ストーカーにシュートを打たないで!
「……」
隣のクラスとの体育の授業中、彼女の視線に気づいてないフリをしながら俺は柔軟体操をする。
彼女、体が硬いなあ。長座体前屈で背中を押したら折れてしまいそうだ。
俺は体育の授業は好きだ。
というか俺には自慢できるものが身体能力くらいしかない。
しかし彼女は体育の授業は好きでないようだ。
いや、体育そのものが好きなのではなく……
「よーし、それじゃあ二人組作って、サッカーボールのパス回しだ」
この残酷な言葉。教師はどうして二人組を作らせたがるのだろうか、余ってしまう人間からすれば地獄だというのに。
「おーい、俺と組もうぜ」
「おう」
まあ、俺は余ってしまう人間ではないので、彼女の気持ちはわからないんだけどね。
友人とボールをパスしながら彼女の様子を伺う。
周りの女子がどんどんペアを作っていく中、彼女はおろおろするばかりで気づけば余ってしまい、はぶてながら俺の方を見始める。
可愛いけれど、何だか可哀想だな。……そうだ。
俺は友人からパスされたボールを、わざと違う方向へ蹴り飛ばす。
「……!」
ボールはコロコロと転がって、彼女の足元でピタッと止まった。
「ごめーん、ボール取ってくれない?」
「……! ……♪」
彼女の方を向いてそう言うと、彼女は嬉しそうにボールをこちらに蹴ってくる。
その後も友人とパス回しをしながら、時々わざと彼女の方にボールを蹴ってその都度取ってもらう。
「お前運動神経いいのに、コントロールないんだな」
友人に呆れられるが、実際には針に糸を通すような正確なコントロールで彼女にパスを回しているのだ。
「よーし、体も温まってきたとこで、試合すっか。とりあえず女子からな」
教師の号令により女子が集まり、クラス対抗で試合が始まる。
サッカーは11人でやるもの。
残念ながら、彼女はスタメンには出れずにベンチ入りだ。
試合中、自分のチームの応援をせずに彼女はこちらを見ている。
恥ずかしいなあ、もう。
途中で交代が告げられ、彼女はグラウンドの中に入る。
しかし試合に集中せず、こちらをちらちらとみてばかり。
駄目だよ、真面目にやらないと。
俺は隣にいる友人に、わざとらしく、彼女に聞こえるような声で話しかける。
「真面目にスポーツしてる女の子って、可愛いよな」
「んあ? まあ、そうだな」
友人と会話しながら彼女の方を見ると、何やら闘志に燃えていた。
それからの彼女は人が変わったように試合に集中。
まあ、試合に集中したから活躍できるかといったらそれは別問題。
最後まで見せ場はなかったけれど全力で走り回って汗だくでくたくたな彼女の姿、本当に可愛いと思うぜ?
さて、次は俺の出番か。
彼女も俺に良い所見せようと頑張ってくれたんだし、俺も頑張るとしますか。
俺はミッドフィルダーとして出場。攻撃的な相手チームに最初は防戦一方だったが、
中盤になり相手に疲れの色が見え始めると俺はスキをついてボールを奪い、敵陣へと突っ込む。
「……! ……!」
チラリと彼女を見ると、何だかものすごく目をキラキラさせていて興奮していた。
彼女の期待に応えるべく、強引なドリブルで敵をかわし、全力シュートを放つ。
バァン!
「……〇×△□」
彼女の顔に。
静まり返るグラウンド。
顔に思いきりボールをぶつけられた彼女はそのままバタリと倒れる。
不幸にも先ほどまで彼女にボールをパスしていた俺は、体が自然と彼女にパスする事を覚えてしまい、シュートの時にそれを発揮してしまったのだ。
男子からはお前何やってんだよ、女子からはサイテーと次々詰られて俺の精神は危険な領域。
女の子の顔にボールぶつけるなんて、もうこれは責任を取るしかないんじゃないだろうか、婚約を申し込もうと混乱していたが、
「……♪」
彼女はムクリと起き上がる。外傷は見当たらず、それどころか恍惚とした顔だ。
彼女、マゾなのかな……?




