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京姫―みやこひめ―  作者: 篠原ことり
第二章 現世編―芙蓉の巻―
22/120

第十一話 白き風の人(下)

「……ただいま」


 扉の閉ざした音の後で、息子の小さな声が聞こえる。「お帰り」と言いながらわざわざ出迎えてみたのは、今日はそんな息子の声の小ささもいとおしく感じられるが故に。あの少女が思い出させてくれたのだ。息子をかわいいと思う気持ちを。


 背が伸びていく。いつの間にか越されてしまった。その母ですら知らない知識をたくさん身に着けて、振りかざされることさえないけれど、そうしたものが息子の頭の触れる度に微かに音をたてるのが分かる。なんだか妙に大人びているこの息子に、気圧されてしまって、今までは頼る事しかできなかった。まるで自分の方が子供であるかのように。でも、司はまだ私の小さな司のままだから……玄関に顔を見せた母親に、司は少し驚いた顔をした。


「塾、どうだった?」

「ああ……別に」

「面白かった?」

「……いや、つまらなかった。知ってることばかりで」


 素直なのだかなんだかよく分からない。靴を並べなおすと、司はそう言って二階へと上がって行ってしまった。息子の白いシャツの背中が完全に消えてしまった後で、司の母親は溜息をつく。せっかく芽生えた勇気がくじけそうになる。あの子の、冷め切った横顔がほころびて、微笑みらしきものが浮かぶ日がくるというのだろうか。それすら想像できない。息子の顔は、いつごろからか氷の下にとざされてしまって。


 塾なんて、よくよく考えれば息子にとっては苦痛でしかないだろう。あれほど人嫌いなのだから、集団で勉強する場が、学校に加えてもう一つできるなんて、息子には苦行以外のなにものでもないはずだ。だから、つまらなかったなんて――それとも私に気を遣っているのかしら。自分が塾に行くと、病院に付き添えなくなると思って?しかし、それは母として思い上がりが過ぎやしないか。いっそ家庭教師でも付けてみようかしら。でも、それもそれでうまくいく気がしない。きっと司のことだ。一対一の濃密な関係を嫌がって、きっと相手をずたずたにしてしまう。それに、塾や家庭教師などなくとも、あの子は十分に勉強ができるのだもの。


 ともかく、お腹は空かせているだろう。人の子だもの……司の母親は気を取り直して、明るい居間の方へと向かい、魚焼きグリルの中に放り込んだ塩鮭の様子を見にいった。ちょうどよく焼けている。火を止めて、味噌汁を温めなおす。あとはこれにご飯と、マカロニサラダと、かぼちゃの煮物、あと生姜焼きも昼の間に作ってあるし、デザートには林檎も買ってある……


 息子が降りてきた音がした。折しも湯気を立てはじめていた味噌汁とご飯とをよそって居間の方に出てみると、息子が何やら拾い上げて、怪訝な顔で見つめているのに気がついた。あれは……


「どうして京野のテストなんかがここにあるんだ?」


 あっ!と司の母親は声をたてた。と、続けざまに笑いがこみあげてくる。


「あら、いやだ!舞ちゃんったら、忘れていったんだわ」

「……京野が来てたのか?」

「えぇ。買い物にいった帰り道にたまたま会ってね。傘忘れたみたいだったから、家まで来てもらって傘を貸してあげたのよ。そのついでにちょっとあがってもらってね」

「傘……?傘ならあいつ、ちゃんと持ってたような」

「あら、よく見てるのね。やっぱり気になる?かわいいものね」


 母親が珍しくからかうと、司はほんのりと頬を染めた。


「ち、違う。ただ帰り道、目の前を歩いてたから、嫌でも目に付いただけで……」

「ふふ、そういうことにしてあげる」

「母さん……!」

「ごめん、ごめん。ほら、座って。お味噌汁冷めちゃうわよ」


 司は椅子に腰かける前に再度改めて舞のテストを挟んだクリアファイルを見遣った。


「しかし、ひどい点数だ……」

「人のテストを勝手に見るんじゃありません」

「見えるんだから仕方ないだろう。32点……」


 一瞬唖然としてみせた司の母親は、慌ててこほんと咳払いをして、サラダと他のおかずを取りに行くべく息子に背を向けた。


「それ、明日返しておいてね、舞ちゃんに」

「ぼ、僕が?」

「当たり前でしょう」


 司はげんなりした顔を見せたが、そんなことも知らずに鼻歌をうたって台所へと消えていく母親が妙に機嫌がよさそうに見えるのに、文句を言う気がつい失せた。なぜだか今日の母親はいつもより明るく見える。なぜだろう。京野舞の訪問が関係しているのだろうか。でも、まさか――あいつが母さんに何を出来るっていうんだ。しかし、司もつい思い出さずにはいられない。あの少女が周囲にふりまいている笑顔に、あるいは驚いた顔に、怒っている顔に、がっかりしている顔に、なぜだかクラスメートたちは微笑みかけるのだ。あの少女は誰もに好かれ、愛されている。自分とは対照的に――32点。彼女はテストの点数以上に、人生を明るいもので満たしてくれるものを知っている。舞は人から大切にされる術を、しかもそれを媚態と呼ばせることなく、ごく自然に知っていた。


 砂の城の尖塔が崩れる時、その変化は傍目にはごくわずかではあるけれども、塩辛い水と幼い手によってならされた城壁は、その上を流れていくものを確かに感じるだろう。司は表情にすらも表われ得ない心の変化を、その時確かに感じていた。なにが彼をかくも気弱にさせたのかは分からなかった。ただ、少年は砂の城ならぬ氷の城をそびえさせる心の内にも、陽だまりの生まれる余地があることを見抜いてしまったのである。

 自分も母も、あの少女の絶えず変化する表情に振り回されて、つい笑い合うこともできたらいいのかもしれない。あの少女の優しさに頼ってみることもできたら。あの幼馴染の少女に……



「なにも知らないくせに!」



 頭の中で鳴り響いた悲痛な叫び声に、司は思わずファイルを取り落とす。



「あなたは、あなたは、私のことなにも知らないじゃない!知ったような口きかないでよ!」



「あなたは司なんかじゃない!結城司じゃない!」



 駄目だ。司はズボンの裾をきつく握りしめて、それからふと肩をすくめる。一瞬の諦念のうちに、氷の城はかくして矜持きょうじを保った。自分は、あの少女にさえも拒絶されてしまっている。誰もに微笑みを振りまいているような少女にさえ。どうして自分は、人に嫌われる術しか知らぬのだ。どうして、あの少女のように……





「まーい!今日空いてる?」


 帰りの会が終わるなり美佳が背中に飛びついてきたので、舞は「うわっ!」と叫びながら前のめりになって危うく倒れそうになった。翼がその顔面を片手の掌で支えてくれたので、舞はなんとか転倒を免れた。ただし、舞の鼻は完全につぶされたが。


「お前、ひっでーなぁ。仮にも人の顔面に向かって。それでも女子かよ」

「うるさいっ!」


 その様子を眺めていた恭弥が漏らした言葉に、翼が怒鳴る。なんとか体勢をたてなおした舞は尚も背中に引っ付いている美佳に鼻先を抑えながら、涙目で言った。


「もう、美佳ったら危ないじゃない……!」

「ごめんごめん。でっ、今日空いてる?」

「ごめんね、今日はちょっと……」

「うっそー、なんでよ?!理沙たちと買い物いくのよー!ついでに新しく出来たかき氷屋さんに行くのに!」

「そうだよ、舞ちゃん行こうよ!」

「ほらー、優美がこうやってお願いしてるのよ!」

「京野さん、ちょっと……」

「佐々木!今私たちが舞に大事な話してるのがわからないの?!」

「ねぇ、舞ー!」

「えーと、ちょっと、用事があって……」


 白崎ルカを探すために、とは言えない。その日の昼休み、舞は翼と奈々とに白虎の正体を発見したことを打ち明け、校内新聞の写真を示したのである。白虎の目撃者である奈々はすぐに写真の少女が白虎であることに気がついてくれた。そこで、三人は相談して、兎にも角にも今日の放課後に水仙女学院へと向かい、白崎ルカを探し出すことに決めたのである。美佳、間島、優美、楓、理沙、学級委員の佐々木、それに翼と恭弥という、いつぞや舞が保健室に運ばれた際のメンバーに囲まれて、皆が口ぐちになんやかやというのをやり過ごしている間(翼と恭弥は二人でなにやら口論していたのだが)、ふと、舞は自分の横顔をまっすぐに見据えている何者かの視線を感じて、そちらを見遣った。と、舞の胸は大きく跳びはねそうになる。結城君……?目が合った瞬間、司ははっとして顔を背けた。一体なんだというのだろう。そんな意味ありげに見られると、なんだか落ち着かない。


 と、司が心を決めたかのように、突如舞に向かって歩き出してきた。


(?! 一体なに……?!)


 美佳たちの抗議も耳に入らぬ舞が唖然としていると、司が鞄の中に手を差し入れ、見慣れたうさぎのキャラクターが描かれたクリアファイルを取り出して、舞の方へとつと差し出した。舞はそれを見下ろした後、一瞬間を空けて「ああっ!」と叫んだ。司は舞の顔をまともに見ないまま、背けた顔で冷やかに鼻を鳴らした。


「こ、これ……!」

「忘れ物だ……もう少しまともな点をとったらどうなんだ」

「う、嘘……ま、まさか見た、の…………?!」

「……見えるようになっているのが悪い」


 司はさっさと言い捨てると、舞の前の机にファイルを置いてくるりと踵を返し、足早に去っていった。その後を、恭弥が追いかけていく。舞は絶望の面持ちで机に手を突いた。信じられない。まさかあのテストを結城家に忘れていくなんて。よりよってこんなテストを。せめて、国語であったらまだよかったものを。


 もう少しまともな点をとったらどうなんだ――舞は司の言葉を反芻はんすうして思わずうめいた。司の母親にも見られただろうか?


「えっ?なんで結城君が舞ちゃんのテストなんて持ってるの?」

「なによー、いつの間にそういう関係?」

「そ、そういう関係っていうのはどういう意味だね、間島君?!」

「黙んなさい、佐々木」

「しっかし、ほんとひどい点数ねー」


 言われなくとも分かっておりますとも……舞は美佳の言葉に涙ぐみながら胸中ひそかに呟いた。翼が呆れて溜息をつくのが聞こえる。


「まったく……」




「では、翼殿は図書館を捜索、奈々殿は校門前で待機、姫様と私は高等部の校舎を捜索、ということでよろしいですな?」

「りょーかいっ!」


 水仙女学院高等部の校門前でそれぞれの健闘を祈り合った少女たちは、左大臣によって言い渡されたそれぞれの持ち場へと向かうべく別れていった。舞が高等部の校舎の捜索にあたることになったのは、姉を訪ねるという絶好の口実があったためで、あとは奈々が校門前で下校しようとするルカを待ち受け、翼が、舞がルカとの邂逅を果たした場所である大学図書館を探すという分担になった。しかし、彼女たちはルカが見つかったとして、どう話しかけたらよいものかということはまるきり分かっていなかった。とにかく行動あるのみだという信念に突き動かされて、はるばる桜花中からここまでやってきたのである。


「うっわー、大きい門。なんか緊張するなあ」


 一人で大きな声でつぶやいている奈々を、水仙女学院の生徒たちが振り返って見つめている。舞と翼は肩をすくめつつ、舞は校門の中へ、翼は大学への入り口の方へと回るべく別れて手を振りあった。舞は深呼吸して、水仙女学院高等部の敷地内へと踏み込んだ。校門脇に立っている警備員は、見慣れぬ制服姿の女子生徒をじろりと横目で見たが、なにも言わなかった。学校見学にきた中学生だとでも思ったに違いない。


「どうしよう、左大臣……なんか、緊張してきた」


 舞は鞄の中にこそっと囁きかける。姉の通っている学校だといっても、水仙女学院高等部の敷地に入ったのは、これが初めてである。校門をくぐると、白い敷石で舗装された幅の広い道が校舎に向かって真っすぐ進み、その道の両脇から先の見通せぬほど密に体を寄せ合った白樺の林が続いていた。その林と道との際にあって、等間隔に設置されている電灯は、明治期のガス燈をイメージしたような妙に凝った洒落たデザインで、その下を、まだ電灯の恩恵は受けぬまま、清らかな白い頬を、自然の光線と、それから持ち得る限りの若さで以って輝かせて歩く少女たちは、まるで天上の天使たちのように、些末な苦労さえ知らないような笑声をさざめかせていた。


「しかし、姫様、猶予はありませぬぞ。一刻も早く白虎殿を見つけ出さなければ……!」

「そんなことはわかってるけど……!」


 とにかく姉にさえ見つからなければいいのだ。そうすれば、道に迷ったふりをしていくらでも白崎ルカを探すことができる――舞はすれちがう少女たちの顏をいちいちうかがった。その視線に気付いて、この可愛らしい訪問者に微笑みを向ける者も幾人かはあった。舞は思わず赤くなって目を逸らしたが、そうした少女たちのいずれもが、純白の、袖と襟に紺色と灰色のラインの入った、紺色のリボンの飾りのあるセーラー服を着ている少女たちであった。白い学ランを纏っている者は一人もいない。


 中央に尖塔のある真っ白い壁の校舎にたどり着いた舞は、尖塔より零れてきたあの無機質なチャイム代わりの鐘の音に思わず顔をあげた。舞の目に、白い壁を駆け下りてきた淡い日差しがぶつかって砕けた。舞が思わず目を細めたその時、背後から何者かが舞の背中を小突いた。この悪意ある児戯を受けたその直後から、舞は振り返る前よりとも犯人がわかってしまった。聞きなれた声が降ってきたためである。


「まーいー…………なーんであんたがここにいるのかなあ?」


 思いがけず妹の姿を見出したゆかりは、ぐっと固めた拳に浮かぶ血管を見せつけながら、目元にかげりのある晴れやかな笑顔という矛盾しきった表情を以って妹への歓迎の意志を示していた。舞は思わず後ずさる。


「お、お姉ちゃん……!」

「どうして、桜花中学二年生のあんたが水仙女学院高等部にいるのかしら?ねぇ、舞ちゃん?」

「えっ、えっと、学校見学、とか……?」

「ほーう。それで見学はごゆっくりできましたかねぇ?」

「ま、まだこれからだよ!あはは!お姉ちゃんに案内してもおうかなあ、なんて」


 ゆかりは舞の肩に手をぽんと置くなり、母親が怒っているときによく浮かべるあの独裁者的微笑みを浮かべて、校門の方を指さした。


「そりゃあ、もちろん喜んで。お帰りはあちらです」


 と、ゆかりは途端に笑顔を崩して舞の方にぐっと顔を近づけた。懸命に目を逸らす舞に、姉の低い声が囁きかける。


「あんた、まさかと思うけど、白崎先輩に会いにきたんじゃないでしょうねぇ?」

「な、なんで、そんなこと、私が……」

「私の校内新聞持ってったの知ってんのよ?いい?姉に恥かかせたくなかったら、とっとと帰れ。今すぐに」

「だ、だから、違うって……べ、別にいいじゃない!お姉ちゃんの学校見学したって!」

「よくない!どうせろくでもないことしかしないくせに」

「ひどい!いくらなんでもひどすぎる!お姉ちゃんだって……!」


「あら、妹さん?」


 優しい声にびくっとしたのは舞よりゆかりの方らしかった。共に校舎の方、階段を数段のぼった昇降口のあたりを振り仰いだ京野姉妹は、そこに薄紫色の髪を一つにまとめた三つ編みを左肩に流した、見るからに優雅でやわらかな物腰の女子生徒を認めた。階段を降りてくる彼女の周りに咲き誇る薔薇の幻影を、舞は目をこすって掻き消した。けれども、幻の花の香りは確かに彼女のさやさやと揺れるスカートの裾のあたりから漂ってくる。

「か、香苗かなえ……!」

「ごきげんよう、ゆかり……こちらは妹さん?」


 姉が稚拙な虚偽を弄するより早く、舞は「はい」と答えていた。


「は、初めまして!妹の舞です」

「初めまして。お姉さまのクラスメートの北条院ほうじょういん香苗と申します。以後お見知りおきを……まあ、かわいい妹さんね」


 香苗が舞の頭を撫でるのを見て、ゆかりは、まるで昆虫館の最奥部のガラスケースの前に突き出されたときのような顏をしてみせた。


「やめてよ、香苗……そんな丁寧に挨拶せんでも……」

「あら、だってゆかりの妹さんだもの」

「妹じゃないわよ、そんなの」

「なによー、その言い草!いくらお姉ちゃんより出来が悪いからってねぇ、そんなこと言う資格、お姉ちゃんになんか……!」


 怒って両手を振りあげる舞を、香苗は優しく制した・


「ふふ、舞さん、落ち着いて。まあ、本当にかわいいわ。お姉さまがあんなにひどい言い草をするんですもの。いっそ、わたくしの妹にならなくって?」

「えっ……えぇ?!」


 香苗が舞を抱きしめるのにも、ゆかりは勝手にどうぞ、とでも、とんでも物好きがいたものだ、とでも言いたげな表情を浮かべてみせる。姉が完全に妹を放任することに決めたらしいので、かえって香苗は気楽になったように、こまごまと舞の面倒を見始めた。


「舞さん、今おいくつなの?」

「え、えっと、中学二年生です」

「まあ。この学校に進学するのね?」

「えっと、あの、そ、そういう訳ではないと……思うんですけど……」


 無理無理、とゆかりが首を振っているのが見える。舞はむっとして姉をにらんだが、香苗はもうすっかり舞はこの学校に入るものと思い込んで、計算をしていた。


「舞さんは今中学二年ということは、私たちが三年生の時に一年生ね。一年だけでも一緒にいられるわ。楽しみね。そうだわ。せっかくだから見学していったらどうかしら?案内してさしあげる。ゆかり、妹さんをお借りしてよ」

「そりゃ、構わないけど……それよりあんた生徒会の仕事はいいの?」

「平気。もう終わらせちゃったもの。そうだ、舞さん。せっかくですもの。生徒会室に案内してさしあげるわ」


 「えっ?!」とゆかりが飛び上がる。


「ゆかり、どうかして?」

「いやいやいやいや!まずいでしょ。仮にも他校の生徒を生徒会室にいれちゃあ……」

「大丈夫よ。副会長特権だもん」

「だもん、ってあんたね……いや、でもやっぱ……!」

「ほら、参りましょう、舞さん。手を繋いでいてね。迷子になると危ないから」

「は、はあ」

「こら、待て!香苗!」


 ゆかりの必死の制止も届かず、香苗は舞の手を引いて校舎のうちに消えて行ってしまう。運動部のゆかりの脚を以ってすれば追いついたであろうが、ゆかりはなんだかあまりのことにふらふらと気が抜けてしまって追いかける気にもなれなかった。舞が生徒会長に、白崎先輩に会ってしまう……なんてこと……ゆかりはその場に手足を突きかねない勢いだった。舞のやつ、くれぐれも変なことをしでかさなければいいのだけれど。


「生徒会長に睨まれたら、あたしの学校生活はおしまいよ……」




 掃除の行き届いた明るい校舎の中を香苗に手をとられて歩く舞に、天使たちの好奇の視線が投げかけられた。すれちがう人は、誰もが香苗に向かって「ごきげんよう」と挨拶をして軽く会釈をしていった。姉も普段はこんな風に挨拶を交わしているのだろうか。想像した舞は、思い描いたものの不気味さを、首を振って追い払った。あまりにも恐ろしすぎる光景だ。


「どうかして?」

「いえ……あの、姉もあんな風に優雅に挨拶してるのかなって思うと、なんかおかしいっていうか、気持ちわる……」


 舞が最後まで言いきらずとも、香苗はくすくすと笑った。


「まさか。ゆかりはあの通りだもの。いつもわたくしの肩を思い切り叩いて挨拶するわ。先生方には怒られているけれど、一向になおる気配はないわね」

「それを聞いてちょっと安心しました……」


 舞は心からほっと安堵の息を吐いた。またもやすれ違った一団が香苗に挨拶をする。そうして舞に親しみと好奇の目を向ける。彼女たちは舞の顏よりも、結ばれた二人の手により長く視線を浴びせるのである。舞はいよいよ手を繋いでいるのが恥ずかしくなってきた。なんだか自分がひどく子供になったように思われて。ただでさえ、高校生に比べると中学生の自分は子供っぽく見えるのに。それにこの学校の生徒は異様に大人びて見えるから、舞はますます幼い未熟な自分を思い知らされるようだった。舞は香苗の手足が鹿の四肢のように均整がとれていて美しいことに気がついた。この清潔な廊下を歩むには、こんな長い脚が必要じゃないのかしら……そういえば、ルカさんの手足も美しかった。学ランの袖と、ズボンの裾とに包まれてはいたけれど。


「舞さんは、何の教科がお好き?」


 香苗が訊いたので、舞ははっと顏をあげた。


「えっ、わ、私はその……家庭科、とか」


 あら、かわいらしい、と香苗は微笑む。


「ゆかりの妹さんだもの。きっと優秀でいらっしゃるのね」

「いえ、全然。私、姉とちっとも似てなくて、勉強、本当に苦手で……お姉ちゃんは本当にどんな教科でもできるけど……」

「あら、ゆかりにも苦手教科が一つあることを知らなくって?」


 不思議そうに顔を上げる舞に、香苗は片方の指をぴんと立ててウィンクしてみせた。


「ゆかりが意地悪だから、教えて差し上げるわ。ゆかりはね、音楽だけは苦手よ。特に歌がね」

「歌……」


 音楽に関しては、舞はなんとも複雑な地位を保っている。桜花中学の音楽の先生は、舞のリコーダーのひどさには毎回崩れ落ちずにはいられないのだが、その歌声の美しさには涙を流して絶賛の拍手を惜しまない。そんな舞の姉であるゆかりが、歌が苦手だなんて。

 舞は思わず笑いだしてしまう――知らなかった。姉にも苦手なものがあるなんて。


「秘密にしてね、舞さん?」

「はい!」


 二人の笑いが四階の廊下に音楽のように響いていく。その挿話が、舞を向かうべき場所へ辿り着けるように押し上げていたことを、舞は知らない。気がつくと、舞とは生徒会室の前に立っていて、香苗がその扉に手をかけている。


「さあ、ここが生徒会室よ」



 香苗が扉を開けた瞬間、舞ははっと息を呑んだ。生徒会室の奥、窓辺に立ち尽くしている後ろ姿――学生帽をその頂きに載せた長い金色の波打つ髪、白い丈の長い学ランに包んだすらりと伸びた体、ズボン越しにも薄らと筋肉を纏っていることがわかる長い脚。かの人は、何か物思うように窓の外を眺めている。その手に握られているのは……眼鏡?


 と、香苗の手が舞の手をはらりと取り落とした。だが、舞もまた、かの人の後ろ姿を眺めることに夢中になっているので気がつかない。香苗の瞳は激しく震えを帯びているのに。


「会長……」


 香苗の声に気付いて、ようやくその人は他人の存在に気がついたようだった。まるで寝起きの人のような鈍さで「あぁ」と低い声を発して、かの人は疲れたように振り返り、そして舞の姿を認めた。途端にアイスグレーの瞳が大きく見開かれ、薄い唇から声ならぬ声が発せられるのが分かる。衝撃と苦痛の調べであると、舞の鋭敏で音楽的な耳は悟った。舞はここに来て傷ついた。よもや、自分の姿を認めたルカが、そんな声を発するものとは思わなかったのである。


 白崎ルカは逃れたそうに一歩後ろの方に退こうとして、窓と壁とに行き先を遮られた。帽子がその頭から転がり落ちる。


「会長?」

「どうして……どうして、貴女あなたが……」


 ルカの声は掠れていた。今度は衝撃に苦痛が立ち勝っていた。舞の心はますます砕かれたが、この場を繕うような力のあるものが此処では何一つ生まれる見込みのないことを、ルカの目に見取ってしまっていた。舞が身を翻したとしても、倒れた花瓶を戻したところで零れた水の元にはかえらぬように、ルカの苦しみは癒えないのであろう。そして、また、舞の傷口も……


 こうなっては仕方がない、と舞は一瞬爪先に落とした目を毅然と掲げ、ルカの方に向かって一歩踏み出した――私は京姫だ。だから大丈夫。私には四神を集め、漆を倒すという使命がある。


「ルカさん……会いにきました」


 舞は首から下げた鈴を外して、ルカの方に突き出して見せた。香苗がなにがなんだか呑みこめないという様子で眺めているのも、舞はもう気にしなかった。


「ルカさん、一緒に戦ってください。私たちにはルカさんの、いいえ、白虎の力が必要なんです」

「し、しかし……」

「螺鈿との戦いのとき、私を助けてくれましたよね?どうしてあの後でいなくなっちゃったんですか?だって、私たち、一緒に戦えるじゃないですか……!どうして覚醒しているのに、すぐに会いにきてくれなかったんです……?私たち、ずっと、ルカさんを探してたのに……」


 舞は自分の手の先で揺れている鈴の向こうに、激しい葛藤を浮かべているルカの瞳を見た。青ざめた顔で立ち尽くすルカの足元は、その心の揺動に全神経を傾けているせいかよろめいてすらいるというのに、ただ眼鏡を握り締める手の力だけがますます強くなっていくようで、手の甲が紙のように白くなっている。なにをそんなにこの人は迷っているのだろう。戦うことへの恐怖ではない。躊躇ためらいではない。この人は剣をひらめかせて、颯爽と戦場に現れたではないか。なにが、この人を私たちから引き離そうとするのだろうか……この人の深い敬愛を、舞はもうその手に受けて知っている。


「白虎……」


 呟く舞の目が潤みを帯びてくる。咄嗟にそこから目を逸らしたルカは、それを機にようよう心を立て直せたかのように窓辺にもたれかかっていた身を起こし、床に転がり落ちていた帽子を拾い上げて少し払うと、頭の上に被せた。そのつばで深く目元を覆ったルカは、椅子の上に置かれていた自分の鞄を持ち上げると、すたすたと歩いて舞の横を通り過ぎていく。香苗の傍らまでやってきたところでルカは前を見つめたまま、ただ通り過ぎ様にその学ランの肩に微かに触れていった温もりに心の全てを課そうとして、それを必死に堪えるかのように、苦しげに口を開いた。


「人違いです……」

「ルカさんっ!」


 舞の声は上ずった。それでも、ルカは振り向かない。


「私にはなにを言っているのか、さっぱり……」

「嘘っ!」


 舞の叫び声に苦悶する肩を見たのは、香苗ばかりである。


「……では、失礼」


 ルカは足早に廊下を去っていく。「待って」と後を追おうとする舞を、香苗の手が引き留めた。そこで改めて香苗の存在に気付いた舞は、香苗の胸にぎゅっと閉じ込められる。


「香苗さん……!」

「いけません、舞さん」

「でも……!」


 香苗はますます舞をきつく抱きしめると、舞の頭に頬を宛がった。


「お願い、舞さん……会長をそっとして差し上げて……」




「違う、違う……あれも違うっと」


 電柱の陰からその前を通り過ぎていく水仙女学院の生徒たちを一人一人指さしながら、ぶつぶつなにごとかを呟いている見慣れぬ制服姿の少女の前に差し掛かると、笑いさざめきあっていた女子生徒たちも顔を見合わせ、怯えたように小走りになって通り過ぎていく。けれども、奈々はまるで構う様子もない。


「ぜーんぜん、見当たらないもんなー。似てる人さえいないもん。今日学校休んでたりして」


 奈々は大きすぎる独り言を言いながら、電柱の陰からぴょこりと顔を出して校門の方を覗いてみる。


「舞ちゃんと翼ちゃんは見つけられたかなあ?」


 ……と、奈々は鞄をその場に取り落とした。鞄を取り落とした指先はそのまま宙に固定されたかのようにぴくりとも動かない。やがて、爪先から体を駆け上っていくものがあると、奈々はようようその指を折り曲げてきつく握りしめた。全神経を研ぎ澄ませて、確かめる。やはり――間違いない。


「冗談でしょ、こんな時に……!」


 奈々は首から下げた鈴を制服の襟の間から取り出した。確かに鈴の音がする。聞き間違いではなかったようだ。敵が現れたのだ。恐らく、この近くのどこかに……


 奈々は鞄を引っ掴んで、水仙女学院の校門めがけて駆け出した。さすがの警備員も、この風変りすぎる少女に対しては制止を試みたが、奈々はその手が伸びるより早く校門を抜けていた。走りながら鞄から携帯電話を取り出してみて、それから奈々は舞も翼も携帯電話を持っていないことに気がついた。そうだ。今日は学校帰りだから。奈々は足を止めた。舞と合流しようと思って女学院の敷地内に飛び込んではみたものの、連絡がつかないのでは無意味に走り回るばかりになってしまう。それなら敵の居場所を突き止めた方が早い。奈々は白樺の林の中に身を隠すと、日の光に向かって鈴をかかげた。すると、鈴を透かした日差しが奈々の足元を照らし、花の影が芽生えて奈々の足元を覆い始める――奈々は玄武へと変身した。


「どこにいるんだ……?」


 玄武の耳に響いてきたのは、校舎の方より波のように広がってきた女子生徒たちの悲鳴であった。その声を聞くなり、玄武はすばやく弓を構えると、天高く矢を射て、目を閉じた。突き刺さった矢の振動が玄武の鼓膜を震わせる。流れ込んでくる光景……校舎の更に奥――サッカー部のユニフォーム姿の女子高生に襲い掛かろうとした鹿のような怪物の背に、矢は刺さったようだ。断末魔の声をあげて、怪物の体が掻き消える。矢が支えてくれていたものを失って、地面に突き刺さる。獣、虫、蜥蜴とかげや蛙、様々な醜悪な姿を持った怪物たちの四つや六つや八つもの足が地面を駆け、這い回る、そのとどろきが聞こえてくる。


「校庭……!」


 玄武は再び走った。騒ぎを知ったらしい女子生徒たちが、白い敷石の道を走ってくるのが見える。玄武は彼女たちとぶつからないように白樺の林の間を、木を避けながら突き進み、校舎を大きく迂回して校庭側へと出た。校庭の白い砂が玄武の目に光りはじめた瞬間、木の上より黒い猿のような怪物が奇声をあげながら飛び降りてきて玄武に躍りかかったが、玄武が反応するより早くその首に巻いた領巾ひれがはらりと外れて白い大蛇の姿となり、猿の怪物を食いちぎってそのままごくりと飲み干した。


「も、もうちょっと、穏やかなやりかたはないの……?」


 怪物の返り血を浴びて尋ねる主にむかって、白蛇はぶんぶんと頭を振った。


「そ、そう……」


 背後に怪物の気配を感じて、玄武は弓矢を構えた。放った矢が急降下してきた巨大な鳥の化け物の頭を貫き、弓を構える玄武に飛びかかってきた怪物どもを白蛇が尾で払い、あるいはその首を食いちぎる。


「……思いだした!」


 蛇と共に駆け出しながら、玄武は叫んだ。


「この弓の名前はねぇ、神渡かみわたし!でもって、君の名前は……えっと……そう……!木守こまもり!こまちゃんだ!」


 駆けつけてくる玄武に気がついて、怪物どもが押し寄せてくる。玄武は弓を引くために立ち止まり、その体に木守が巻き付いて頭だけをもたげさせる。木守が敵の群れに突っ込んでいくと、玄武の矢はすぐさま頭上に向けられて烏ほどもある巨大なはえの体を射た。蠅の体がすぐ足元に落ちて、紫色の体液が泡立つのに、さすがの玄武も「うわあ……」と言いながら思わず後ずさる。その背中を狙うものがあった。


『桜吹雪!』


 空より可憐な声が降ってきて、玄武の背後に桜色の影が舞い降りた。玄武の背を狙っていた爬虫類の狡猾そうな手は瞬く間に消え去った。玄武はぱちぱちと目を瞬いた。京姫が校舎三階の窓から飛び降りてきたのである。


「姫!」


 玄武の驚きに、京姫は無頓着であった。


「敵はっ?!」

「怪物がいっぱい……左大臣は?」

「左大臣はみんなを避難させてるの。校舎にも何匹か入ってきちゃったから。青龍はまだ?」

「そりゃ無茶だよ。大学の校舎からここまでだいぶ距離が……」


「こらっ!戦ってる途中によそみするな!」


 まだ来ないと思っていた声に怒鳴られて、京姫と玄武は飛び上がる。くるりと首を方向転換した二人に、頭を斬り離された熊の体が飛んできた。二人は慌ててそれを避ける。青龍は木守に背後を守られ、凍解いてどけを怪物に切りかかった時の姿勢のまま構えて校庭の中央に立っていた。


「もうっ!しっかりしてよね、二人ともっ!」

「す、すみません……」


 京姫と玄武は至極まっとうなご意見に素直に反省してみせる。その間にも、青龍は、鋭い爪を立ててきた怪鳥の羽をわずかな動作で破ってみせた。


「ほらっ、木守ばかりに戦わせてないで、自分たちも戦って!」


 玄武はその場に踏みとどまって遠距離からの援護と、上空を飛び回っている化け物たちの退治に専念し、京姫と青龍とは、校庭に突如として湧き出てきた怪物の群れを呪術と刀とで倒していく。京姫の手元からは常に桜の花弁が舞い、凍解は絶えず午後の光を受けて鈍い光を放っていた。数十頭ほどもいた怪物たちも三人と一匹の奮戦のうちに姿を消し、三人もせいぜい浅い切り傷程度の怪我で乗り切った。戦闘が終わって、三人は十分に周囲を警戒しながらも身を寄せ合った。じりじりと近づき合った三人は、互いに手が触れ合えるほどの距離まで近づいて、初めて安堵できた。


「どうやら終わったみたい……」


 青龍が言う。青龍は腕に負った傷を袖の上からきつく縛り付けていた。玄武がすぐに手を充ててそれを治してやった。


「ありがとう」

「しっかし、なんの騒ぎだったんだろうねー?なんでこんなところ襲ったんだろう?」

「私たちがここにいることに気付いてたのかも……」

「敵は常にあたしたちを監視してるって訳ね。だったら寝込みでも襲ってくればいいじゃないのよ」

「青龍、それ問題発言……」

「うるさいっ!」


 パトカーのサイレンが聞こえてくる。どうやら誰かが警察に連絡を入れたようだ。それに校庭の方へ人が駆け寄ってくる気配もする。三人は顔を見合わせて、互いの格好を見遣った。改めて見ると奇妙な格好である。それに、奇妙なことより悪いことには、刀やら弓やらさらには大蛇やら、まず警察が興味を抱かずにはいられなさそうなものばかりを三人が持っていることである。三人は無言のうちに、変身を解いて、この場を去ることを決めた。


 舞が変身を解いた瞬間であった。革靴の裏に尋常ではない揺れを、まるでなにかが地面の下を掘り進んでいるかのようなうごめきを感じたのは。舞が振り返るよりも先のことであった。地面の中から暗紅色あんこうしょくのぬめぬめした体を持った、緑色の無数の足を手に入れる代わりに目を失った、蚯蚓みみずにも似た化け物が地面を割って現れたのは。翼と奈々がはっと息を呑む。しかし、二人が鈴に手を伸ばしても、怪物が舞に飛びかかるのには到底間に合わなかった。


「舞っ!」


 一発の銃声が響いた。蚯蚓の頭かと思われる部分が吹き飛んで、気味の悪いねばついた体液と肉片とが周囲に飛び散った。舞は自分をほぼ反射的にぐいと自分の方に引き寄せた翼が、「ひっ……」と声をあげるのを耳元で聞いた。舞のスカートの裾にも怪物の血液らしい青い液体が付着したようであったが、舞はまず、翼の胸から顔を上げ、怪物の体が地面に空いた穴の中へと縄のようにずり落ちていくのを確かめるなり、校舎の屋上を仰いだ。銃声はそこより響いてきた。舞の目に、金色の髪をなびかせて去っていく人影が見えたように思われた。


「ルカさん……!」


 またもや助けてくれたのか。白崎ルカは。白虎の力を持つ者は。でも、どうして?どうして同じ地面に立って、共に戦ってはくれないの?ルカさん。あなたは何を頑なに守っているのですか……?




 また余計なことをした。前回大学のキャンパスで京姫を蜘蛛の急襲から救ったときも、螺鈿との戦いの折に駆けつけたときすらも、柏木の奴に嫌味を言われた。今度もやはり何か言われるだろう――そんな行動は敵に居場所を知らせるようなものだ。お嬢様に万が一のことがあったときはどうするのだ。姫様の元で戦いのなら、さっさと参上しろ。お嬢様のことは俺が一人で守る、と。


 屋上から校舎への出入口に差し掛かり、ルカの顔に電気をつけていない最上階の踊場の暗さが圧し掛かる。と、ルカは後ろ手でドアノブに手をかけるなり、荒々しく引き寄せて扉を閉めた。ルカは怒りと屈辱とを噛みしめる。

 ルカは知らない。閉ざされた扉の向こう、水仙女学院高等部の屋上で、狐の耳と尾とを持った水干すいかん姿の少年がふわりふわりと浮かんでいることなど。その顔が横罅よこひびの走ったように笑ったことなど。彼がルカの背に葛の葉を一枚、貼り付けていったことなど。


 篝火かがりびは呟く。


「みぃつけたっ、と」






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