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ストーカーのクッキー食べないで!

「……」

 家庭科室で、エプロン姿な彼女の視線に気づいてないフリをしながらレシピを読む。

 今日の家庭科は調理実習ということで、クッキーを作るのです。

 多分彼女は、俺の作ったクッキーを狙っているんだろうなあ。

 そう考えると、頑張ってクッキー作らないとと思ったのですが。



「……!?」

 出来上がったのは見事な産業廃棄物。

 もう見た目からしてヤバイ。どうしてクッキーを焼こうとしてダークマターができるんだ?

 遠巻きに見ている彼女ですら若干引いています。

 試しに口の中に入れてみると、なんとも言えない味。

 なんとも言えませんが、ゲロマズです。すぐに流しに吐きだしてしまいます。

 漫画のヒロインは『見た目はまずそうだけど味は美味しい料理』か『見た目は美味しそうだけど味は殺人級』な料理を作りますが、まさか見た目も最悪味も最悪なものを作ってしまうとは。

 とにかくこんな物食べられませんし、彼女に食べさせるわけにもいきません。

 産廃を詰めた袋ごとゴミ箱に捨てようとしますが、

「……」

 彼女の獲物を狙う視線に思いとどまる。ここでゴミ箱に捨てたところで、彼女はこっそりそれを漁って産廃を手に入れてしまうでしょう。学校でゴミ漁りなんてさせたくないし、彼女にこれを食べさせるわけにはいかない。

 授業も終わったので袋をカバンにしまい、教室へ戻りますが、

「……」

 ずっと彼女は俺の作った産廃を狙っている。ちょっとでもカバンから目を離せばその瞬間に袋を取られてしまいそうだ。

 俺は教室を飛び出して、全速力で走る。彼女をまいて、彼女のわからない場所に袋を捨てようと考えたわけだ。

 彼女も教室を飛び出して俺を追うが、運動神経で俺が彼女に負けるはずもない。

 あっというまに彼女は見えなくなったので、俺は安心して空き教室のゴミ箱にそれを捨てようとする。

「……」

 しかし彼女の気配を感じる。かなり彼女を引き離したはずなのに、追いつかれただと!?

 ひょっとして俺はGPSでもつけられているのではないだろうか?

 それとも匂いか? この異臭のする袋の匂いをかぎ分けているのか?

 改めて彼女の恐ろしさを垣間見る。彼女は気配を隠す技術は未熟でも、他人を追跡する技術は一流のようだ。

 諦めて教室に戻る。丁度休憩時間も終わり次の授業だ。



 授業中、産廃の袋を見ながら悩む。

 いくらなんでもこれを彼女に食べさせるわけにはいかない。

 しかしこれが存在する以上、彼女の魔の手から逃れることができない気もする。

 何より、

「……」

 彼女の獲物を狙うような目、結構プレッシャーがかかるのだ。

 俺は彼女に恋する視線を送って欲しいのだ、あんな視線送って欲しくない。



 よし、自分が生みだしたものは自分で処理しようじゃないか。

「……! ……」

 授業が終わり休憩時間になる。

 俺は意を決して、口の中に袋の中のそれを全て詰め込む。彼女は残念そうだ。

 途端に身体中に広がる毒。良かった、彼女にこんなものを食べさせなくてという安堵の気持ちとこんなもの食べるんじゃなかったという後悔の気持ちが入り乱れる。

 駄目だ、体がおかしい。口が溶けてしまいそうだ。何か、何かで中和しなければ!

 毒で正常な判断のできなかった俺は、ふらふらと歩いて近くの席に置いてあったクッキーの袋を取り上げると、中身を全て口に詰め込み咀嚼する。

 そうそう、これだよこれ。これがクッキーの味だよ。

 何とかまともなクッキーを食べて正常になった俺は、同時に自分のやってしまった事の重大さに気づく。

 ……人のクッキー食べちゃったよ! どうしよう、女の子が好きな人にあげるためのクッキーとかだったら。自分のと間違えて食べちゃいましたじゃ許されないよなあ……

 一体誰のを食べてしまったんだと席に座っている人間を見ると、



「……♪ ……♪ ……♪」

 幸せそうな顔をして、フリーズしている彼女のでした。


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