連名だぞ!!!
しかも公爵家!!侯爵家!
……それに一般家庭ってとんでもない!かかりつけの薬屋と、国立図書館司書長の家と、ルモンド商会じゃないか!
シルクデザインにいつもドレスをお願いしているし……。
「今日も手紙が届いたんだが、……お前!本当に何て事してくれたんだ!」
今日も悲しみと怒号の飛び交うマデラ伯爵家でした。
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リトの反省。
「ロイ、すぐに来てくれてありがとう!」
ふふふ。
「そりゃ、アリィに呼ばれればすぐに行くさ!」
はは!
目の前でまだ御婚約もされていなければお付き合いもしていないというのが嘘のようなおふたりを目の前に、先程までの出来事を今一度思い出しているリト。
あのクッキーの安全性を一度確認しようとしていたのにも関わらず、先にアリミア御嬢様に食べられてしまいました。--これは、私の判断ミスです。御嬢様の性格をもっと考慮するべきでした。
それから門番から受け取った時に、Sクラスの御学友なのでは?という報告もありましたので、まさか学生服の男が他の生徒だと疑うことが薄かったです。--門番にまで、御学友様とその御家族のお顔を周知しておく必要が有りますね。
ふぅ。
反省はこれまでにしましょう。




