夜会と企み
あれから、二週間が経ちました。
今日です。
もうすぐロイがお迎えに来ます。
今日の私は、ふわっとした淡い朱色のシフォンドレスです。
グラデーションになるように赤や白のシフォンでお花があしらわれている可愛らしいドレスです。
肩が出ていて、ボリュームが少なめの動きやすそうなドレス。
お母様が張り切りすぎて、ドレスのデザインはお母様とデザイナーさんで決めてしまっていました。
ヘレンに髪をブラッシングしてもらい、綺麗に編み込んだアップヘアにしてくれました。
「いつもながらすごい技術ですね。私の癖毛がこんなにも綺麗になりました。」
「お褒めいただき光栄ですわ。」
「とても好みだわ~。ありがとう。」
次はティナが小物を装着しくれました。
「アリィ様は、お可愛らしいから何でも似合いますわ~。」
「そんな事はないわよ。ふたりがいつも良くしてくれるからですよ。」
これは本当です。
私はごくごく平凡ですからね。そして、センスというものも持ち合わせていません。このおふたりがいないととてもじゃないですが、社交なんて行けません。
顔面がのっぺらぼうな上、まるで自分に合っていないドレスを着て行くことになってしまいますからね。
それはさすがに恥ずかしいです。
「ん~しかしながら行く前は憂鬱ですね。ご挨拶してまわったり、ダンスレッスンも最近はあまりしていなかったですし、そもそもも社交のマナーも……。」
不安要素が沢山ありすぎます。
せめて今日私なんかにお供してくださるロイに御迷惑にならないようにはしようと思います。
「ふふ。アリィお嬢様、お仕度整いましたわ。」
「今日は、御学友様のブロンクス公爵家主催の夜会なのですから、そう心配なさらなくても良いのではないですか。」
「そうですわ。それに、御友人も何人かいらっしゃるようですからお暇される事もないのではございませんか。」
確かに。今まで参加してきた社交では、私生活でそこまで深くお付き合いしてきた友人はいませんでした。
それを思えば今回はとても心強いです。
「そうですわね。楽しんできたいと思います。」
――コンコン。
私室のドアを叩く音と共に、
「失礼致します。アリィお嬢様よろしいでしょうか。」
と声が聞こえてきました。
ティナが開けると、お母様付の侍女さんでした。
どうやらお母様に私を呼びに来るように言われたようです。
「今、行きますわ。」
お母様もお支度が整ったようですね。
「お母様。失礼致しますわ。」
お母様の所へ行くと、
お母様が私の回りをくるくるくるくる。
『……なんでしょう。これは?』
「あの、お母様?」
「ふふ。ヘレン、ティナ!さすがですね。」
「「ありがとうございます。」」
「アリィの栗色の髪にピッタリだわ~。ふふふ~。私の見立てはバッチリね!」
「ありがとうございます。お母様が御用意してくださいましたこのドレスとても素敵です。それにとても動きやすいですわ。」
「ふふ。よかった。今日はダンスも多くなるかと思ったのよ。」
ああ。成る程です。
成人してから初めての社交ですからね。そういう事も増えますね。
ちょっと内心また、先を思ってゲッソリしていると、
「奥様そろそろ御時間です。それから、アリィお嬢様。オルビン侯爵家のロイヤード様がお迎えに来てお出でです。」
リトが呼びにきましたね。
「はぁい。ありがとう、リト。」
ん?なんだかいつも平常心なリトがちょっとだけにんまりしているような?……そう思って周りを見渡すとヘレンやティナもいつもとは少し……?
『ん?』
そう思ってお母様を見ると、ものすごーくニコニコしています。
「さあ、行くわよ!アリィ。」
謎を解き明かす時間はいただけませんでした。
「これならリリーも文句ないでしょう♪」
『?』
『お母様は何を仰っているのでしょうか。』
ですが、時間が迫っているのでお母様の後ろについて足早にエントランスへ向かいます。
どうやらロイはお父様とお話していたようですね。私達に気づいて、
「今晩は。シアード夫人、本日はアリミアさんをエスコートさせていただきます。」
と紳士らしい挨拶をしていますね。
そしてこちらに向き直って、
「アリィ。迎えにきた……よ。」
「「え?!?!」」
ふたりで向き合って初めて気づきました。
ロイのタキシードは朱色っぽいブラウン。
どっからどう見てもペアルックです!!!
「お母様?」
ふたりしてお母様を見ます。
その後ろで何故かお父様は嬉しそうに微笑んでいるのにちょっと泣いています。(←どういう事よ!)
「あらぁ~。とってもいい感じねぇ~!さあ。もう時間ですよ行きましょう。」
と、言って唯一事情を把握していそうな方がスタスタと行ってしまいました。
……もう、会場に着いてから聞きましょう。
トコトコトコトコ……。
馬車が走っています。
その中で呆然としているふたり。
「アリィ?」
「はい。」
「ちょっと驚いた。悪い!たぶんお母様達の仕業だな。」
「やはりそうですか。」
ちょうどそんな気がしていました。リト達がいつもと少し様子が違かったのはそのせいですね。
ガタン。馬車が揺れる。
すると、ロイはさり気なく近づいて支えてくれました。
「だから、言うのが遅くなった。――――アリィ、すごく綺麗だ。///。」
ロイがそう言って真っ赤になるものですから、私まで頬が熱いです。///。
「ありがとう。」
そう言ってロイを見ると、いつものラフな髪型ではなくて少し前髪をかきあげて濃灰色の髪をセットしているロイがいました。
「ほゎぁ。ロイ、カッコいい。」
いつもとまた雰囲気が違い、オトナです!とても素敵で思わず口から言葉が出ていました。
この緋色の瞳をこんなに近くで見るのは久しぶりで少しドキドキしてしまいますね。
ロイはさらに赤くなって驚いていましたが、この人はカッコいいのに本当に可愛いですね。
「本当か?」
「はい!」
にっこり。
反応もいちいち可愛いですね。
「今日はどうぞ、よろしくお願い致しますね。」
「こちらこそ。」
ロイも優しく笑ってくれました。
ふたりの手首には皆と作ったミサンガが。
さあ、馬車がブロンクス公爵家につきました。
「さあ、手を。」
そう差し出されたロイの手を取り会場へ向かいます。
※※※※※ブロンクス公爵家※※※※※
心地良い音楽が聞こえてきます。
馬車を降りたところで、お父様とお母様がどなたかとお話しています。あれは――――。
「はぁ。お父様とお母様だ……。」
そうですね。オルビン侯爵夫妻様です。
こちらに気づいたのでしょう。呼ばれたのでおとなしく向かいます。
「今晩は。オルビン侯爵夫妻様。」
しっかりと御挨拶します。
「アリミアちゃん久しぶりねぇ。あら!あらあらあらあら~。」
「エリー!いいじゃない!」
「ええ!リリーいい感じよね!」
お母様達はとても楽しそうです。やっぱり犯人はこの方達でしたね。
そしてやっぱりお父様達は何も知らなかったようで話に入れていません。
バルバド・ディ・オルビン侯爵。
そして、ライラック・ディ・オルビン侯爵夫人――――リリーさんですね。
「ふふ~素敵よふたりとも。」
「完全にペアにしましたね。お母様。」
「いいじゃないですか!アリミアちゃんと一緒で嬉しいでしょ。」
「それは!……そうですが。アリィが何て言うか。」
「と、言ってますわよ?アリィ。」
「確かにペアで驚きましたが、ロイと一緒なら嬉しいですよ?」
『…………。』
「「ふふふふふふふ。」」
お母様達は何やら楽しそうです。ルーイ様のいつもの笑いに似てますね。
「///。」
ロイは何故か真っ赤で石化してしまいました。
「頑張れよ~ロイ。」
ニヤニヤとオルビン侯爵様。
「アリィ……。」
お父様は何やら嘆いています。
「今日は楽しそうですわね。」
とオルビン侯爵夫人が仰って。
ひとまず本日の主催者様にご挨拶へ伺うことにしました。
お母様達の後から、ロイと一緒に御挨拶します。
「ブロンクス公爵様。本日はお招きいただきましてありがとうございます。オルビン侯爵家ロイヤードでございます。」
「シアード伯爵家アリミアでごさいます。」
「公爵夫人、エルメイ様もご機嫌麗しゅう。」
と、ふたりそろってしっかりと御挨拶出来ました!のに……ルーイ様がニヤニヤしてます。
これは絶対ペアルックの事ですね。
「では。いきましょうか。」
ロイが手を差し伸べてくれます。
「はい。」
にっこりと微笑んで返すと、すっと腰を支えてくれて歩き始めました。
いろんな方への御挨拶周りをし、当たり障りのない世間話等をします。
今日のロイは普段と違います。笑顔ですがお話の仕方も振る舞い方も教室などでみるロイとは別人のようです。
とても大人で、この中では若いのに余裕のある立ち振る舞いです。
「さすがですね。」
「何が?」
私と話す時は元通りの少年のようなロイです。
「いえ。この場では若い方だというのに、他の方と比べても遜色ないなと思いまして。」
「お褒めいただき光栄です。」
ふふ。と笑うロイはとても素敵です。
「でも、やっぱり疲れるな。」
「口調戻っていますよ。」
「少し休憩~!」
時々「お幸せにね~。」などと言われまして、そのたびにロイはぎこちなくなっていましたが一体何のことだったのでしょうか。
そんなこんなで一通り挨拶を済ませた頃、
「ご機嫌よう。」
ピアがやってきました。
「ハノア侯爵令嬢様ご機嫌よう。」
「ピアース様ご機嫌よう。」
私達はふたりそろってわざとらしく挨拶してみせます。
「もう。やめてくださらない?今更そんな風にされると気持ち悪いですわ。」
ピアの反応が面白いです。
ピアのドレス姿は可愛らしいお人形のようです。とても愛らしくて素敵です。
「とてもお可愛らしいです。」
「あら、ありがとう。……にしても――――あなた達凄いわね。」
隣でロイがピクリとしてます。
「これですか。」
ええ、解っています。このペアルックですね。御挨拶の時にもじろじろと見られましたので慣れました。
「仲がいいですね。といろんな方に言われました。」
「アリィ。仲がいいって言うよりそれはもう――――こうに……。」
「だぁー!!待ったー!まあ、それはいいじゃないか。」
何だかロイがピアを全力で止めています。
そして、ピアとこそこそと何か話してます。
「周りは勝手に進めているが、言うこと言ってから進みたいんだよー!頼む!」
「……早くしないと取られますわよ。アリィは鈍感だから何にも気づいてないでしょうが、いつも注目されてるんですからね。」
「わかってる!」
何だかピアが凄い目でロイをみています。
「はあ。まあ、頑張りなさい。」
「じゃあまた後ででね!」
と、ピアは人混みに消えていきました。
こちらに手を振るピアのミサンガが見えなくなった所で、
「ロイヤードくん、ちょっと!」
ロイは年配のおじ様に声をかけられていました。
「ああ。先日はどうも。」
「ちょっとだけ良いかね?」
「はい。」
ロイが私に目配せして、ごめんちょっと行ってくる。とおそらく言ったのでしょう。
向こうであっと言う間におじ様達に囲まれてしまいました。
ふう。では私はひと休みしましょう。人混みを避けて少し端の方に移動しました。
「ここでしたら、少し静かで良いですわ。」
さすが公爵家の夜会ですね。かなり多くの招待客に豪華な御料理。
「凄いですわ。」
きらびやかな光景をぼ~と眺めていたら、
「お飲物はいかがですか?」
と声を掛けられました。
そういえば何も飲んでいなかったので、喉が渇きましたね。
「ええ、いただきます。」
いただいたカクテルは甘くて美味しいです。喉が渇いていたので一気に半分も飲んでしまいました。
「ありがとうございます。とても美味しいカクテルですね。」
といただいた方に御礼申しあげると……『げ。』。
おっと。心の声が下品になってしまいましたね。
ですが、目の前にいたのはThe☆貴族。
「マ……マデラ様。」
「ニコラルドですよ。ラルドと呼んで頂けると嬉しいのですが。」
また出ました。
「マデラ様、先日私が失礼なことを申し上げたのでもうお会いすることがないと思っておりましたが。」
「はは。男は寛容でなければいけないからな。許す。――――だから私の女になれ。」
「……はい?!」
何かまた勝手な事を言っています……ね。
ん?ちょっとフラフラします。
「あれ?」




